まず昨日が誕生日だったエリック・サティ(1866.5.17〜1925.7.1)の「パラード」(パレードのフランス語読み)。
サティはジムノペディなどの物憂げなピアノ曲ばかりが有名だが、こんなオーケストラトラ曲もあるのだ。いやあ、実演が聞きたかった曲である。
指揮をしている井上道義の十八番だという。かなり道化じみた指揮ぶり(バレエダンサーを目指したこともある)だが、皮肉屋で自己韜晦の鬼才の井上にピッタリの曲。
井上道義
ピストル、タイプライター、ルーレット、サイレン、水を弾く音のための洗面器に入った水、音程のある瓶(ワインの瓶に混じり一升瓶も吊るされている)、手拍子などの小道具になんと今回はパイプオルガンが加わる。
コクトー、サティ、ピカソ、ディアギレフそしてアンセルメ指揮によるストラヴィンスキーの「春の祭典」(1913年初演)に並ぶスキャンダルになった1917年の初演。
ただし大真面目のロシアの原始宗教のアニミズム描写と違ってこちらは敢然とスキャンダルを狙ったアナーキズムである。
サティ
サティは、酷評した批評家に書いた反論の手紙(恐らく脅迫状)のため1週間投獄されたという。
この他にもある演奏会で雨傘による決闘騒ぎを起こして勾留されたり、ダダイスト同盟員にして急進社会主義委員会会員という生き急いだサティという男の哀しい人生と今回の芝居っ気たっぷり井上道義の演奏を重ね合わせると涙が出てきた。
前半の2曲目は、既に今年3回目の実演立ち会いになる辻彩奈のヴァイオリンでサンサーンスの3番の協奏曲。私はもちろん辻彩奈のファンクラブには入っていないが、気になる存在ではある。
辻彩奈
冒頭の低音の鳴りが悪くてガッカリ!湿気のせいだろうか。まだ名器ガダニーニを自家薬籠のものにはしていないようだ。サンサーンスの3番のヴァイオリン協奏曲は意外に難曲なのかな。
アンコールは辻彩奈が委嘱した権代敦彦(ごんだいあつひこ)の「ポスト・フェストゥム」(宴の後)全3曲から第2曲。これは素晴らしかった。このアンコールピースは彼女の代名詞になってしまった。
後半はサンサーンスの交響曲第3番「オルガン付き」。なかなかスリリングな名演。
オーボエの廣田智之をはじめ都響のソロイストのレベルの高さとアンサンブルの緊密さ(コンサートマスターは矢部達哉)が見事。
廣田智之
前半の「パラード」とは衣装を替えて登場したオルガンの石丸由佳が大活躍。こんなにオルガンが活躍する曲とは思わなかった。
フィナーレが大盛り上がりで音を長くのばして大終結。拍手喝采だった。 いやあお腹いっぱいの演奏会だった。
たった1日しか演奏しない公演とは実にもったいない。開演が午後2時で20分の休憩で終演は午後4時。さて、仕事に行かなきゃ。