実は、私も実演はおろかDVD、CDでも見たり聞いたりしたことがなく2週間ほど必死に予習した(2023年のバーデンバーデン、1995年のマルセイユ)。しかし音楽は魅力的だが、ストーリーが複雑で、とくに皇后が生命の水を飲むのか飲まないのかと苦悶する第3幕はよく分からないし、フィナーレも一体2組の夫婦は結局どうなったわけ?
今回のコンヴィチュニー演出は、カットありの二部構成にして、第1部の終わりは本来の第3幕のフィナーレ、第2部の終わりは第2幕のフィナーレで、これが高級レストランでの大混乱という仕組み。
また皇后、バラクの妻は2人とも妊娠して出産するが、その父親がちゃんと判明するのもコンヴィチュニーのクリア演出の特徴で、これはスッキリ謎解きしていて大拍手だ。
カーテンコール。「ブー」があちこちから。
大団円の大混乱はかなりアナーキーですらある。これがコンヴィチュニーによる原作の女性蔑視を覆すことになるのかどうかは甚だ疑問ではあるが。しかしこれはコンヴィチュニー演出の常套で、「世界の本質は混乱と混沌」という彼の哲学通り。
さて今回上演のMVPはアレホ・ペレス指揮東京交響楽団だろう。いやあ、東京交響楽団のここ数年の素晴らしいパフォーマンスは知っていたが、これはその頂点かもしれない。大袈裟でなく予習で何度も聞いたキリル・ペトレンコ指揮ベルリン・フィルに優るとも劣らない出来栄え。むしろオペラの伴奏としては上かもしれない。
昨年1月の新国立劇場の「タンホイザー」も同じコンビで見事だったがさらにその上を行っていた。管弦の絡み具合が絶妙なのだ。そして、その渋い音色!
このオーケストラに引っ張られて、歌手陣も大熱演。特に女声の3人は文字通り体当たりの歌唱と演技で興奮させられた。
私と同じ1階23列右サイドで上演をチェックしていたペーター・コンヴィチュニー
この公演は満塁ホームラン級のクオリティだと思うが、観客は50%の入り。平日金曜日だというのに午後2時開演というのが響いたのか。やはり作品の知名度の無さか。コンヴィチュニー演出というのでは日本のオペラファンは動かないのか。じつにもったいないことだ。
盛大な「ブー」(否定の声)が会場の至る所からあった。「ブラボー」は、私を含めてほんの少し。
コンヴィチュニーの演出なんだから、カットや曲順変更は当たり前だと思うがなあ。
音楽評論家も90%は、暴挙だという論評。「コンヴィチュニーよ、お前ホフマンスタール(原作)やリヒャルト・シュトラウスより偉いのか?」なんていうのまであった。意外に保守的で驚いた。