こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。
私たちは、たぶん、
宇宙と地上にひきさかれる恋人の、
最初の世代だ。
新海誠監督の新作アニメ「天気の子」を封切り日の7月19日にケイコと観てまいりました。
これに先立ち、amazon primeビデオで新海誠特集ということで、過去の4作品「雲のむこう、約束の場所」・「秒速5センチメートル」・「星を追う子ども」・「言の葉の庭」がprime会員無料配信されていましたので、こちらももう一度観ることにしました。
「星を追う子ども」だけは、まだ見ていませんが。
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「ほしのこえ」 (2002年)
(C)Makoto Shinkai/CoMix Wave Films
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ということで、本命「天気の子」の配信を送り、今回と次回で新海監督の過去作品、第一作「ほしのこえ」、第二作「雲のむこう、約束の場所」第三作「秒速5センチメートル」と(見ていない「星を追う子ども」を飛ばして)第五作「言の葉の庭」について振り返っておこうと思います。
なお、第六作「君の名は。」はcinemaアラカルト#178で解説しています。
では、まず今回は「ほしのこえ」と「雲のむこう、約束の場所」をお送りします。
◆第一作「ほしのこえ」(2002年)
私たちは、たぶん、
宇宙と地上にひきさかれる恋人の、
最初の世代だ。
最初にこの作品を見た時には衝撃を受けました。
もちろん、宮崎アニメの二三雲とか美しい自然風景はこれまでも日本アニメで描かれて来ているのですが、圧倒的に違うと感じたのは「光と影」の表現。
それまでのアニメでは、本来そこにあるはずの自然の光と影が省略されることが多かったのですが、それが緻密に描写されている。そして美しい。
しかも、「ここは光」・「ここは影」ではなく、現実の風景がそうであるように、光と影の狭間まで丁寧に描かれている…。
これがたった一人の個人で作られたものだと知った時には仰天したものでした。
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「ほしのこえ」 (2002年)
(C)Makoto Shinkai/CoMix Wave Films
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主人公の昇と美加子は小さい頃からの同級生でしたが、美加子は中学三年の時に国際宇宙軍に選抜されて訓練へと。
太陽系はシリウス星系の惑星アガルタに本拠を持つ異星人タルシアンからの侵攻を受けており、国際宇宙軍は決死隊を募って敵本拠アガルタへと向かうことになります。
アガルタへ向かう宇宙船(ふね)の美加子と地上の昇は、ケータイメールで通信を取り合う事に。でもその内容は、戦闘の事などではなく、二人で過ごした故郷の思い出やたわいもない学校の出来事など…。
しかし・・・
死地に赴く美加子と地球の距離が離れるに連れ、メールの到着は数ヶ月・・数年と伸びてゆくのです。
「懐かしいものが沢山ある
例えば夏の雲とか冷たい雨とか
秋の風の匂いとか春の土のやわらかさとか
夜中のコンビニの安心する感じとか
放課後のひんやりした空気とか
黒板消しの匂いとか
夜中のトラックの遠くの音とか
そういうものをずっと一緒に
感じていたいって思っていた」
二人の距離は物理的なものだけではありません。亜高速航行をする美加子はウラシマ効果によって歳をとるのがゆっくりとなり、二人の年齢はどんどん離れていくのです。
ほのかな思いを寄せ合っていた二人にとって、それはまさに絶望的な距離。
メールの到着間隔が伸びて行く中、共通の思い出だけをよすがに互いの心を繋ぎとめておこうとする二人に切なさがこみ上げます。
もしも万一、タルシアンとの絶望的な戦力差を克服できたとしても、帰還する頃には二人の年齢が親子ほどに開いてしまうでしょう。
この作品でもう一つ衝撃的だったのが、未来の話でありながら、二人が過ごした田舎の風景は現代の…いや、むしろ昭和の田舎町のようです。
宇宙戦争は背景の一つに過ぎず、テーマとなっているのは日常の大切さ、切ないほどの純愛です。しかもそれは、決して成就されることの無い運命・・。
現代の恋愛小説やコミックでも悲恋が描かれたものは数多くありますが、やはりそれは現代の感覚でのもの。僕ら世代が上の者にとっての感情移入には限界があります。
しかし「ほしのこえ」の作品世界に触れると、忘れていたはずの十代の感情が蘇り、切なくて悲しくて身の置き場がない気持ちにさせられました。
新海誠のデビュー作となる同作品は、第6回文化庁メディア芸術祭特別賞をはじめ数々の賞を受賞しました。
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太陽系からシリウスまで8.6光年…。その長い旅を終え、美加子ら国際宇宙軍の決死隊はアガルタに到着します。
◆allcinema ONLINEの解説から引用
個人制作でありながらもクオリティの高いフルデジタルアニメーション。制作者の新海誠は本作をMacたった1台で作成したという。長峰美加子と寺尾昇は仲の良い同級生。中学3年の夏、美加子は国連宇宙軍の選抜に選ばれたことを昇に告げる。翌年、美加子は地球を後にし、昇は普通に高校へ進学。地球と宇宙に引き裂かれたふたりはメールで連絡を取り続ける。しかしメールの往復にかかる時間は次第に何年も開いていくのだった。美加子からのメールを待つことしかできない自分に、いらだちを覚える昇だったが…。 |
◆第二作「雲のむこう、約束の場所」(2004年)
あの遠い日に僕たちは
叶えられない約束をした。
もう一つの戦後の世界。20世紀末、日本は分割統治され、本州から南は米軍統治下に、北海道(エゾ)は共産国家ユニオンの支配下にありました。
ユニオンは北海道の中心に天まで届くかと思われる純白の白い塔を建設。青森に住む高校生の浩紀と拓也は、いつかあの塔まで行こうと山の廃駅の格納庫で自作機ヴェラシーラの制作に取り掛かります。
二人だけの秘密のはずが、ひょんなことから同級生の佐由理に気づかれてしまい、二人は「いつか佐由理をあの塔まで連れて行く」という約束を交わします。
ある日佐由理は「白い塔」が夢の中に出現。その日以来、佐由理は姿を消してしまいます。落胆した二人は、ヴェラシーラの制作を放り出してしまう…。
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「雲のむこう、約束の場所」 (2004年)
(C)Makoto Shinkai/CoMix Wave Films
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この作品で取り上げられているのは並行世界。
人間の脳には夢の中で並行世界を感知する能力があり、そのことで未来予測が可能(という設定)。ユニオンが建設している「白い塔」は、その能力を大幅に増強したマシーンで、未来予測を軍事的に利用するためのもの。
しかし、建設途中で何らかの不具合が生じたらしく、塔の周囲に並行世界が流れ込んで上書きが始まります。このままでは、この宇宙は消滅してしまう…。
その塔の侵蝕が一定の時点で止まります。実は、これをとどめて居るのは佐由理の夢。
浩紀は、心を失って永い眠りについている佐由理の居場所を突き止め、夢の中で彼女と邂逅しますが、話しかけることはできません。
「佐由理の心を取り戻すためには、あの約束の場所に連れて行かなければならない」…浩紀は決心し拓也に協力を求めることに。
この映画で主人公の男子二人は、大きな決断を迫られることになります。
もし佐由理が心を取り戻して目覚めれば、暴走した塔のストッパーが外れ、この宇宙は並行世界に呑み込まれて消滅してしまうのです。
「佐由理を救うのか、それとも世界を救うのか」
その決断の重さを二人ともが認識しているのです。これはもう、どう考えてもバッド・エンディングしか有り得ない…。
「ほしのこえ」では、周りの状況に引き裂かれてしまう運命の二人でしたが、「雲のむこう、約束の場所」では、どちらかの破局を選び取らねばならない。まさに究極の選択。
これが新海監督の持ち味なのでしょうか。恐ろしい。う~むぅ・・。
ただ、この話でも「並行世界流入による世界の消滅」というサスペンスはありますが、焦点が当てられているのは三人の関係性。
本当にどうしようもない世界の中で、最愛の人と友情を取り戻す物語。僕にはそう感じられました。
そして、この映画で特筆すべきことがもう一点。
「ほしのこえ」は25分の掌編ながら、新海誠監督が一人で制作した作品でしたが、こちらは制作スタッフを充実させて臨んだ初の長編作品。
その中で、主題歌「きみのこえ」など作曲家天門を起用した音楽とのマッチングが高く評価され、同じ年にリリースされた宮崎駿監督の「ハウルの動く城」を抑えて第59回毎日映画コンクールアニメーション映画賞を受賞しました。
現在は、二作続けてRADWIMPSとコラボしている新海監督ですが、彼が音楽の重要性に初めて気づかされた作品かもしれません。
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やがて、米軍がユニオンに対して宣戦布告。拓也はヴェラシーラを完成させ、浩紀は病院から連れ出した佐由理(の身体)を助手席に乗せて、「約束の場所」へ向けて飛び立ちます。
◆allcinema ONLINEの解説から引用
たった一人で作り上げたフルデジタルアニメ「ほしのこえ」で鮮烈なデビューを飾った新海誠監督の初長編アニメーション。日本が南北に分断された戦後というもうひとつの世界を舞台に、謎の病にかかった憧れのヒロインを救うため、2人の少年が奮闘する姿を描いた青春冒険ストーリー。声の出演は吉岡秀隆と萩原聖人。 戦後、日本は津軽海峡を挟んで南北に分断された。米軍統治下の青森に暮らす2人の少年、ヒロキとタクヤ。彼らは2人とも同級生のサユリに憧れを抱いていた。そんな2人はある日、津軽海峡の向こう側、ユニオン占領下の北海道に建設された、謎の巨大な“塔”を見ながら、いつか自分たちの力であの塔まで飛ぼうと約束、小型飛行機を組み立て始めるのだった。ところが中学3年の夏、サユリが突然東京に転校してしまう。虚脱感に襲われた2人はいつしか飛行機作りも投げ出してしまい、高校進学を境に別々の道を歩み始めるのだったが…。 |
いかがでしょうか。まさに世に言われる「新海流バッド・エンディングの法則」そのもののストーリー(笑)
でも、本当は「そうではないのでないか」という私見を次のcinemaアラカルト223「秒速5センチメートル+言の葉の庭」の最後に書いておきました。
最終エンディングがどうなるかというネタバレもありますので、ご興味ある方はどうぞ♪
/// end of the “cinemaアラカルト222「ほしのこえ+雲のむこう、約束の場所」”///
(追伸)
岸波
新海作品には色々なSFの要素・・亜光速航行によるウラシマ効果(「ほしのこえ」)であったり並行世界(「雲のむこう、約束の場所」)であったり、タイム・スリップ(「君の名は。」)などが登場しますが、それらは全て物語の背景の一つに過ぎません。
主人公たちの周りの風景は、未来・SFテーマにも関わらず極めて日常的。それは離島の学校であったり、田んぼのあぜ道であったり、忘れ去られた廃駅であったり…。
通常、未来的な話の日常風景は、見たこともないガジェットが登場したりするものですが、新海作品では我々にも身近な当たり前の日常が描かれている…つまり、未来でありながらノスタルジック。ここが大きな特徴でしょう。
そして、主人公の大半は15歳くらいから20歳前後の多感な若者たち。
彼らは、人との繋がりを築こうとする中で葛藤し苦悩する…誰もが経験する、あるいは経験したはずの懐かしい感情を呼び起こさせてくれます。
さらに大きな特徴は、決して単純なハッピーエンドには繋がらないという事。
ここは、ストーリーにカタルシスを求める人からすれば悩ましい限りでしょうが、現実の世の中、そう簡単に収まるものではないでしょう。
つまり「挫折」が隠れテーマになっている。
そうした挫折の次に、人間はどう進んでいくのか、それを新海監督は問いかけているのではないでしょうか。
彼が描くのは紛れもない「人間」の物語なのだと思います。
では、次回の“cinemaアラカルト”で・・・See you again !
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To
be continued⇒ “cinemaアラカルト223” coming
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