◆ある踏切で一時停車をしていたら、コートを着て紫色の風呂敷包みを左手にかかえた男が遮断機をくぐって渡って来た。彼は右手を上げて渡って来た。
◆イギリスのエクセターに一月いた人が、イギリスには蚊がいないと言いはじめた。そういえばひと夏イギリスをうろうろしていたが、私も蚊を見なかった。蚊がいないと蚊取り線香もいらない。これを突き詰めて考えると、あまりよく効く蚊取り線香を作ると、製造元が破産する計算となる。
◆嫁に行った飯田悦子が手紙をくれた。「田舎の家に帰って、部屋の中に子供の頃かいた落書きを見つけた。懐かしかった。その中に横向きの落書きがあった。それは寝そべって書いた落書きだった。」
◆科学的論証というのは恋のささやきに似ている。自分がどんなに愛しているかを説明するために美辞を弄し、物的証拠を並べ立てるなどする知的行為は、恋という感情的理解を得るための方法にすぎない。概して徒労に終わることが多く、感性的共感の前に知的説得が無力に近いことを悟るいい機会である。
◆女優であるため特に本名は秘すが、藤田弓子は酒を飲んだあと自分の顔が赤いかどうかを調べるのに、自分のほっぺを少し押し出すようにして自分の目で直接見るのである。鏡は使わない。
◆テレビのカメラマンが機会にくっ付いている長い電源ケーブルを巻き取る時に、地面に8の字を書くようにして巻き、最後に真ん中を縛ってひょいとつまみ上げる。こうするとケーブルに捻りがかからないのだと言う。
◆太平洋から陽が昇り大西洋に沈む場所があるが、それはどこか。 |