この日が最終日で定員435人に対して入りは50人ほど、このあたりのスキ具合が実にいいのだ。最近は特にそうだが、東京はどこへ行っても満席・行列ばかりでイヤになる。
チケット代は3700円。安くはないが、この音響と映像でこのお手軽さなのだから文句はない。
その上演のクオリティは、さすがに現在ミラノスカラ座と並ぶMETである。しかもマイケル・メイヤーによろ新演出。
マイケル・メイヤー
冒頭の前奏曲(指揮はMET音楽監督ヤニック・ネゼ=セガン)の途中からエジプト探検隊員がロープで地下に降りてくる。この探検隊がオペラの各所に登場して、この物語を現代と立体的に交差させる。
ヴェルディにこの「アイーダ」を題材として提供したのが、フランス人考古学者のオギュスト・マリエットだったことにインスピレーションを受けたことによる演出だ。
これは賛否両論だろう。確かに意表を突く新鮮な発想だが、ちょっと煩く感じる場面もないではない。
配役は:エンジェル・ブルー(女奴隷。実はエチオピア王女アイーダ)、
ユディット・クタージ(エジプト王女アムネリス)、
ピョートル・ベチャワ(エジプトの将軍ラダメス)、
クイン・ケルシー(エジプトの神官ランフィス)、
モリス・ロビンソン(エチオピア王アムナズロ)、
ハロルド・ウィルソン(エジプト王)など。
アイーダのエンジェル・ブルー(ソプラノ)、アムネリスのクタージ(メゾ・ソプラノ)の将軍ラダメスをめぐる恋のさや当てがストーリーの中心だが、この2人の歌唱は圧倒的だ。
負けず劣らずラダメスのベチョワ(テノール)も高い水準で安定した歌唱を聞かせる。今やMETを代表するバリトンになったまた神官ランフィスの存在感が際立った。要するに文句なしという布陣だった。
とは言っても、やはりヨーロッパのヴェルディ演奏とは違って、外面的といえばちょっと語弊があるが、声の威力や効果を十二分に発揮した演奏ではある。それがまた実に心地よいのだ。
心ゆくまでヴェルディのまさに絶頂と言えるオペラを楽しんだ。その行進曲はなんとも人の心を高揚させて、日ごろの憂さを晴れさせる。