昨日(8月29日木曜日)、東銀座の東劇でMETライブビューイング(NYメトロポリタン歌劇場公演の映画上映)のアンコール上映を見る。演目は今年4月20日に上演されたプッチーニ作曲のオペラ「つばめ」だ。
今年はジャコモ・プッチーニ(1852〜1924、65歳没)の没後100年ということで、その作品の上演が多くなっている。
初期の作品を除けば、プッチーニのオペラで私が実演に接していないのは、「外套」(3部作)とこの「つばめ」だけ。
そんなこともあって、この「つばめ」のライブビューイングには期待していたのだが、所用があり見れなかった。というわけで、このアンコール上映にやってきたのだ。
あらすじは以下の通り。
金持ちの銀行家ランバルドに囲われている高級娼婦のマグダ(エンジェル・ブルー)は、ランバルドの友人の息子ルッジェーロ(ジョナサン・テテルマン)と恋に落ち、ランバルドに別れを告げる。コート・ダジュールで愛の生活を送る二人の元に、ルッジェーロの母から、マグダとの結婚を喜ぶ手紙が届いた。ルッジェーロは母に、二人の結婚を許してくれるよう手紙を送っていたのだ。ルッジェーロは喜び、マグダに手紙を見せるが、自分の過去を悔やむマグダはためらう。彼女はルッジェーロに高級娼婦だったことを告白し、あなたの家には入れないとランバルドの元に戻っていくのだった。(text by 加藤浩子) |
ヒロインのサロンはアール・ヌーヴォー調
まあ、最初の舞台は両方ともパリだし、プッチーニ版の「椿姫」(ヴェルディ作曲)と言っていいだろう。最大の相違点は、「椿姫」ではなかなか判然としなかったダンナが、この「つばめ」では銀行家ランバルドとハッキリしていることか。
マグダが自殺する版もあるが、このMET上演では女殺しの異名を持つプッチーニにしては珍しく誰も死なない版だった。
しかし、この「つばめ」(初演1917年モナコ)と「椿姫」(初演1853年ヴェネツィア)を比較すると、プッチーニには申し訳ないが、作品としても格調の高さや人間の真実を描く力で、ヴェルディの足元にも及ばない。やはりヴェルディは凄い。
そうは言っても、ちょっと退廃の匂いもある感傷的な「つばめ」の音楽は魅力的であるのは否定しない。やはりそれなりに楽しめるオペラだ。
エンジェル・ブルー
キャスティングについて触れておく。
私は人種差別を心底軽蔑するが、ヒロインを演じた黒人ソプラノ歌手エンジェル・ブルーに対する違和感があったことを批判覚悟で正直に告白しておく。
素晴らしい声と歌唱力だが、どうしてもパリの高級娼婦には見えないのだ。なおエンジェル・ブルーは2019年4月にミラノ・スカラ座で「椿姫」も代役ではあるが歌っている。
また、田舎からパリに出て来た若者を演じるジョナサン・テテルマンも、パリの伊達男に見えてしようがなかった。せめて詩人プルニエとの差別化でヒゲを落としてほしかった。
指揮者のスカップッチ
オーケストラは女流指揮者スペランツァ・スカップッチ指揮のメトロポリタン歌劇場管弦楽団。ちょっとこのオペラには立派過ぎる嫌いがあったがよく歌っていた。
なおどこかで聞いたことのある名前だと思ったら、このスカップッチは、2021年4月の新国立劇場で「ルチア」(イリーナ・ルングがルチア役)を指揮するのを聞いていた。