コム デ ギャルソン社の2026春夏ウィメンズの展示会に行ってきた。
10月にパリコレでショーを発表した「コム デ ギャルソン」(デザイナー川久保玲)、「ジュンヤ ワタナベ」(デザイナー渡辺淳弥)、「ノワール ケイ ニノミヤ」(デザイナー二宮啓)の3ブランドなどが展示されていた。

「コム デ ギャルソン」は、ジュートなど粗い麻素材が多く、出来上がった服を大きな機械に入れて丸洗いしてダメージを与えるという新しい手法を採用している。「新しい感覚や価値観、ポジティブな気持ちを作りだすことを信じて制作した」と川久保玲。
例えば上掲の作品など、運慶の金剛力士像を思わせるような圧倒的な力感に溢れている。

そうかと思えば、上掲のエレガントでやさしさに満ちた聖母像を思わせるような作品もある。自在な造形力とバランス感覚を駆使して、ますます「布を用いたキュビズム」の世界を進化させているように感じた。
ちょっと驚かされたのは「ジュンヤ ワタナベ」。「身近にある既製品(レディメイド)を素材のひとつと考え、それらを本来の用途とは異なる文脈で用いて、常識的な手法では生み出せないフォルムを探求するのがテーマ」だという。簡単に言えばマルセル・デュシャンのファッション版だ。
傘
渡辺淳弥は真面目そうな外見(平工業高校在籍時は応援団所属)に似合わず、なかなかウイットの分かるデザイナーである。特にメンズウェアのコラボなどでその精神は発揮されて来た。
スプーンとフォーク
しかし、今回のウィメンズコレクションはウイットではなく、大真面目に「アートピースのような服を目指した」(渡辺淳弥)のである。「どうしちゃたんだろう?」と思うのだが、なかなか出来はいい。もちろん、これを着て街を歩く女性がいるとは思えないが。
ハイヒール
しかしこういうチャレンジをすることがデザイナーとしての自分の可能性を奮い立たせると考えているのだろう。川久保玲の影響を感じてしまう。もうジュンヤも64歳である。
話は脱線するが、10月21日の業界日刊紙の繊研新聞に興味深い記事を見つけた。以下全文を引用する。
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仏競売会社ピアザが10月1日に開催した「川久保怜/コムデギャルソン」オークションは、落札総額が35万ユーロ(手数料込み)に達し、出品約500点のうち75%が落札された。競売市場でのファッション分野の存在感を高めた。
日本のコレクター成田博昭氏が約10年かけて収集した69~99年のコレクションには、初期の「パイレーツ」や「ボディ・ミーツ・ドレス、ドレス・ミーツ・ボディ」などの象徴的な作品が並び、世界的な注目を集めた。落札者の中には欧州内外の主要美術館も含まれ、ファッションアーカイブの文化的評価を示した。
最高額は80年ごろのコレクションのコットンドレスで、1万4432ユーロ(手数料込み。1ユーロ=175円換算で約252万円)。コムデギャルソン作品としては過去最高を記録した。(パリ=松井孝予通信員) |
アート系のファッションピースには、これからこうした道が開かれて来るのではないだろうか。
252万円という値段は、意外なほど安いと私は思う。ファッションアーカイブの文化的な価値は、金額的にも今後飛躍的に上がってくるのではないだろうか。