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「AUTUMN」(Music Material)

by 岸波(葉羽)【配信2016.9.28

 

◆この記事は作品のストーリーについて触れています。作品を実際に楽しむ前にストーリーを知りたくない方は閲覧をお控えください。

 こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。

 まだ会ったことのない君を、探している

 新開誠監督最新作『君の名は。』を観に行ったのが公開初日の8月26日(金)。

 会場はすでに満席近くになっておりまして、僕たち夫婦が初めて「別々の座席」で鑑賞することになってしまった記念すべき作品となりました。(前・後ろですけど。)

 さて、その後も快進撃は止まりません。本日(9/28)のネットニュースで見ましたところ、9/25までの累計で観客動員数が850万人、興行収入で本年度最高の111億6千万円を突破したとのこと。オメデトウございます。(パチパチパチ!)

君の名は。

(C)2016「君の名は。」製作委員会

 ということで、まずは歴代興行収入について調べてみたいと思います。

 Wikipediaの「日本映画の歴代興行収入一覧」(2016.9.28閲覧)によりますと、歴代順位は以下の通り。

順位 作     品 配給会社 公開年度 興行収入
1 千と千尋の神隠し 東宝 2001年 304億円
2 ハウルの動く城 東宝 2004年 196億円
3 もののけ姫 東宝 1997年 193億円
4 踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ! 東宝 2003年 173.5億円
5 崖の上のポニョ 東宝 2008年 155億円
6 風立ちぬ 東宝 2013年 120.2億円
7 南極物語 東宝 1983年 110億円
8 踊る大捜査線 THE MOVIE 東宝 1998年 101億円
9 子猫物語 東宝 1986年 98億円
10 借りぐらしのアリエッティ 東宝 2010年 92.5億円

 さすがジブリは凄い。トップ10の過半である6作がランクイン。第一位の「千と千尋の神隠し」に至っては何と304億円。うむむむむ…。

 そんな中で「踊る大捜査線」が2作ランクインして健闘していることにビックリですけれども…。

 で、先般の『シン・ゴジラ』がどんなふうかと言いますと、9/6までで累計動員数420万人、累計興行収入が61億3千万円で、平成ゴジラシリーズ以降では最高の動員数となったものの、残念ながらトップ10では圏外。

 しかあしっ!! 

 …今回の『君の名は。』は上述の成績により、『南極物語』までを抜いて歴代7位に躍り出たのでございます。

 KADOKAWA出版によれば、関連書籍の売り上げも好調で、原作である新開誠作『小説 君の名は。』(角川文庫)は9/26現在で110万部を売り上げ、『公式ビジュアルガイド』など関連本を含めると200万部超えの大ヒットとなっているとのこと。さぞや、笑いが止まらないことでしょう。

 ちなみに9/26にツイッターに投稿されたmoviewalkerの「元編集長の映画便り」さんによれば、洋画を含めた日本での興行収入ランキングは以下。

 ここでも『君の名は。』は堂々20位にランクインでございます。もはや今年の映画界の「事件」と言っても過言ではありますまい。

 では2016年の日本映画界に「事件」を起こした新開誠監督の『君の名は。』、いかなる映画であったのか?

 

 さて映画のストーリーですが、千年に一度地球に大接近するという彗星の到来が1か月後に迫る中、湖のある飛騨山中の町の女子高生三葉(声:上白石萌音)は不思議な夢を見ます。

 夢の中では見も知らぬ東京四谷の男子高生瀧(声:神木隆之介)の身体になり代わっており、三葉は男子高生瀧として、いやにリアルな一日を過ごすことになるのです。

 一方、瀧の方でも眠りと同時に山奥の女子高生三葉として目覚め、こちらは女子高生三葉としての暮らしを堪能(笑)します。

君の名は。

(C)2016「君の名は。」製作委員会

 いや~よくありますよね、こういう話。映画『転校生』もそうだったし、最近読んだkindle漫画の『山田くんと7人の魔女』もそうだったし(面白かった!)、古くは平安時代の『とりかえばや物語』などという奇書もありますし。

 男子が女子の中に入ってドキドキしながら自分の身体を確認するという“お約束”のギャグも盛り込まれ、「なんだ、新開誠って作風が変わったのか?」と思わせる導入。う~むぅ…。

 新開誠氏と言えば、2002年に監督・脚本・作画・編集などをたった一人で(そしてMac一台で!)行ったフルデジタルアニメ『ほしのこえ』でデビューし、いきなり新世紀東京国際アニメフェア21公募部門で優秀賞を受賞。そのほか星雲賞など幾多の賞を受賞したアニメ界注目の新鋭でした。

 その後も2004年の『雲のむこう、約束の場所』や2007年『秒速5センチメートル』などを発表し、僕としても「すごい才能が現れたな…」とチェックしていたアニメ作家だったのです。

 彼の作品の特徴は、ともかくも絵が緻密で美しいこと。特に「光と影」を効果的に画面に投入したリアルで詩情あふれる映像が身上。

 一方、彼の作るストーリーは、例えば『ほしのこえ』の場合、そのテーマはキャッチコピーに端的に表現されています。

「私たちは、
 たぶん、
 宇宙と地上にひきさかれる恋人の、
 最初の世代だ。」

ほしのこえ

(C)新開誠

 この作品でまだ学生である恋人たちの片割れ(女性の方)は、地球の平和を脅かす異星人軍団を迎え撃つため、恒星間宇宙船に乗り組んで死地へと向かいます。

 到着までの間、二人は携帯メールで会話を続けるのですが、二人の距離が離れるにつれメールが届く間隔は数か月、一年、そして片道7年以上へと長くなって行くのです。

 通信の内容は、たわいのない日常の出来事、二人過ごした思い出、そして諦観…どんどん離れて行く二人の距離は、二人の心に影を落として行きます。そして…

 う~ん、なんて切ないんだ…。

 ~このあらすじだけでお判りでしょう。とても深く重いテーマ。そしてハッピーエンドになるとは限らないのです。

 ああそれなのに、それなのに… もしかして『君の名は。』って、心機一転のギャグ・アニメ!?(と、最初は思った。)

 三葉と瀧の入れ替わりは「単発」ではなく、その後も頻繁に繰り返されることとなります。さすがに二人も「これはおかしいぞ」と気づきます。

「心と身体の入れ替わり」が「夢」ではなく「現実」の出来事でないかと考えた二人は、互いの持ち物やケータイにメッセージを残し、入れ替わりが解けても支障が無いようにします。

君の名は。

(C)2016「君の名は。」製作委員会

 しかし、二人の心と身体の入れ替わり生活は突然終りを迎えます。

 動揺する瀧。…そう、ここからしばらく三葉が登場しなくなります。何故!?

 もちろん瀧も思います。「三葉の身に何かが起こったのではないか?」

 突然、トーンが暗転し、サスペンスを孕むストーリー。

 その謎を解明するために、瀧は三葉になり替わっていた時の記憶を元にスケッチ画を描き、彼女の住む山里を探し当てる旅に出る事にします。同行するのは二人の仲間。

 果たして… 探し当てた三葉の里は、現在は存在していないことが判明。そうです…数年前彗星が地球に接近した時に、その一部が崩壊し、三葉の里を直撃していたのです。

 500人以上が犠牲となったその大厄災の犠牲者名簿を探す瀧。そこには、最もあってほしくない名前が…「宮水 三葉(みやみず みつは)」と。

 オーマイガッ!!!

君の名は。

(C)2016「君の名は。」製作委員会

 やられました。やはり新開誠。常にこちらの意表を突いて来ます。

 頭が混乱しました。二人の「入れ替わり」は何だったのか? 既に存在していない世界の人間と入れ替わるなんて…。

 それと同時に、このストーリをどうやって収束させるのかと…。

 つまりこの話は「入れ替わり」+「タイムスリップ」。

 そう気づいたとき、ふいに『星の時計のLiddell』という作品を思い出しました。1982年から『ブーケ』誌に連載開始された内田 善美による幻惑的な名作です。

 主人公ウラジミールの友人ヒューは、眠りの中で繰り返して同じ夢を見ます。どこか古い洋館で少女に出合い「すてきな月夜ね、幽霊さん」と言われるのです。

 あの洋館は実在するのではないかと考えたヒューはウラジミールと共に探索を始め、実際に見つけ出してしまうのです。しかし…隣家の住人に聞くと、少女を含む洋館の住人たちはずっと前に死んでいることが分かるのです。

『星の時計のLiddell』

(内田善美)

 それでも少女に再会したいヒューは眠りの時間を繰り返し、どんどんやせ衰えて行きます。彼の身を心配するウラジミールですが、ヒューはやめようとしません。

 そんな中、ウラジミールは(現代の)洋館で思いがけないものを目にするのです。それはヒューが言っていた夢の中の少女が幽霊となって姿を現したのです。そして二人は……

 どうですか、似ているでしょう? …直接の「入れ替わり」ではありませんが、ヒューと少女(リデル)は幽霊の姿をとって時間軸の違う互いの世界に現れるのです。

 寡作だった内田善美は『Liddell』を最後に、突然、読者の前から姿を消してしまいますが、精緻な画やリリカルで切ないストーリーテリングなど、新開誠に通じるものがあると思います。

 どちらも「天才」ということでしょうか?

 …そう言えば、今日(9/28)は全国的にキンモクセイが咲き揃ったというニュースが流れましたが、『Liddell』の中でもキンモクセイの香りとと共に少女が現れるシークエンスになっていましたっけ。

君の名は。

(C)2016「君の名は。」製作委員会

 話を元に戻しまして… 瀧は以前、三葉になったときに訪れたカルデラの中の神社へと向かいます。「あの神社は破壊されずに残っているはず…」

 それと同時に「入れ替わり」が起きた『理由』を考えます。

「もう一度あの時の三葉と入れ替わり、大厄災から三葉と村の人々を救いたい!」

 さて、入れ替わりは起きるのでしょうか?

 そしてまた、三葉と瀧の運命や如何に!?

 彗星落下と村の滅亡が明らかになってからの展開は、ハラハラドキドキです。

 それと言うのも“新開誠の紡ぐストーリーはハッピーエンドとは限らない”ことが分かっているからです。

  そもそも二人の生きていた時間は違うのですから、仮に成功したとしても『時間軸の改変』? パラレル・ワールド??

 どう収拾を付けようというのか予測不可能。…完全に映画にハマっています。

君の名は。

(C)2016「君の名は。」製作委員会

 映画の挿入曲を担当したのが、4人組ロックバンドのRADWIMPS(ラッドウィンプス)。

 特にテーマソングとなる『前前前世』はいいですねぇ。ドミニクの「懸賞生活」にも登場しましたし、ウチの孫のヒビキがハマっていて、車の中で何度も聞かされました。

 ツイッターの映画評で「RADWIMPSがウザイ」と言うのを見て逆に驚愕。涙が出るくらいシーンにマッチしていましたもの。まあ、これだけ多くの人に映画が指示されたのですから、多くの人は僕の感覚なんだろうと思いますけれど。

 瀧の声優を務めた神木隆之介もよかったですが、彼の実力からすれば“良くて当然”、むしろ三葉の声をやった上白石 萌音(かみしらいし もね)ちゃんの事が気になって「顔」まで探しちゃいました♪

 

 ををを~プリテイ!!!

 彼女は、妹さんと共に第7回東宝シンデレラオーディションにエントリーし、審査員特別賞を受賞しています。(妹さんはグランプリ!)

 主な出演作は『舞妓はレディ』。(第38回日本アカデミー賞新人俳優賞受賞)

 これからは、“素”でいろいろ登場してくれるに違いありません。

君の名は。

(C)2016「君の名は。」製作委員会

 ところで『君の名は』というタイトルは、ロートルの方なら誰もがご存知のように昭和初期のラジオドラマの大ヒット作。

 その放送時間帯になると「銭湯の女湯から人が消える」という伝説が残るほど。

 後に、岸恵子主演で映画化された時(1953年…僕は生まれていません:笑)、主人公の氏家真知子(岸恵子)のストールの巻き方が「真知子巻き」と呼ばれて大流行したとのこと。

 その“伝説の名作”と同じタイトルを用いる必然性があったのか…と、うちのケイコが訝っております。

 でも… あるのです、その必然性。

 実は、彗星が落ちるその当夜、奇跡が起きて出会うはずのない瀧と三葉が直接会うことができるのです。それはきっと「厄災に遭う人々の命を救うため」に許された特別な奇跡。

 その代り… 二人は「あるもの」を失わねばならないのです。ジョジョリオンではありませんが『等価交換』のように…いったいそれは??

君の名は。

(C)2016「君の名は。」製作委員会

 もしも人々の命を救うという更なる奇跡が成就すれば、「時間」が改変される。

 そもそも時間軸の違う二人が入れ替わるという現象が、大厄災を回避するために天から与えられた「チャンス」だったとすれば、「村の滅亡」が回避された時、二人が「入れ替わる理由」も消滅してしまう…。

 そう…二人が入れ替わった「記憶」も、互いを愛した「記憶」も、ナケナシになってしまうのです。

 最後の入れ替わりが起きる時、二人はそのことを理解します。それでも入れ替わらなくてはならない。人々の「命」を救うために。

 だからこそ…

 だからこそ、二人はかけがえのない記憶を失わないために誓うのです。号泣しながら。

「君と出会ったことは決して忘れない。君の名は…三葉!!」

「貴方の名は…瀧!!」

 大切なものを救うために失わなければならない大切なもの。等価交換。その作品のテーマを象徴する言葉が、この、心の叫び…「君の名は」だったのではないでしょうか。

 しかして… 互いに関する記憶は永久に失われます。

君の名は。

(C)2016「君の名は。」製作委員会

 いろいろなことを考えさせる『君の名は。』。二度見、三度見する人も多いと聞きます。

 実は、僕たちも公開三週目にもう一度観たくなり、劇場に再び足を運びました。

 ところが、またもや「満席」だったのです。三週目なのに。大都会じゃなくて田舎の福島ですよ、福島で。←(そゆこと言うな!)

 そして「あの大厄災から人々の命を救うことが出来ていたなら」~そのテーマに深く思いをいたすのもまた「福島人」なのです…。

 もちろん、映画のストーリーはそこで終わりではありません。

 二人は、本当に人々の命を救えるのか? そして二人の運命は…?

 おそらくこの作品は、僕にとっても一生忘れることのできない映画の一つになるでしょう。

 

/// end of the “cinemaアラカルト178「君の名は。」”///

 

(追伸)

岸波

 この映画、最後の最後でもう一回「奇跡」が起きるのです。

 おそらくその結末には賛否両論があったのではないでしょうか。

 でも僕は、それでいいと思います。そうでなければならなかったと思います。

 だから、その「奇跡」が起きるのか起きないのか、最後の最後まで気を抜くことはできません。

 だって、新開誠のストーリーは“ハッピーエンドとは限らない”のですから(笑)

 では、いったい何が?

 それは言う事ができません(大笑)

 

 では、次回の“cinemaアラカルト”で・・・See you again !

君の名は。

(C)2016「君の名は。」製作委員会

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To be continued⇒  “cinemaアラカルト179” coming soon!

 

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