昨日(2月4日火曜日14時開演)、初台の新国立劇場でオペラ鑑賞。
フィレンツェに因む2つの1幕オペラ「フィレンツェの悲劇」(ツェムリンスキー作曲)と「ジャンニ・スキッキ」(プッチーニ作曲)が演目。なかなか洒落たダブルビルだ。
特に「ジャンニ・スキッキ」はなかなか良く出来たコメディでオペラ初心者に薦めたい作品だ。粟國淳の演出と舞台・美術(横田あつみ)が遊びたっぷり。
「ジャンニ・スキッキ」は一人を除き日本人歌手だった。その一人はイタリア人歌手でジャンニ・スキッキ役のピエトロ・スパニョーリだが、軽快な演技で魅せた。

なお3人がインフルエンザに罹患したが、代役にカバー歌手が登場。脇役とは言え何もなかったような見事なリカバリー。
このダブルビル公演の前の「さまよえるオランダ人」では主役のエフゲニー・ニキティンが体調不良で5日間公演の中日(1月25日)だけ登場。河野鉄平が4日間カバーした。カバー歌手が大活躍である。カバーシステムの重要性が再認識された意義がある2公演だったとも言える。
さて前半の「フィレンツェの悲劇」は初心者にはちょっと取っ付きにくいオペラかもしれない。
亭主が仕事で留守をいいことにフィレンツェを統治するバルディ大公の一人息子を家に引っ張りこんで妻が浮気したのに、帰ってきた亭主が怒り大公の一人息子を殺すという単純だが陰惨なストーリーだ。音楽はリヒャルト・シュトラウス風で実際冒頭は「薔薇の騎士」のパロディだろう。
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しかし、こんなよくありがちな不倫話をオペラにしたもんだなあと訝っていたのだが、今回やっと腑に落ちた。
このオペラの台詞を字幕で追っていくと、実に「詩」のような見事な形容が散りばめられているのだ。原作者のオスカー・ワイルドの天才ぶりが遺憾なく発揮されているのだが、ツェムリンスキーは平凡なストーリーよりもその「詩」に魅せられたのではないだろうか。
そうやって聞くとなるほどと納得する。例えば、シモーネは生地商人なのだが、そのセールストークに散りばめられた形容詞の見事さに惚れ惚れする。

こちらは3人の登場人物が全て外人。さすがに迫力がある。不倫される亭主シモーネを演じる名歌手トーマス・ヨハネス・マイヤーをはじめ、その妻ビアンカ役の超長身のナンシー・ヴァイスバッハはちょっと凄味があった。この超長身女にウツツを抜かすグイード・バルディ役のデヴィッド・ポメロイが可愛らしく見えた(笑)。ポメロイもいい声で歌唱は水準以上。
フィレンツェという街は、イタリア人に言わせるとイタリアで一番ケチな街ということらしい。このフィレンツェを舞台にした2つのオペラに共通するのは、いやに金に関する台詞が多いということだ。醜い遺産争いがテーマの「ジャンニ・スキッキ」は言うまでもないが、「フィレンツェの悲劇」でも、不倫の代償とばかりにシモーネがグイードに押し売りする生地の値段が台詞に頻出するが、こういうオペラも珍しい。
書き忘れたが沼尻竜典指揮東京交響楽団が実に素晴らしいバックアップで聞き惚れる。とくに「フィレンツェの悲劇」はツェムリンスキーの爛熟した音楽を見事に表現していた。東響は本当に良いオーケストラになったと今回も感心した。

この1粒で2度美味しいダブルビル公演は、2月6日(木)18時30分開演、2月8日(土)14時開演の2公演が残っている。
(2025.2.14「岸波通信」配信 by
三浦彰 &葉羽 )
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