昨晩(2月20日土曜日18時開演)サントリーホールで東京都交響楽団の演奏会をきいた。
本来の曲目は同じ演奏家によるマーラー交響曲第2番「復活」だったが、コロナ禍を考慮して上掲ポスターのものに変更。これはこれでなかなか興味深い。
まず武満徹後期のオーストラリア原住民アボリジニの風習から影響された「夢の時」。夢幻の世界が広がる。
武満旋律というのか、形はあるが捉えどころがない世界。大野和士の指揮はかなり分析的で鋭い演奏。
なんとこの日は、武満徹の命日(1930.10.8〜1996.2.20)だった。もしかしたら遺族が会場に来ていたかもしれない。
私が大学生の頃(1974年あたり)、渋谷道玄坂のヤマハでレコード(CDはまだなかった)を物色していたら、やはり同様に物色中の武満徹を見つけ、彼のピアノ作品集のレコードを急遽購入しサインしてもらったことを思い出した。彼の万年筆がモンブランだったのを覚えている。
あのレコードは、福島の実家を売却する時に処分したのが、今でも惜しまれる。
武満徹
2曲目は、この夜一番楽しみにしていた「アルト・ラプソディ」。
約12分のメゾ・ソプラノと男声合唱のための曲だから、名曲にも拘らず演奏機会にも恵まれないし、しかも演奏が難しい。CDでも納得する録音はなかなか無い。
藤村実穂子(55歳)の「アルト・ラプソディ」は一期一会の名演だった。歌詞を読み込んだ解釈と深い声に感動。
オーケストラ、新国立劇場の男声合唱との見事なハーモニー。絶望、諦観から希望に至る演奏設計が見事だった。
藤村実穂子
「アルト・ラプソディ」には副題がついていて 〜ゲーテ「冬のハルツの旅」による とある。
今回のプログラムを読んで、ハルツは山の名前なのを初めて知った。人名だと思っていた。
ゲーテが多感で厭世的青年のプレッシングとともにハルツ山に旅した際に書いた詩の一節が歌詞になっているのだった。無知とは恐ろしい。
ハルツ山
後半のマーラー交響曲第4番は、ホルンが不調だったが、故ベルティーニ、インバルという首席指揮者に鍛えられた伝統があるマーラー・オーケストラの力を16型のフルサイズで見せていた。
なかなかグロテスクなマーラーで面白い。ただし第4楽章のソプラノ独唱の中村恵理(45歳)は声量不足。それを補うだけの歌唱力がなくて残念。
新国立劇場での「フィガロの結婚」のスザンナ役などの好演を知っているだけに期待はずれ。
終演は20時。早めに夕食を食べてしまうと寝てしまう危険がありいつもコンサート前は食べないから腹ペコだが、飲食店は店仕舞い中。
地下鉄で帰る途中のコンビニ(ローソン)でクリームチーズ生ハム包み、赤ワイン小瓶とカツサンドを買って駅のベンチで夕食。演奏の余韻に浸る。
赤ワインをストローで飲みながら生ハムとカツサンドを食べる変なオッサン!である。
ホームレスもどきの悲しい晩飯をしなければならないコロナ禍の東京である。
しかし、このチリ産のpuduとかいうカベルネソーヴィニオン&シラーのワイン(300円)は悪くない。もう1本買うんだったなあ。