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メトロポリタン歌劇場(MET)の実演を映画化したオペラ映画METライブビューイングのベートーヴェンの歌劇「フィデリオ」(今年3月15日上演)を東銀座の東劇で見た(5月7日水曜日)。

 「フィデリオ」はベートーヴェンの唯一のオペラだというのに上演機会は本当に少ない。オペラという表現手段がベートーヴェンには向いていないと同時代の人々も現代も判断しているということなのか。

 実演でも、オペラ映画でも「フィデリオ」をやっていたら、極力見ることにしている。

看守長ロッコ役のルネ・パーペ、
その娘マルツェリーネ役のイン・ファン、
フィデリオ(レオノーレ)役のリーゼ・ダーヴィドセン

 さらに今回はいまやMETを代表するドラマティック・ソプラノと言われるノルウェー出身のリーゼ・ダーヴィドセンが主役フィデリオを演じるということで、午前11時からのその日の第1回上映に出掛けた。

 チケットは3700円と安くない。前回の「アイーダ」のチケット残券を出して300円割引で3400円だった。松竹が運営するこの映画館は定員435席だが、50、60人が鑑賞していた。ほぼ60歳以上の女性だった。

 あらすじは以下の通り。

◆『フィデリオ』のあらすじ
(「わかる!オペラ情報館」による第1幕の解説)

 時は16世紀。舞台はスペインのセヴィリャから数マイル離れた刑務所。この刑務所の所長ピツァロは悪人で、自分の不正を政治家フロレスタンにあばかれそうになると、彼を無実の罪でひそかに逮捕して、地下牢に幽閉しました。ここで立ち上がったのがフロレスタンの妻レオノーレです。彼女はまず「フィデリオ」と男の名前を使い、そして男装して、刑務所の看守ロッコの下で働くことにします。ロッコの娘マルツェリーネは、フィデリオのまじめな働きぶりを見て、彼との結婚を望みました。門番の青年ヤキーノが心を寄せていたにもかかわらず、です。父親のロッコも結婚を承認するほどフィデリオは2年間懸命に働いて、信用を得たのでした。こうして地下牢に入るチャンスを伺っていたのです。

あるとき、刑務所の悪い噂を聞いた大臣ドン・フェルナンドが、視察に来ることとなります。ピツァロは自分の悪事が表に出ることを防ぐために、フロレスタンを殺害して全てを無かったことにしようと企むのでした。

 何となく緊迫感に欠けた上演だった。時代背景は現代に置き換えているのだろうが、フィデリオ(レオノーレ)が終始キャップとリュック姿というのがかなり変。

 

 それに地下牢で夫(デイヴィッド・バット・フィリップ)と再会した時、なんか感激が感じられなくて興ざめ。演出家(ユルゲン・フリム)は何も言わなかったのか?

 レオノーレ役のリーゼ・ダーヴィドセンの歌は上手いがもっと感情を高ぶらせて欲しい。それに刑務所所長(トマシュ・コニエチュニ)ももっと悪党っほくして欲しいものだ。

 

 フィナーレで銅像の馬に乗せられて絞首刑まがいのことをさせられているのは滑稽。第1幕で囚人が牢の外に出されて日光を浴びるシーンも日光浴の喜びがまるで伝わらない。もうちょっと段取り良くやって欲しい。フィナーレの盛り上がりも今一つだ。

 

  結局第1幕冒頭の看守長ロッコの娘(イン・ファン)と言いよる看守(マグヌス・ディートリッヒ)のシーンが結構面白かったというぐらいしか褒めるところがない。

 指揮のスザンナ・マルッキ(フィンランド出身の56歳の女性指揮者でヘルシンキ・フィルの前首席指揮者)はまあ普通の出来ではないだろうか。第2幕第2場前で演奏されることもある有名で約10分もかかるレオノーレ第3番の序曲をカットしているのは大賛成だ。

 ということでMETライブビューイングでは珍しく不満が残った上演だった。「フィデリオ」というオペラの出来が悪いのか?やはりベートーヴェンというのが現代人とくにアメリカ人には難しいのだろうか。

 予習としてYouTubeで見ていた1970年のカール・ベーム指揮ベルリン・ドイツオペラ、演出グスタフ・ルドルフ・ゼルナー、フィデリオ(レオノーレ)役ギネス・ジョーンズ(イギリス人ソプラノ)の素晴らしく感動的な映像に比べると雲泥の差だった。

 なんか最近古い演奏に惹かれるようになっている。歳ということなのだろうか。

(2025.5.30「岸波通信」配信 by 三浦彰 &葉羽

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