こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。
どれほどの速さで生きれば、
きみにまた会えるのか。
前回に引き続き、新海誠監督の新作アニメ「天気の子」の記事を書く前に、過去作を振り返っておこうという後編です。
今回は「秒速5センチメートル」と「言の葉の庭」。
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「秒速5センチメートル」 (2007年)
(C)Makoto Shinkai/CoMix Wave Films
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「秒速5センチメートル」は2007年に劇場公開された新海誠監督の第三作。3編オムニバス形式の短編集となっています。
また「言の葉の庭」は、2013年公開の第五作。「新海誠監督の初めてのラブストーリー」と呼ばれる作品。
では、早速参りましょう。
◆第三作「秒速5センチメートル」(2007年)
どれほどの速さで生きれば、
きみにまた会えるのか。
「秒速5センチメートル」とは、作品の中で主人公の少女明里がもう一人の主人公である貴樹に語る”桜の花びらが落ちる速さ”。
東京の小学校時代から、二人が栃木と鹿児島で離れ離れに暮らす高校時代、社会人になってからの三つの連作短編集となっています。
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「秒速5センチメートル」 (2007年)
(C)Makoto Shinkai/CoMix Wave Films
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第一話の「桜花抄」では、互いに惹かれ合っていつも一緒にいた小学校6年生の貴樹と明里、その明里が中学校入学と同時に栃木の田舎町へ転校が決まり、二人は文通で繋がることを決めます。
ところが中学校一年の終わり、今度は貴樹が父の仕事の関係で鹿児島の離島に転校しなければなくなり、遠く離れてからは会う事も難しいと考えた貴樹は、最後に一度だけ明里に会うために、一人で栃木へ行くことを決心します。
ところがその約束の日は、関東を大雪が襲い、電車は大幅に遅延。連絡の手段もない二人は、互いに相手の事を思い遣りながら不安の中に落ちて行きます…。
いやぁ、この話も本当に切ない。まるで二人の再会を邪魔するように次々とトラブルが襲う。現代ならいくらでも連絡手段があるでしょうが、二人は相手を心配し自分を責める事しかできない。
スマホや携帯のない時代に青春時代を送った人たちならきっと思い当たる経験があるはず…完全に感情移入して観てしまいました。
ところがこの作品では、上映後に「『秒速5センチメートル』を観てもだえ苦しむ人続出!」という記事がネットを巡ることになりました。
つまり、それほどのバッド・エンディング。
第二話の「コスモナウト」では、転校してきた貴樹に密かに思いを寄せる同級生花苗が視点主人公となるのですが、遠く離れて暮らす明里の事しか頭にない貴樹に対して純情一直線の恋心。
いつも近くに居て優しくしてくれるけど、その眼は自分を見ていない…
「お願い、もう私に優しくなんかしないで!」
この花苗ちゃんの血を吐くような苦しみが痛いほど胸に突き刺さります。
…これもイタイ。
で、最終話の「秒速5センチメートル」は社会人になってからの物語。
大学から東京に戻り、明里と再会してハッピーエンドなのかと思いきや、社会人貴樹の元に届いた一通の手紙。それはなんと明里の結婚式の招待状・・
…って、いや、もうどうしたらいいんでしょうか、この悪夢のような進攻。
もだえ苦しむ人続出…分かります。
こんな事なら最後まで見なければよかった(笑)
確かに現実はそんなもんかもしれません。もしかすると新海監督の原体験がそんなだったのかもしれません。
しかも…
大団円のラストシーンで、もう一段落とされます。オーマイガー。
だけど…
美しい風景とともに映画の様々なシーンが脳裏から離れない。
実に不思議な作品です。
◆allcinema ONLINEの解説から引用
「言の葉の庭」の新海誠による2007年公開の劇場作品で、ひかれあっていた男女の時間と距離による変化を全3話の短編で描いた連作アニメーション。互いに思いあっていた貴樹と明里は、小学校卒業と同時に明里の引越しで離ればなれになってしまう。中学生になり、明里からの手紙が届いたことをきっかけに、貴樹は明里に会いにいくことを決意する(第1話「桜花抄」)。やがて貴樹も中学の半ばで東京から引越し、遠く離れた鹿児島の離島で高校生生活を送っていた。同級生の花苗は、ほかの人とはどこか違う貴樹をずっと思い続けていたが……(第2話「コスモナウト」)。社会人になり、東京でSEとして働く貴樹。付き合った女性とも心を通わせることができず別れてしまい、やがて会社も辞めてしまう。季節がめぐり春が訪れると、貴樹は道端である女性に気づく(第3話「秒速5センチメートル」)。主題歌には山崎まさよしの「One more time, One more chance」を起用した。 |
◆第五作「言の葉の庭」(2013年)
"愛(あい)”よりも昔、
"孤悲(こい)”のものがたり。
第四作「星を追う子ども」を飛ばして今回のラスト、第五作目の「言の葉の庭」です。
下の(↓)allcinema ONLINEの解説に「新海誠監督が初めて手がけたラブストーリー」とありますが、これは新海監督自身が初めての「恋」の物語と語ったとされます。
しかし…
「ほしのこえ」や「雲のむこう、約束の場所」も「秒速5センチメートル」も十分に「恋」の物語だと思うのは僕だけ??
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言の葉の庭 (2013年)
(C)Makoto Shinkai/CoMix Wave Films
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主人公は将来靴職人を目指す高校生タカオ。タカオは、雨が降ると学校をサボりたくなり、雨の景色が見れる新宿御苑のベンチで靴のデザインを考えている。
その同じベンチに時々やって来る女性がいて、彼女ユキノはベンチで朝から缶ビールを明け、じっと雨の庭園を見つめています。
「どこかで会いましたっけ?」
勇気を出して話しかけたタカオにユキノは「雷神(なるかみ)の 少し響みて さし曇り 雨も降らぬか 君を留めむ」と、万葉集の歌を言い残して去って行きます。
その後も何度も同じ場所で出会う二人。いつしかタカオは靴職人という夢を語り、ユキノはある事件から味覚障害になって食べ物の味が分からないという秘密を明かす仲になります。
梅雨が明け、公園に行かなくなったタカオ。
やがて学校で、しばらく出勤していなかった先生が帰ってくると話題になったいます。その姿を視留めると、なんとそれは公園に来ていた女性。
彼女は古文の教師で、担当する三年の生徒に注意を与えたことを逆恨みされ、不良仲間の男子生徒たちに暴行され、メンタルを病んで休業していたのでした。
それを聞きつけ、問題の三年生のグループに会いに行くが、返り討ちにされてボッコボコに。
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言の葉の庭 (2013年)
(C)Makoto Shinkai/CoMix Wave Films
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この映画は雨のシーンから始まりますが、実は全編の70%が雨。池の水面に落ちる雨の描写や緑鮮やかな庭園の風景が実に美しい。
地球を覆う雨そのものがテーマになった「天気の子」も、この情景を受け継いでいるのでしょう。
新海監督が語った「恋」は、紛れもなくタカオに芽生えた感情。そしてその妨げとなるのは、高校生であるタカオと20代後半であるユキノの歳の差…いやむしろ、生徒と教師という間柄でしょうか。
突然の豪雨にずぶ濡れになった二人は、近くのユキノのアパートへ。そこでタカオは得意の手料理を振る舞います。微笑み合う二人。
「今までの人生で今が一番幸せ」
そう感じたタカオに、ユキノから衝撃の一言が。
「私は故郷の四国に帰ります」
えええ~!!?
やっぱり来ましたか、新海流バッド・エンディングのサイン。
そりゃあ、学校で勤務できなくなって仕事もないメンタルも傷んでいるとなれば、大人として当然の判断。
まして、心の奥底ではタカオに好意を抱いているとしても、大人の分別からして元・教え子をそういう対象として見ることは出来ない…。
だけど、まだ「子供」であるタカオにとって、その事情は素直に呑み込めないのです。
「帰ります…」
一言だけ言い残してドアを出ていくタカオ。
茫然として一人佇むユキノ。
やがて…
ユキノは雨の中を靴も履かずにタカオの姿を追って行くのですが…。
◆allcinema ONLINEの解説から引用
「雲のむこう、約束の場所」「秒速5センチメートル」の新海誠監督が初めて手がけたラブストーリー。梅雨の季節に出会った15歳の少年と27歳の女性をめぐるドラマを、アニメーションならではの表現で描く。キャラクターデザインと作画監督は「星を追う子ども」の土屋堅一が担当した。主題歌は秦基博による大江千里「Rain」のカバー。 学校をサボり、公園の日本庭園で靴のスケッチを描く高校生のタカオ。靴職人を目指すタカオはそこで、缶ビールを飲む女性、ユキノと出会う。ユキノはタカオに「また会うかもね。雨が降ったら」と告げ、その場を後にした。こうして二人は約束もないまま、雨の日の公園で逢瀬を重ねるようになる。歩き方を忘れたというユキノのため、タカオは靴を作ろうとするのだったが…。 |
「新海流バッド・エンディング」と書きましたが、よくよく考えてみると、ストーリーに「救い」が準備されている気がして来ました。
「君の名は。」では、記憶を失った二人が街の中で偶然に出会い、どこかで出会っていた気がして「君の名は?」と問いかけるシーンがラスト。
きっと、愛し合った記憶は戻らなくとも、もう一度最初からやり直せるというサインだったのでしょう。
また「ほしのこえ」の後日談では、アガルタで壊滅した国際宇宙軍に生存者が残っている事が分かり、救援部隊が派遣されることになります。
そして、そこに参加することになるのが大人になった昇です。
16歳と25歳という歳の差は、今度は逆に昇が亜高速航行することで、同じ年代に戻るというウルトラCの解決策を暗示していたのではないでしょうか。
さらに「雲のむこう、約束の場所」では、白い塔の破壊に成功し佐由理の心が肉体に戻る代わりに浩紀への愛も記憶もすっかり無くす(←「君の名は。」と同じパターン)のですが、浩紀は「もう一度やり直せばいい」という決意が表情から見て取れます。
あくまでも「そう見よう」と考える観客だけかもしれませんが。なお小説版では極めつけのバッド・エンディングになっていますが、それは別物という事で(笑)
もう一つ「言の葉の庭」には後日談が挿入されており、ユキノが四国へ帰ってから冷静さを取り戻したタカオは、彼女のために作っていた靴を完成させ、いつかそれを持って四国に会いに行くとつぶやくシーンがあります。
もちろん、このそれぞれの「先」が本当にハッピー・エンドに繋がるのか誰にも分かりませんが、その解釈は観客に委ねられたのでしょう。
僕はもちろん「いい方」に解釈します。そういう人間ですから(笑)
ん?? 「秒速5センチメートルは?」って? 実はこれが一番難しい…。
ラストシーン、思い出の踏切でふとすれ違う女性。ん?今のはもしや明里!?
「ここで僕が振り返れば、きっと彼女も振り返るはず…」
踏切を渡り切った貴樹が後ろを振り返ると、それを遮るように電車が横切る。
そして…電車が通り過ぎるとそこに明里の姿はありませんでした。
一瞬、貴樹に笑みが浮かびます。
それを自嘲と観るか、はたまた過去を振り切って、新たな人生の一歩を踏み出そうという決意と観るか…さて、貴方はどちらですか?
/// end of the “cinemaアラカルト223「秒速5センチメートル+言の葉の庭」”///
(追伸)
岸波
過去作を見返すと、それぞれの繋がりがよく見えてきます。
「救い」の代償に大切な記憶を失うというのは「雲のむこう、約束の場所」と「君の名は。」で共通でしたし、「言の葉の庭」の70%が雨のシーンというのは、今回の「天気の子」の地球上の天候が狂い、雨に覆われるというところに繋がっています。
そしてまた「天気の子」は「選択」の物語。
「雲のむこう、約束の場所」では「佐由理を救うのか、それとも世界を救うのか」という究極の選択をしましたが、「天気の子」でも同じ問いが繰り返されます。
意外と同じパターンが多いのですね。
でもご安心ください(笑)
新海監督は「天気の子」について、「この作品はきっと賛否両論になる」という不吉な予告をしているのです。そう簡単には期待通りに行かないのです。
たとえ「選択」は同じでも、全く逆の結果があり得る??
では、次回の“cinemaアラカルト”「天気の子」で・・・See you again !
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be continued⇒ “cinemaアラカルト224” coming
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