幼い頃、日曜日の朝は父の隣に座って「日曜美術館」を視るのが習慣だった。父はいつもにこにこと番組を楽しんでいた。
あたしは、そんな父の様子を見ているだけで嬉しかった。番組の内容は解らなかったけど。
その日は、筆を口にくわえて絵を描く人を特集していた。父は、無言でテレビの画面をじっと見つめていた。いつもと違う父の横顔を、あたしはじっと見つめた。その光景は、あたしの中に記憶された。
数十年が経ち、旅の途中で見つけた美術館に 立ち寄った。エントランスでは「日曜美術館で特集されました」の映像が流れていた。 あの日の「日曜美術館」だった。 筆を口にくわえて絵を描く人 それは、星野富弘さんだった。
あの日、父は何を思っていたのだろう。 戦地にあっても絵を描くことをやめなかった父は、同じ"絵を描く者"として星野さんをどのように見ていたのだろう。 今となっては確かめる術はない。
父の本棚には、今も星野さんの詩画集が遺されている。 星野富弘さんの訃報に際し、父との思い出をくださったことに感謝をこめて。
←実は、富弘さんのように口で絵を描く人々はたくさんいるんです。彼らの絵は「口で描いた絵」というサイトに収録されています。
葉羽
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