400字詰め原稿用紙でそれぞれ20枚ぐらいだから、短編というより掌編だ。
前に聞いたことがある感じもするのだが、あらかた忘れている。それはともかく、これは2作とも傑作である。
とくに「ロージン」は泣かせる。睡眠導入のために聞いていたのだが、ジーンと来て眠れなくなった。
この世に未練があって成仏できず彷徨する死人の魂にあの世から「とりつくしま係」がやってきて非生命体(モノ)になるチャンスなら少しだけ与えてもいいと提案する。
もちろん、話すことも動くこともできずにモノになって未練が無くなるまでじっと眺めているだけである。
例えば、「ロージン」で野球のピッチャーが使う滑り止めのロージンバッグになったのは、中学の軟式野球部でピッチャーをやってる息子を残して病気で死んでしまった40歳の母親。
息子の中学生最後の野球大会でロージンバッグになったのだが....。
たぶん死後の世界があるとしたら、こんな感じなのだろうなあ、と思わせるくらい見事な出来上がりである。
泣かせるなあ。愛する者を残して死ぬのは本当に辛いものである。
東直子はもともとは歌人らしい。歌道に暗いので分からないがその道ではかなり有名らしい。そのためか文章に無駄がなくてリズムがある。