こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。
これは---僕と彼女だけが知っている、
世界の秘密についての物語。
さて、前二回で新海誠監督の過去作についてレビューしましたので、いよいよ新作「天気の子」でございます。
前作「君の名は。」の大成功から三年、ついに新海監督が帰って参りました。
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「天気の子」
(C)2019「天気の子」製作委員会
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僕とケイコ一斉封切り日の7月19日に観てきたのですが、戻ってネットを開いてビックリ。
何と、凄い数の「天気の子」長文レビューが公開されているではありませんか。
しかも、通常なら数週間後というのがお約束のWikipediaにまで完全ネタバレの解説がアップされているのです。
うむぅ・・敢えて僕が書かなくてもよくなっちゃったかな。
いかに新海監督の新作が世界の注目を浴びていたかという、まさにその証明。
しかし待てよ… 新海監督が予め予告していた「賛否両論」の件がヘンな方向に行っちゃってる?
ソコじゃないよ、きっと。新海監督が言っていた意味は(笑)
ともあれ、レビューに参りましょう。
映画の冒頭、病室で呼吸器を付けたまま意識の戻らない母親を心配そうに見つめている少女が。
彼女は、この映画の主人公のひとり陽菜(声優:森七菜)。窓の外では降りやまない雨がずっと続いている。
ふと気が付くと、天から一条の光が。その光はとあるビルの上を照らし続けている。
陽菜は病院を抜け出して、その光が導くボロボロの廃ビルの屋上に上がり、そこで鄙びた神社の祠を見つけます。
廃ビル屋上の祠
思わず、母の無事を強く願い鳥居をくぐると…
突然、陽菜の身体は中空へと巻き上げられ、遥か雲の上に。そこで彼女は、雲の上に広がる大草原と透明な魚たちが空を泳ぐ奇跡の風景を目にします。
夢か現(うつつ)か…
陽菜はこの時、「天気の巫女」として気候を操る能力を得たのです。
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「天気の子」
(C)2019「天気の子」製作委員会
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一方、神津島の高校生帆高(声優:醍醐虎汰朗)は、家出をして東京へ向かう途中、乗っていた客船が暴風雨に襲われ、あやうく甲板から滑落しそうになったところを須賀という男(声優:小栗旬)に救われる。
「向こうで何か困ったことがあれば連絡くれよ。」
と、受け取った名刺によれば、須賀は雑誌の出版に携わっているらしい。
東京でネットカフェ暮らしをしながらYAHOO!知恵袋でバイト先を探す帆高ですが、そんな都会は甘くない。
たちまち喰い詰めて都会を彷徨う帆高。街角の電光掲示板には「盗まれた拳銃が行方不明」とのニュースが。帆高は、ひょんな事からその拳銃を入手することになり、本物とは思わずリュックにしまい込むのでした。
こんな二人が運命に導かれて出会い、世界の運命を握ってしまうという大事件に発展するのですが、今作も新海誠監督の映像美術は健在。
「雨」を描く巧みさは「言の葉の庭」で実証済ですけれど、あの映画では全編の70%が梅雨時の雨。今回の2021年の東京は数カ月にわたって晴天がなく雨続きの毎日ということで、得意分野全開というところでしょうか。
そして、飛び切り美しい風景が二つ。
一つは、序盤で陽菜が雲の上の異世界に迷い込む情景。虹色に輝く透明な魚群が空中を飛翔するシーンは圧巻でした。
中盤でももう一つ。天気を操る陽菜の特殊能力を活用し、帆高と陽菜は注文通りに晴れ間を呼び寄せる「100%の晴れ女」というお天気ビジネスを始めるのですが、その依頼の一つとして、神宮外苑の花火大会を成功に導きます。
この花火大会の見せ方は、まずこれまで誰も考えなかったアングル。「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」という映画がありましたが、この映画ではサーフィンをするように、花火の中を移動するのです。
ドローンで、花火の中を移動する感覚でしょうか。
この発想には脱帽。さすが映像の魔術師。
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「天気の子」
(C)2019「天気の子」製作委員会
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また、これまでの作品と比較して、主人公たち以外にキャラ立ちしている脇役が多数登場するのも特徴の一つ。
その一人目は、帆高君を雇ってくれた須賀編集長。
声が小栗旬そのものだという当たり前の事にクレームを付けている人を見かけましたけれど、そこは突っ込むところだったのでしょうか(笑)
そもそも俳優さんは、色々な役になり切って演技するものですが、持って生まれた顔かたちや声などは、そうそう変えようがありません。(肉体改造はあっても)
須賀編集長は、陰になり日向になり帆高君を応援してくれますが、個人的事情で限界があることも。それでも、そうした事情をかなぐり捨てて、最後に帆高が陽菜に会いに行くための最後の一押しをしました。
二人目は、陽菜の小学生のオマセな弟、凪(声優:吉柳咲良)君。
穂高よりも遥かに恋愛経験が豊富で、穂高と最初にバスに乗り合わせた時に、後ろの席で彼女とイチャイチャ。
ところが、その彼女が下車して別の女の子が載って来ると、今度は彼女とイチャイチャ。いやいや”港みなとに女あり”の船乗りみたいなイケメン少年(笑)
その恋愛経験豊富さから、年下にもかかわらず穂高から「先輩」とあだ名されている。
陽菜の生還を帆高に託すため、保護された児童相談所から脱走してまで、帆高を応援します。
三人目は、須賀編集長の姪で雑誌「ムー」の出版を一緒に手伝っている夏美(声優:本田翼)。
彼女は、帆高が最初に須賀編集長の会社(と言ってもボロ屋のワンルーム)を訪れた時、そこに居たグラマーで色っぽいお姐さん。
須賀編集長との関係を聞かれた時に「君の想像どおりだよ♪」なんて返したもんだから、「愛人」だと思い込まれてしまいます(笑)
と、まあ、こんなユニークな取り巻きたちが帆高と陽菜に関わってくるのですが、それぞれの性格や事情が緻密に設定され、重要なセリフや行動が割り当てられてキチンとストーリーのピースに嵌まっています。
この辺り…主人公達だけに焦点を当てた初期の作品で「セカイ系」と揶揄された事を意識しているのかもしれません。
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「天気の子」
(C)2019「天気の子」製作委員会
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さて、運命の巡り合わせで行動を共にすることになった帆高と陽菜ですが、天気を操れる陽菜の特殊能力を活用して「100%の晴れ女」というお天気ビジネスを始めます。
フリマを開催するために台場に天気を呼び込む事に成功したのを皮切りに、神宮外苑の花火大会など次々と依頼が殺到。
人に喜ばれる仕事の満足感に有頂天になった二人ですが、そんな中、夏美が神社の神主から聞いたという不吉な話を伝えます。
「天気の巫女は人柱。天気を呼び寄せる代わりに自分は天に召されてしまう。」
うむぅ・・。
連続する仕事に疲れが見えていた陽菜でしたが、陽菜自身は、その話に腑に落ちるところがあるような素振り…。
お天気召喚
そしてもう一つ。
実は、帆高が陽菜に出会ったとき、陽菜が街のゴロツキに絡まれているのを目撃し、それを助けようと諍いになった時に、誤って持っていた拳銃を発砲するという事件を起こしていたのです。
既に銃は捨てているのですが、警察はその犯人について捜査をしており、次第に捜査の手が二人の身辺に迫っていました。
事態は暗転。
果たして帆高は逃げ切れるのか。はたまた天気の巫女の運命は?
お天気ビジネスの依頼者の中には意外な人物も登場します。
連れ合いの初盆を晴れにして迎えたいという立花富美(声優:倍賞千恵子)という名の老婆から依頼を受け、二人はその家を訪れます。
天気を呼び寄せることに成功し、老婆が感謝をしている時に、老婆の孫がスイカを切って持ってきます。ん?どこかで見たような…。
その人物は、何と立花瀧! そう、「君の名は。」の主人公です。
なるほどね、こういう趣向もあったんですか。
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「天気の子」
(C)2019「天気の子」製作委員会
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この瀧ばかりでなく、「天気の子」には「君の名は。」の登場人物たちが多数、カメオ出演します。
瀧の祖母立花富美の願いを叶えた後、瀧は帆高や陽菜にお礼を言うと同時に彼らの年齢を訪ねます。
すると陽菜は間もなく誕生日を迎えて18歳になると言う。
瀧「それはプレゼントをあげなきゃだね。」
このプレゼントの指輪を買いに行った宝飾店の店員が、瀧の彼女である三葉だったのです。
三葉
あらららら・・コレって瀧の三葉への営業協力?(笑)
ま、そんなゲスな冗談はヤメにして、この他にも三葉の妹の四葉、三葉の同級生のテッシー(勅使河原)とサヤちん(早耶香)の名もエンディング・クレジットにありました。
四葉
テッシー
サヤちん
僕は映画の中では出演シーンに気づかずスルーしてましたが、考証サイトには既にどのシーンに出ていたか書かれているので、興味のある方は探してみて下さい。
で、もう一つ… 瀧と三葉の登場シーンが別々だったので気づかなかったのですが、実は立花富美お婆ちゃんの家のシーンで、瀧と三葉が一緒に写っている写真があったのだそうです。(ええ~)
つまりは、「君の名は。」の二人は、記憶を失ったマッサラからやり直して、めでたくゴールインしていたという事。おめでとー!(パチパチパチ!)
新海監督が「君の名は。」のラストシーンで暗示した『救い』が見事に結実していたのですね。よかったなぁ。
前号で書いたように「新海流バッド・エンディングの法則」はむしろその後に『救い』を示すためにこそあるという解釈で良さそうです。
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「天気の子」
(C)2019「天気の子」製作委員会
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もう一つ、音楽を担当したRADWIMPSの件について。
彼らは前作の「君の名は。」から音楽を担当し、曲の方でもメガヒットを放ったわけですが、今回は挿入曲が一曲増えて「愛にできることはまだあるかい」・「グランドエスケープ」など5曲を歌っています。
ただ「君の名は。」では、『曲が台詞に被って聞きづらい』という意見があったように思います。
RADWIMPS
今回も同じ非難をネットに書き込んでいる人を見かけますが、僕は格段に工夫されて改善したと思いました。
どういう改善かと言いますと、シーンの背景に曲を被せるのではなく、むしろ曲が入る部分では曲をメインに出し、台詞無しの動画を組み合わせて、歌詞で解説させるというふうに変えてあるのです。
これは、新海監督がRADWIMPSの野田 洋次郎氏と2017年8月頃からミーテングを重ね、綿密に構築した成果でしょう。
新海氏はRADWIMPSの「愛にできることはまだあるかい」の歌詞を聞いて、むしろストーリーをそれに合わせたと言っていますから、見事な共同制作と言えるでしょう。
また今回は、映画の封切りに合わせて各メーカーの大々的なコラボ・キャンペーンが展開されました。
LOTTE
これまでのアニメ映画では、実在の商品を避けて独自の商品デザインとネーミングで描かれましたが、全く逆を突いたワケです。
例えば、須賀編集長の事務所にあるボトルは「伊右衛門」や「天然水」。
帆高がネット検索するときは必ず「YAHOO! 知恵袋」、お腹がすいて食べるのは「チキンラーメン」という具合。
天然水
大きなものから小さなものまで、帆高たちが生活する世界は、当たり前のリアル社会そのままです。
各メーカーがテレビCMなどでキャンペーンを張ることで映画の広報にも繋がるという…まさにWINWINの関係です。
近年、こうした映画とメーカーのコラボ・キャンペーンは洋画を中心に始まっていましたが、これほど大々的にタイアップしたケースは初めてではないでしょうか。
映画の主人公たちが僕たちと同じものを飲み食いしていることで、むしろリアル感が出て、スクリーンに出てくる「リアル商品」を見つけるのが楽しくなったほどです。
ネットの中には、こうしたコラボ・キャンペーンはストーリーへの集中を阻害するという非難も見受けられますが、僕の感想は逆でした。
皆さんはどう感じましたか?
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「天気の子」
(C)2019「天気の子」製作委員会
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さて、ストーリーの方ですが、家出少年帆高は家族から捜索願が出されていたうえ、例の発砲事件の容疑者としてマークされていたことから、警察の捜査の手が迫ります。
陽菜と凪は未成年二人だけで住んでいるという点もありますし。
この帆高の危機に、頼みの綱の須賀編集長は「もう大人になれよ、少年」といくばくかの退職金を渡し、実家へ帰れとそっけない。
実は須賀編集長は、死別した妻の実家に預けた娘を引き取るための協議を進めている最中。ここで面倒を起こすわけにはいかない。ましてや警察からは、帆高の誘拐の嫌疑までかけられている。
頼む者も無く、三人して逃げ出すことを決めた帆高たち。しかし未成年三人が泊れる宿は簡単に見つからず、止む無くラブ・ホテルへと。(ええ~)
夜半、時計の針が0時を回り、帆高は陽菜の誕生祝にと用意してきた指輪を渡そうとする。しかし、その時既に「能力」を使い過ぎていた陽菜の身体は半透明になりかけていたのです。
「このまま私が死んじゃったら、いつもの夏が戻って来るよ。凪をよろしくね。」
翌朝、久々の青空が広がるとともに、天気の巫女の「人柱」としての役割を果たした陽菜の姿は煙のように消えていました。
そこへ踏み込む警察。帆高は警察で取り調べを受けることになり、凪は児童相談所へ収容される。
結局、二人とも脱走して陽菜が天気の巫女となった廃ビル屋上の神社を目指すことになるのですが、凪の脱走方法が振るっている。
凪は、以前も登場した二人の彼女(一人は元カノ)を呼び出し、一人がトイレの場所に係員を案内させているうちに、もう一人が持ち込んだウィッグとドレスで女装して逃げ出すのです。
ちなみにこの二人の彼女、一人はカナ(声優:花澤香菜)、もう一人はアヤネ(声優:佐倉綾音)という名で、見ての通り声優の名前をそのまま役名にしたもの。この辺の遊び心はさすがですね。
このうち、花澤香菜は「言の葉の庭」の主人公の一人ユキノの声を務めた声優さん。
ユキノ「言の葉の庭」
またも起用されたということで、きっと新海監督のお気に入りなのでしょう。
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「天気の子」
(C)2019「天気の子」製作委員会
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逃走途中でいろいろと障害があったものの、須賀と夏美、そして凪の協力によって帆高は廃ビルの神社へたどり着きます。
陽菜のことを強く念じながら鳥居をくぐる。すると… 帆高の身体は空中へ押し上げられ、雲の上の世界に囚われていた陽菜との再会を果たすのでした。
「人柱である自分が地上へ戻れば、天気は再び狂ってしまう。」
…来ましたね、究極の選択。陽菜か世界か。…そう「雲のむこう、約束の場所」と同じ。
果たして、帆高の決断は?はたまた世界の運命やいかに?今なら絶賛上映中!
/// end of the “cinemaアラカルト224「天気の子」”///
(追伸)
岸波
まあ、もう一つのキャッチコピーが「彼女と共に過ごした、あの夏。東京の空の上で僕たちは、世界の形を決定的に変えてしまったのだ。」なのですから、帆高が陽菜を取り戻す選択をすることは自明でしょう。
ただ「雲のむこう、約束の場所」では、白い塔が破壊され、佐由理は約束の場所に到達できずに記憶を失ってしまうのですが、「天気の子」では、陽菜が元通りになって帰ってくる代わりに地上は大水害に見舞われ、東京の海側は街ごと水没してしまいます。
やはりの「新海流バッド・エンディング」。
ならば、今回彼が提示する「救い」とは?
←祠があった廃ビルのモデルとなった場所
数年後、実家に戻っていた帆高は再び水没した東京へ出て暮らし始め、立花富美(瀧の祖母)を訪ねます。
「東京のあの辺は元々海だったんだよ、江戸時代くらいまではね。結局。元に戻っただけなんだよ。」
また、既に大会社を構えている須賀編集長の元へも。
「気にすんなよ青年。もともと世界なんて狂ってるんだから。」
なるほどね…。別にバッドでも無いしエンドでも無い。地球の大きなサイクルから見れば元に戻っただけ。
しかもアレかな。地球上の「水」の総量は決まっているし、雨雲に覆われればグリーンランドの氷床が溶けることもなくなって、海面上昇も止まるという理屈ですね。
むしろ寒冷化が心配ということもあるけれど、それもまたアルベドが変化して揺り戻しが来るだろうし。
この二つの台詞の重さを理解できるかどうかが「賛否両論」の評価の分かれ目になるのではないでしょうか。
それにしても新海アニメ…これから間違いなく世界をリードする作品群を生み出して行くようになるでしょう。
では、次回の“cinemaアラカルト”で・・・See you again !
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