こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。
君を、生きろ。
8月4日の日曜日、ケイコと「ドラゴンクエスト/ユア・ストーリー」を観てまいりました。
「ファイナルファンタジー」と並ぶ国民的RPG「ドラゴンクエスト」シリーズの第5作「天空の花嫁」を原案にして制作された3DCGアニメ。
「STAND BY ME ドラえもん」を手がけた山崎貴を総監督に、原作ストーリー作家の堀井雄二が監修、同じく原作の楽曲を制作したすぎやまこういちが音楽を担当。
ドラクエフリークにはたまらない企画だったはず・・ですがっ!!?
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ドラゴンクエスト/ユア・ストーリー
(C)2019「DRAGON QUEST YOUR STORY」製作委員会
(C) 1992 ARMOR PROJECT / BIRD STUDIO / SPIKE CHUNSOFT / SQUARE ENIX All Rights Reserved.
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ネット上では「天気の子」を上回る賛否両論の嵐…というか、散々なディスられよう。
もとより、膨大なドラゴンクエストの世界観を、時間的限界のある映画の中に細部まで反映できるはずもなく、いかに映画として成立させるか…そこが見所だったはず。
つまり「省略」は折り込み済みで鑑賞しなくてはならない。その事は誰しも理解していたはず。
ところがクライマックスで大幅に原作を改変したことで、長年のドラクエファンから大ブーイングを浴びることになり、「了解済み」だったはずの「細部」に関する不満が噴出し、もはやとどめることができない状況です。
これは、TVゲームの草創期からやり込んできたTVゲーム第一世代”ゲーム愛”の僕としては、とても悲しくて切ない…。(ウルウル)
ともあれ、レビューを開始しましょう。
冒頭の場面、いきなりドラクエⅤのドット絵の画面が登場。正直、ビックリしました。え?何で?と言う感じ。
というのも、実は僕、この映画に関する予備知識がほとんどなく無く、イオンシネマ券売機の前で、本来の目的だった「ワイルドスピード」の開始時間に間に合わなかったため"やむ無く"「ドラゴンクエスト」に変更したからです。
事前にケイコから聞いていたのは「主人公はタケル君よ。ヒロインは有村架純だって。」ということだけだったので、てっきり『実写映画』だと思っていたのです。
「ああ、アニメだったんだ…」と落胆。
と、そこは気を取り直してスクリーンを注視。
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ドラゴンクエスト/ユア・ストーリー
(C)2019「DRAGON QUEST YOUR STORY」製作委員会
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ゲームと同じドット画面では、プサン(マスタードラゴン)の声を担当する安田顕が文字を読み上げ「この世界で何を為すべきか」が語られ、ゲーム序盤のいくつかの出会いがダイジェスト。
仲間にしたピンクパンサーに「ゲレゲレ」と名付け、ヒロインの一人フローラ(声:波留)との幼少期の出会いのシーンも。(いやいや、そこゲームには無かったから!)
ともあれ3DCGがスタートすると、主人公リュカ(声:佐藤健)が父親のパパス(声:山田孝之)と一緒に行方不明の母マーサ(声:賀来千香子)を探して流浪する旅の情景が。
主人公リュカ(佐藤健)
旅の途中、リュカは宝物として持っていたゴールドオーブを謎の旅人に頼まれて見せることに。
ああ、ココは重要なイベントで、後年成長した主人公自身がタイプワームして、すり替えて行くんだったよなとか、昔の記憶が蘇る。
主人公リュカはラインハット城で王子ヘンリー(声:坂口健太郎)と邂逅し、その子分となります。
二人が森に遊びに出ると、早速、魔物の小ボス、ジャミとゴンズが登場、戦闘に。そこに大ボス(ラスボスではない)の魔王ゲマ(声:吉田鋼太郎)まで登場、パパスが助けに来る。
しかし、ゲマに息子リュカを人質に取られて手出し出来なくなったパパスは、あえなく呪文で焼き殺されてしまう。リュカとヘンリーは捉えられ、セントベレスの大神殿で奴隷として働かされることに。
…とまあ、ストーリーをぎゅっと詰め込んだ展開になっています。
父パパス(山田孝之)
山崎貴総監督は、インタビューで「ドラクエをプレーしたことは無い」と言っていますので、物語のキーとなるイベントだけを時間内に要約する技術はさすが。
これがドラクエ・ゲーマーであれば、「あのシーンも入れたい。このシーンも…」と、収拾が付かなくなるところでしょう。
まことに駆け足ではあるものの、細部の切り捨てはやむを得ないところ。観客はソコを承知で映画館に足を運ばねばなりますまい。
ただ… 「ドラクエ」を全く知らない観客が見たらどうだったのか?
例えば、ラインハット城で登場する人物はヘンリーと門番の兵士の二人のみ。リュカの故郷サンタローズで登場する民家はリュカとパパスの一軒家のみ。
ゲームでは多くの村人や民家、城の多くの衛兵たちも登場し、会話によって多くの状況や背景が説明されるのですが、そこはバッサリ。
ドラクエで重要な「謎解き」のディテールが切り捨てられたことで、場面展開が一本調子になった感は否めません。
そもそも「サンタローズ」が集落の名前だと認識できないかもしれませんね。
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ドラゴンクエスト/ユア・ストーリー
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10年の後、リュカとヘンリーは大神殿脱出に成功し、故郷の家で父パパスの日記を読み、母親マーサが魔王ゲマの下で生きている事、魔王を倒し母を奪還するためには天空の剣とそれを使える勇者を探し出さなければならない事を理解します。
天空の剣はサラボナの大富豪ルドマン【フローラの父】(声:松尾スズキ)が所有している事を知ってルドマン邸を目指しますが、サラボナの街は魔王ゲマの手下ブオーン(声:古田新太)によって壊滅的打撃を受けていることを知ります。
ブオーン(古田新太)
この映画で一つの注目は、主人公リュカが伴侶として幼馴染のおてんば娘ビアンカ(声:有村架純)を選ぶか、思い遣りを持った深窓の令嬢フローラを選ぶのかという事。
映画の中でも、ココはしっかりと時間を取って描かれます。
この選択によってパーティに加わる伴侶の特技が変わってくる外、やがて仲間になる切り札の勇者(=二人の息子)の特性も違ってくるという重要な場面。
ドラクエⅤが発売された当時、これは画期的なシステムで、どちらを選ぶかゲーマーの中で大いに話題になったところなのです。
まあ、大抵のゲーマーは一度目はどちらかを選び、2巡目のプレーでは(ほぼ間違いなく)もう片方を選んだはず。
しかし映画ではココから分岐させることは出来ないので、どのように説得力ある工夫で一方を仲間にするか、まさに総監督の腕の見せ所。
フローラ(波留)
しかして… フローラと再会したリュカはフローラの父であるルドマンからの依頼で、街の平和を脅かすブオーンを倒せば娘フローラを嫁がせてもいいと。
この時点で、幼少の頃から久しぶりに再会したリュカとフローラは互いに好意を寄せあう仲になっており、既にパーティに加わっている幼馴染のビアンカもコレを応援するスタンスになっています。
「なるほど、山崎貴総監督が選んだのはフローラなのか」…と思わせて、結局(詳しく解説はしませんが)伴侶となるのは幼馴染のビアンカ。
ゲームのここで散々悩んだゲーマーとしては、あまりに一直線の展開なのですが、逆に言えばビアンカを選ぶ理由が明確にされていて、ストーリーテリングとしては正解なのでしょう。
求愛されたビアンカが「ホントに私でいいの?」と涙ながらに問うシーンでは、思わずウルっとしましたし(笑)
ビアンカ(有村架純)
ブオーンを倒すことに成功し、ルドマンから天空の剣を入手したリュカは「天空の勇者ならば、剣を鞘から抜けるはず」と聞いて、抜こうとしますがビクともしません。
「僕は勇者じゃなかったのか…」
ゲーマーなら誰でも知っている…リュカと伴侶の子供こそが、真の天空の勇者であることを。
やがてリュカとビアンカの元にはアルス(声:内川蓮生)という玉のような男の子が誕生。しばし家庭には平和なひと時が訪れます。
やがてプサン(=マスタードラゴン)の助けを借りて、魔王ゲマに挑むことになったリュカとビアンカ。
魔王ゲマ(吉田鋼太郎)
しかし、二人ともが魔王ゲマの石化魔法によって、生きたまま石像に変えられてしまうのです。
辛くも勇者の卵アルスを救い出した従者サンチョ(声:ケンドーコバヤシ)。
さて、究極の大魔王ミルドラースの復活を目論むゲマの野望は達成されてしまうのか?
はたまた、石像に変えられたリュカとビアンカ、そしてリュカの母親マーサの運命やいかに!?
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ドラゴンクエスト/ユア・ストーリー
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この映画が賛否両論を生んだ最大の原因は、改変されたクライマックス・シーンにあります。
ゲームではもちろん、魔王ゲマを倒した後、大魔王ミルドラースとの最終決戦となり、これを打ち負かしてメデタシメデタシとなるのですが、それを選ばなかった。
魔王ゲマを倒した後に登場したのは、大魔王ミルドラースではなく実体化したコンピュータ・ウィルス。(自らをミルドラースとは名乗らなかったように記憶します。)
ウィルスは、今いるこの世界がゲームの中のバーチャルな世界であること、リュカと名乗った主人公は、実はリアル世界でゲーム・ブースにいるサラリーマンであることを暴露し、バーチャル世界を崩壊させて行きます。
ポリゴンが砕け散り、風化して消えてゆくビアンカやアルス、そして世界そのもの…。この世界は現実ではないんだ…。
「大人になれよ。」…ウィルスは言い放ちます。
ゲーム世界から見れば完全なメタ世界。山崎貴総監督が提示した新たなるエンディング・シーンです。
この進行には、さすがに僕も驚愕。
不可解な謎を積み上げ、結末にきていきなり「はい、コレは夢でした」というSF世界で禁じ手とされる「夢オチ」に外なりません。
まさか、ドラクエにコレを持ってくるとは…。
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ただ、SFの世界でも実際「禁じ手」とされているワケではなく、「謎や伏線を夢オチで放り出す」のでなく「合理的な解決として用いる」事は、しばしばなされており、例えば「マトリックス」などが良い例でしょう。
むしろ現在では、リアル世界とバーチャル世界の夢オチは「使い古された手法」と言えるのではないかと思います。
なので「夢オチ」自体に驚いたのではなく、「ドラクエにコレを持ってくるか」という部分に驚愕したのです。
「これは荒れるだろうな…」
予想通り、その後のネット批評では、熱烈なドラクエ・フリークを中心に強烈な反感コメントで溢れかえることになりました。
山崎貴総監督
いったんこういう流れになると、事前に「細部の省略はやむを得ない」と観劇に臨んだはずの人たちからもディテールに関する指摘が相次ぎ、収拾つかない状態になっています。
山崎氏はこの作品の映画化を打診された際、ゲーム作品の映画化自体に懐疑的で、当初は役目を固辞していたとのことです。
ところが、あるWebsiteのインタビューで「劇場版アニメの成否をも左右するような、ラストシーンのあるアイデアを思いついてしまった」として引き受けた経緯を明らかにしています。
それが「夢オチ」って!?
もちろん総監督としては「謎の解決を放り出す」やり方でなく「伏線は回収した上で斜め上の展開を持って来た」という自負があったのでしょう。
例えば映画ポスターのタイトル「YOUR STORY」でも、「R」の文字を左右逆にして「REAL」の反対の「VIRCHAL」であることを暗示しています。
タイトル・ロゴ
また、「大人になれよ。」の後で主人公リュカは「例えゲームの中の世界であっても僕自身にとっては現実の一つなんだ」と反論し、結局ウィルスを倒してバーチャル世界を復元します。
山崎貴総監督としては「ゲーマーを肯定する」意図があったのだと思います。
しかしそれさえも「言われなくてもわかっている」・「上から目線だ」等々、ディスりのネタになっている始末…。
小説も漫画もそうですが、エンディングを改変することに必ず付いて回るコアなファンからの反論…つくずく難しいものだと感じます。
僕自身の意見を言えば「おいおい、コラ~(笑)」と笑って許せるミステークなのですが、ミステークであることに間違いはありません。
夢オチなど、もはや使い古された手法で、誰でも思いつく話。「思いついてしまった」と語るほどの気づきで…ましてやそれ一つで映画の総監督を引き受けたとは…。
もちろん原作通りなぞっただけの予定調和なストーリーでは、映画化する意味など無いと思いますが、今回は、そのやり方が安易だったのではないでしょうか。
むしろ早い段階で新たな分岐ストーリーに移るとか、最初から堀井雄二以下の制作メンバーで新たなストーリーを作るとか、いろいろ方法はあったように思います。
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ドラゴンクエスト/ユア・ストーリー
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気がかりな興行収入ですが、封切り2日間、8月の3日、4日の観客動員数は21万5000人、興収3億900万円だそうです。
ビッグヒットとは行きませんが、そこそこのヒットにはなるかもしれません。
長くなったので外の部分には触れませんが、いずれの声優も見事な出来栄え。特に魔王ゲマの吉田鋼太郎の嫌らしさ満点のアテレコは素晴らしい。というか憎たらしいですよ。(大笑い)
/// end of the “cinemaアラカルト225「ドラゴンクエスト/ユア・ストーリー」”///
(追伸)
岸波
映画の中で、久しぶりにドラクエのテーマを聞いて、懐かしさに涙がちょちょ切れました。ホントにいい曲ですよね。
で、ウチのケイコが言うのですけれど、2020東京オリンピックの入場曲は是非、コレにすべきではないかと。
たしかにCOOLジャパンの一つの象徴。ブラジル大会の閉会式ではマリオになってましたもんね。是非、実現すれば良いと思います♪
「大人になれよ。」…奇しくもこのセリフは「天気の子」の中で語られたキーワードの一つと同じ。
しかし、この言葉はゲーマーにとっては特別な意味を持っているような気がします。
時代の移り変わりの中で、テレビ草創期には「このテレビっ子が。テレビばっかり見てないで勉強しなさい。もっと大人になりなさい。」と言われました。
漫画もそうでした。やはり、漫画に没頭した少年・少女たちは、同じような非難を受けたはず。そしてTVゲームもまた大人からの叱責の対象でした。(今はネットがそうでしょうか?)
なので、その時代の新しい流行に心を囚われた子供たちは、常に「大人になれよ」に反抗してきた原体験があるのではないかと思います。
山崎貴総監督が「大人になれよ」のトラウマからゲーマーを肯定し解き放つという考えならば、今から20年以上前の「TVゲームが非難されていた時代」なら功を奏したかもしれません。
今は時代が変わりました。アニメもゲームも既に市民権を得ています。タイミングが遅すぎるのではないでしょうか。
ネットに「何を今さら」という書き込みが多いのも、そういう事ではないかと思います。
「…と思ったんだけど、ケイコどうよ?」
「当たり前でしょ。ドラクエファンで、前期高齢者になった私たちが”大人になれよ”って言われたら、どーすりゃいいのよ!」
ええ~!(そりゃそうだ…)
では、次回の“cinemaアラカルト”で・・・See you again !
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