【家を新築するとき男と女のシンボルを飾る不思議】
南会津郡と大沼郡の山間部、福島市から郡山市にかけての阿武隈山地の地方には、新築の棟上げに男根と女陰をかたどった呪物を棟木に奉納する習俗が昭和30年代まで行われてきた。
これを「火伏せ」とか「火伏せの神」といって、火災除けの信仰に奉納する地域が多い。
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建前の当日になると、火伏せを作る人は「一人役」といって、一日がかりで製作に励む。これらの呪物は、柱や梁をとった材料を利用する。村の年配の器用な経験者が製作する。
これを、その家の主人夫婦が持って、棟上式の祭場まで上る。阿武隈山地の地方では、ねじり鉢巻きで口紅をつけた主婦が、男根を背負い、梯子を上る。
これを下にいる村人が、はやしたてる。また、大沼郡昭和村大芦などでは、主婦がへらでお神酒を男根にふりかけてから奉納するという。
また、火伏せを奉納する地域には、この夜、夫婦が建前をした場所に一間四方を板で囲み、ここで寝る習俗があった。南会津地方では、これを板囲いとよんでいる。
夫婦の契りを結ばねばならなかったという。伊達郡梁川町などの伝承によると、新築した家で犬・猫・その他魔物が契りを結んでしまうと、それらに家を取られてしまう。
そのため主人夫婦が最初に契りを結んで、所有を明らかにするのだという。すなわち、その家の繁盛を祈った儀礼でもある。
また、火災は何もかも消滅させてしまい、他家、村全体にも被害を及ぼしてしまう。
そんな家の繁盛、子孫繁栄を祈願し奉納したものが、火難除けにつながり、火伏せとよばれるようになったのではなかろうか。 |