こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。
愛と嫉妬と欲望が絡み合うーーー
極上のミステリー・クルーズへ。
アガサ・クリスティー「ナイルに死す」の三度目の映像化『ナイル殺人事件』をケイコと観てまいりました。
”映像化”と言うのは、1978年のピーター・ユスティノフ主演の映画化に続き、2004年、イギリスのTVシリーズ『名探偵ポワロ』でもこのエピソードが採り上げられたため。
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ナイル殺人事件
(C)2022 20th Century Studios. All rights reserved
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クリスティ原作のミステリと言えば、『そして誰もいなくなった』など、登場人物全員が死んでしまったり、登場人物全員が犯人であったり、はたまたポワロの活躍を記述する語り手自身が犯人であったり、まさにそれまでの推理小説の常識を覆す作品が多い中、今作ではどのようなサプライズが用意されるのか。
探偵役はもちろん”灰色の脳細胞”、世界一の名探偵を自称するエルキュール・ポワロ。さて、今回の殺人鬼は誰!?
愛の数だけ、秘密がある。
うむぅ、このキャッチコピー、かなり核心に迫っちゃってるけど大丈夫か(笑)
映画の冒頭の場面はナイル川のクルーズ船・・ではなくて、1914年の第一次世界大戦下の連合軍側最前線。
若き日のポワロが所属する部隊に、前線に立ちはだかる敵の砲兵隊を撃破するための決死隊として突撃命令が下る。
隊長は部下を集めて最後の激励を行い、夜明けとともに煙幕に紛れて進軍する作戦を告げる・・と、そこでポワロが進言する。
「煙幕を張るなら今です。間もなく風向きが変わります。」
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ナイル殺人事件
(C)2022 20th Century Studios. All rights reserved
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ポワロは、風向きが変わる直前、必ず鳥たちが飛び立つのを観察していたのだ。そしてまさに今、鳥たちが飛び立とうとしていた。
ポワロの作戦により、決死隊は最小の犠牲でミッションを遂行することが出来たが、隊長は敵の罠にかかって戦死。ポワロも爆発に巻き込まれて気を失う。
気付けば医療テントのベッド。そこに恋人のカロリーヌが訪れる。「来てほしくなかった」とポワロ。彼は顔面に大きな傷を負っていたのだ。
「そんなこと何でもないわ。傷を隠せるように口髭を蓄えればいいのよ。」
かくして、エルキュール・ポワロのトレードマークである”口髭”が生まれることとなる。
名探偵エルキュール・ポワロ
時は流れて1937年。
世界的な名探偵として名を馳せるようになったポワロは、とあるナイトクラブでジャクリーン(エマ・マッキー)とサイモン(アーミー・ハマー)のカップルを目にする。
ジャクリーンは、そこに訪れたかつての同級生であり現在は莫大な遺産を相続して大富豪となったリネット(ガル・ガドット)に自分たちの婚約を披露する。
大富豪のリネット
「私の親友と踊ってあげて」とジャクリーン。
踊り出すリネットとサイモン。しかし・・踊っているうちに怪しい雰囲気に。
こっ、これはっ!? もしかするとこの二人、意気投合しちゃったんじゃないのか。ジャクリーンもその異様な気配を感じて目が険しくなる。
「踊ってあげて」
そして、さらに時は流れる・・。
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ナイル殺人事件
(C)2022 20th Century Studios. All rights reserved
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6週間後、エジプトで休暇を過ごしていたポワロは、せっかくピラミッドとスフィンクスを堪能していたのに、ピラミッドから無粋な凧を揚げる青年に激怒。
抗議しよとすると、何と彼は映画の前作『オリエント急行殺人事件』で同行していた友人のブーク(トム・ベイトマン)ではないか。
彼に母親を紹介され、招かれたパーティに出席してみると、それはあの大富豪、リネットとサイモンの結婚披露祝宴だった。
サイモンとリネット
オーマイガー! やっぱりコイツ、乗り換えたんかい・・と驚くものの、段取りよく粛々と進む披露宴。
ところがそこに”招かれざる客”、かつての恋人ジャクリーンが現れて雰囲気は一変。
(そりゃそうだ・・ってか、どうしてココに!?)
元カノ、ジャクリーン
リネットはポワロに、彼女からサイモンを奪った経緯を説明し、事件が起きないようにとポワロに依頼。
ポワロは、ジャクリーンにサイモンを諦めるよう説得しようとするが、「彼が本当に愛しているのは自分だ」と自説を主張。
「叶わなければ、これでサイモンを殺す」と22口径のピストルを見せる。
いやいやいや、コレ、事件必至だから!!
雰囲気は一変!
やむを得ずポワロはホテルでのパーティを中止させ、関係者ごとクルーズ船に移乗して、祝宴をやり直すことを提案。
いったい、どうなっちゃうんだろ・・。
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さて、仕切り直し!
(C)2022 20th Century Studios. All rights reserved
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クルーズ船に同乗したポワロは、念のために招かれているゲストたちの身上調査を開始。
すると出るわ出るわ、投資で大赤字を出している財産管理人、恋人との仲をリネットに引き裂かれた使用人など誰もが秘密を抱えており、リネットの財産や命を狙って当たり前のくせ者ばかり。
観光の途中で訪れたアブ・シンベル宮殿では遂に事件が発生。リネットとサイモンの二人を上空から落石が襲う。
アブ・シンベル宮殿
ところが、船に戻ると更に問題が発生。あのジャクリーンが、リネット一行の行方を突き止め、同じクルーズ船に同乗して来たのだ。
もはや一行は、互いへの疑心暗鬼でしっちゃかめっちゃか。果たして事件は勃発する。
逆上したジャクリーンが22口径でサイモンに発砲。サイモンは足を撃たれて悶絶。ジャクリーンは取り押さえられ、鎮静剤を撃たれて監視付きの部屋に監禁。
そして翌朝。一人部屋に寝ていたリネットは22口径でこめかみを撃ちぬかれて死んでいた!!!?
半狂乱になったサイモンは、ポワロに犯人捜しを依頼。
しかし、最も怪しいジャクリーンには、一晩中監禁されていたという鉄壁のアリバイが。
いったい、真犯人は誰なのか?
そして、クルーズ船が下船する時には5つの棺桶が運び出されることになる。う~むぅ・・。
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ナイル殺人事件
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エルキュール・ポワロが初登場するのは1920年の『スタイルズ荘の怪事件』。以後、同じスタイルズ荘が舞台となる最終作『カーテン』まで、長編が33篇、短編が54篇、そして戯曲が1篇書かれました。
特に有名なのは、クローズド・サークルの見立て殺人が扱われた『そして誰もいなくなった』でしょうか。
戯曲の1篇は『そして誰もいなくなった』のリメイクで、結末は小説と異なります。
1995年にアメリカ探偵作家クラブが選出した「史上最高のミステリー小説100冊」の本格推理もののジャンルで1位、総合では10位に評価されています。
ほかには『アクロイド殺し』が12位、『検察側の証人』が19位、『オリエント急行の殺人』が41位にランクイン。日本では『ABC殺人事件』も有名です。
クリスティ名作集
掟破りの”語り手が犯人”だった『アクロイド殺し』は、その後、世界中を巻き込んで「フェア・アンフェア論争」を巻き起こしましたが、結局「面白いんだからアリ」という評価が大勢を占めた・・と言っていいでしょうか。
エルキュール・ポワロの造形は、背丈162.5センチメートルの小男で、緑の眼に卵型の黒髪、ぴんとはね上がった大きな口髭がトレードマーク。
この映画の冒頭で”口髭”を始める契機となったエピソードが紹介されていますが、これは映画の完全オリジナルで、原作では言及がありません。
同じ英国の名探偵の先達、シャーロック・ホームズは鋭い観察眼で物証を集めましたが、「そんな事、猟犬じゃあるまいし」と否定するポワロは、容疑者との会話の中から矛盾を見つけ出し、論理を重視するやり方を採ります。
TVシリーズより
意外なのは、これだけ多くのポワロ作品を残しながら、当のアガサ・クリスティは「はじめの3、4作で彼を見捨て、もっと若い誰かで再出発すべきであった」と自伝に書き残していること。
そんなにお気に入りのキャラクターでは無かったのですね。
それなのに何故、書き続けたかというと「出版社などに半ば強制される形で、書かざるを得なかった」のだと、孫のマシュー・プリチャードが暴露しています。
アガサ・クリスティ
一方、映画シリーズついては、同じケネス・ブラナーが主演した2017年『オリエント急行殺人事件』の続編という位置づけが為されており、映画のラストで「ナイルで起きた事件」の解決を依頼されるシーンがありました。
実際は、ナイルに行ってから事件が発生することになるのですが。
また、この映画の演出も務めているケネス・ブラナーは”ローレンス・オリヴィエの再来”とも称される舞台の名優で、シェイクスピア作品を多く演じて来ました。
『TENET/テネット』では悪役も
昨年のアカデミー賞では、自身の自伝的作品『ベルファスト』で7部門にノミネートされ、見事「脚本賞」で受賞を果たしました。
また、主宰する劇団のパトロンはチャールズ皇太子で、2005年にカミラ・パーカーと再婚した時には結婚式にも招待されています。
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ナイル殺人事件
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今回の映画の見所は、何と言っても風光明媚で華麗なナイル川流域の様々な風景でしょうか。
まずは、一行が乗り込むクルーズ船、S.S.カルナック号の豪華な船体と内装。
S.S.カルナック号
”水に浮かぶ荘厳な宮殿”とも言われる客船でのクルーズは圧巻。
デッキの風景はこちら。
S.S.カルナック号のデッキ
さらに、結婚披露宴のシーンが撮影されたアスワンの「オールド・カタラクト」の流麗なたたずまい。
オールド・カタラクト
上空から俯瞰するシーンもあるのですが、この緑に覆われたナイル沿いの地帯のすぐ裏は・・当たり前ですが、どこまでも続く砂漠なのです。
ナイル川という存在がいかに流域に恵みをもたらしているのか、改めて実感させられました。
また、ピラミッドのシーンですが、映画にも出てくるギザのピラミッドというのは、実際は市街地のすぐ近くにあるのですね。
ギザのピラミッドと市街地
そう言えば、cinemaアラカルトその229『最高の人生の見つけ方』で、吉永小百合と天海祐希が訪れたのも同じ場所でした。
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最高の人生の見つけ方
(C)2019「最高の人生の見つけ方」製作委員会
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さて、映画を見終わってケイコとの感想戦。
あの真犯人って、どこからが今回の計画だったんだろ?リネットに接近した時から?
甘いわね、学校で劇の主役を横取りされた話があったでしょ。その時からずっと復讐の機会を窺ってたのよ。女の執念を甘く見ちゃダメよ。
えええ~ 子供の時からかい!!?
はて、その人物はリネット殺害時に鉄壁のアリバイがあったはず。いったいどういう方法で?いや、そもそも本当の犯人では無かったのか??
それは、映画で確認するしかありませんね(笑)
/// end of the “cinemaアラカルト298「ナイル殺人事件」”///
(追伸)
岸波
さらにケイコの感想ですが、ポワロが何かに気付いた時に「あれ?」とか「おや?」という伏線が無く、最後の犯人指摘シーンで一気に全体像を論破するのに合点が行かないと。
うん、確かに”灰色の脳細胞”は全てお見通しだったのでしょうが、途中でまったく説明されないまま一気呵成というのは、置いてきぼり感がありました。
あと、この話の肝ですが、クルーズ中に様々な事件が勃発するのですが、犯人が全部違うというところでしょうか。(言っちゃった!)
なので「真犯人は誰か」とだけ考えて観ていくと、最後で煙に巻かれたようになります。きっと。
一連の事件に見えて、実は多重犯罪。それが『ナイル殺人事件』でクリスティが仕掛けたワナだったのです。だから『愛の数だけ、秘密がある』。(あら~ 全部言っちゃった?)
と、言われても分かんないと思うんだ・・誰が何をしたか。(大笑)
では、次回の“cinemaアラカルト”で・・・See you again !
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