私の今回の最大の注目は、指揮者のマウリツィオ・ベニーニ(1952年生まれ)だ。METライブビューイングのファンにはお馴染みの指揮者。メトロポリタン歌劇場のイタリアオペラ部門の主任指揮者的な存在だ。
歌手に寄り添いながら、楽譜が身についているというか、「え、こんな音があるの?」という具合いでオーケストラを聞いているだけで嬉しくなってくる指揮者だ。
最近では1998年の「セビリアの理髪師」以来の新国立劇場登場になった「リゴレット」で指揮して大評判になった。
名指揮者から巨匠への道を歩むベニーニ
忘れてならないのは、このベニーニの指揮は迫力も十分なこと。今回も冒頭のスカルピアのテーマが、まるで東京フィルがメトロポリタン歌劇場のオーケストラみたいな大迫力でのけぞった。そうかと思えば、その後の堂守の登場の繊細な音の絡まりも実に素晴らしいのだ。
演出・舞台は2000年から2002年、2003年、2009年、2012年、2015年、2018年、2021年と実に8回も上演されているアントネッロ・マダウ=ディアツによる豪華絢爛でよく出来たプロダクションだ。
ヒロインのトスカは新国立劇場初登場のジョイス・エル=コーリー。よく響く低音から若干叫び声風の高音まで歌い回しも演技も上手いハリウッド風の美人である。
トスカ/ジョイス・エル=コーリー
相手役の画家カヴァラドッシ役のイリンカイも絶好調。第2幕のナポレオンの勝利の報に叫ぶ「ヴィットリーオ!」はやや不発気味だったが、第3幕のアリア「星は光りぬ」にはホロリとなった。いずれもオーケストラの伴奏がよくフォローしていて歌いやすそうだ。
カヴァラドッシ テオドール・イリンカイ
病気のニカラズ・ラグヴィラーヴァの代役でスカルピアを歌った青山貴はもう少しアクの強さが欲しいが健闘と言っていい出来。
スカルピア 青山 貴
やはり「トスカ」はよく出来たオペラである。私はこのプロダクションで見るのは実に5回目なのだが、そのたびに新しい発見がある。
「アイーダ」と並ぶ新国立劇場のお家芸と言っていい。特にベニーニのような名指揮者が指揮すると格別だ。
舞台が大掛かりのため、第1幕と第2幕、第2幕と第3幕の間に25分の休憩があるのだが、これをなんとか1回にできないものだろうかといつも思っている。贅沢な要望だ。