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TV録画していた映画「ボルベール/帰郷」(2006年 ペドロ・アルモドバル監督 120分)を見る。

 私はアルモドバル(写真下)の映画は、「オール・アバウト・マイ・マザー」(1999年)ぐらいしか見ていないのだが、この「ボルベール」も素晴らしい。映画史の巨匠のひとりに数えられるだけの存在感を示している作品だろう。

ペドロ・アルモドバル監督(1949年9月25日〜)

 まず構成・展開が見事だ。最初展開が速くて待て待てという感じなのだが、次第に整理されてくるともう引き込まれている。

 アルモドバルは、この映画の舞台のラ・マンチャの出身だが、なんとも大らかな味わいで、マドリードやバルセロナの大都市出身の映画監督たちのフランスっぽさやイタリアっぽさが無くて、まさにスペインという土埃が舞っている感じ。根底に骨太の人間賛歌があるように思う。

 アルモドバルこそ現代に生きる「ラ・マンチャの男」ということなのだと納得する。

 そして、見事なキャスティングである。まずペネロペ・クルス!いやあまさにスペインの女優である。

 トイレでオシッコするシーンが音入りであるぐらいの開けっ広げの演技である。

 それがもう100%、女、女、女。豊乳を見せびらかし、また歌(上手い!)も踊りもサービスする、なんとも凄い女優だ。それでいて、その存在が決して騒々しくないのだ。

 そしてそのペネロペ・クルスの母役のアルモドバル映画の常連のカルメン ・マウラ(左端)のユーモラスな演技も見事の一語。その地味な姉役のロラ・ドゥエニャス(左から2番目)も実に上手い。

 上掲の写真でも分かるが、その色彩感覚も極めて独自だ。単に激しい原色使いにとどまらず、ペネロペ・クルスのグリーンとパープルの意外なコンビネーションなどはちょっとマネができないものだ。それが映画の価値を高めている。

 この映画見ていると、「人間にとって死ねことなんて大したことじゃない。人間にとってお金なんて大したことじゃない。何が大切かというと、それは生きたいように生きること」という丸太のような「人生観の棍棒」でぶん殴られたような気分になる。コロナに怯えているのが、アホらしくなってくる。

 この地方だけの習慣なのか、男でも女でも親しい間柄なら会えば抱き合い鳥が囀るようにチュッチュッチュッと頬を舐め合う。ああ、この濃厚接触はコロナ感染拡大でも続いているんだろうなあと思う。

 映画を撮るということがどいうことなのかを本能的に知っている映画作家(脚本を自分で書く映画監督のことだと私は認識している)の作品は意外に少ないものだが、アルモドバルは明らかにその一人。

 もう少しその映画を見てみたいと心から思った。

(2020.8.7「岸波通信」配信 by 三浦彰 &葉羽

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