「windblue」 by MIDIBOX


最近、演奏を聞いたことのある大演奏家が鬼籍に入った。

 まず旧チェコスロヴァキア出身のソプラノのエディタ・グルベローヴァ(1946年12月23日生まれ)が10月18日に74歳で亡くなった。

 昨年10月の引退コンサートをキャンセルして引退したばかりだった。

 引退して1年後の74歳の死去はちょっと早いかな。

晩年のグルベローヴァ

 私が聞いたのは1996年9月23日の東京文化会館におけるフィレンツェ歌劇場来日公演「ルチア」(ドニゼッティ作曲)での狂乱の場の名唱と観客の異様な静寂が忘れられない。

 彼女が49歳の時だ。まだ全盛期と言っていい時期だった。無理な役をあまり歌わず喉を大切にしたのが長い歌手生活の秘訣だったようだ。

「ルチア」とモーツァルトの歌劇「魔笛」の夜の女王役に尽きるソプラノ歌手だったと思う。

  私が聞いた演奏家で最近鬼籍に入った演奏家のもう一人は、10月21日に92歳で亡くなったオランダ人指揮者のベルトナルト・ハイティンク(1929年3月4日生まれ)。

 2019年に90歳で引退していた。

ベルナルト・ハイティンク

 私が彼の指揮を実演で聞いたのは、1992年か93年にウィーン・フィルを指揮したニューヨークのカーネギーホールでの演奏会。

 出張でニューヨークに来ていたのだがガイドブックでウィーン・フィルの演奏会があるのを知ってカーネギーホールのチケット売り場に並んだのを覚えている。ハイドンの交響曲がメインだったが、あまりパッとしない演奏会だった。

 それと2019年9月にロンドン交響楽団との最後の日本公演。マーラー交響曲第4番をサントリーホールのP席(指揮者の顔が正面で見える最安値の席)で聞いた。これもやっと手に入れたチケットだった。

 初めてP席で聞いたのだが、ソプラノのアンナ・ルチア・リヒターの声がほとんど聞こえなかったのが印象に残っている。もちろん美貌で有名なリヒターの顔も見えなかった。

 ハイティンクの演奏は円満具足とはこういう演奏を言うのかという感じだった。

 作為のない渋い底光りのする演奏とも言えるけれども。

(2021.11.12「岸波通信」配信 by 三浦彰 &葉羽

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