たとえばある日にはヒットを3本も打った打者が、翌日は4三振。一体何があったのか?と不思議に思ったことはないだろうか。
もし所属選手が、身体の様々なデータを取得できる端末を内蔵したインナーウエアを着て、それを監督やコーチが瞬時で見られるようになったら、選手起用が当たりに当たって、そのチームの勝率は飛躍的に上がるだろう。
ウエアラブルというのはそんな様々な機能を持った新時代の「ウエア」である。
軽くて付けているのが感じられないようなシンプルな構造の「ウエアラブル」が様々な場所でいよいよ登場し始めている。
すでにパワードウエア、パワーアシストスーツ、マッスルスーツなどと呼ばれるウエアラブルデバイスは実用化されている。
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マッスルスーツ |
建設作業員が重い荷物を持ち上げる際の補助や腰への負担軽減に使用されている。また介護施設では介護士が身障者をベッドから車椅子に移動させたりする際に役立っている。
これらは、ウエアというよりは、マシーンという一面が強く、機械メーカーや作業着メーカーがその製造や販売を手掛けるようになるだろう。
一方、データ端末内蔵型の「ウエアラブル」は、不振に苦しむアパレル業界にとって救世主になる可能性がある。
例えば子供服メーカーのキムラタンではウエアラブル技術を使った保育園児の見守りサービス「ココリン」を始めている。
ココリンの端末
キムラタンは、ウエアラブルIoT(モノのインターネット)製造企業のミツフジと協業して保育に特化したウエアラブルソリューション「ココリン」を自社が経営する神戸の「キムラタンほいくえん」で昨年10月から使用し始めた。
「ココリン」は身体情報を検知するセンサーを搭載したスマートウエア(衣服型デバイス)を子供に着用させ、心拍からの独自のアルゴリズムで体調不良の兆候を察知したり、衣服内温度センサーによって発熱傾向が見られたり、加速度センサーでうつ伏せ寝の状態が続いたらアラート信号が出る仕組みだ。
ココリンをウェアに装着
通常は保育士が園児ひとりひとりを目視で見守っているが、勘と経験に頼った判断も多く、「ココリン」の併用で安心感が増したという声が保育士や父母から聞かれるという。
また慢性的な保育士不足、保育士の負担増にも「ココリン」は大きな助けになりそうだ。
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園児のスマートウエアに端末を装着する保育士 |
ちなみに「ココリン」のスマートウエアを製造しているミツフジは1956年に、京都の西陣織の帯メーカーとして創業した。着物産業の衰退に伴い、同社は、高導電性で、電磁波防止、抗菌防臭作用もある銀メッキ糸に着目し、1990年代に業態を転換。
さらに2016年に銀メッキ繊維が優れた導電性を持つことから、着るだけで心拍などの生体情報が取得できるウエアを含め、トランスミッター、アプリ&クラウド、アルゴリズムまで一貫して自社開発する企業に変身した。
不況業種の繊維からウエアラブル企業に転身した代表的企業だ。
キムラタンでは、「ココリン」サービスを今後段階的に全国展開する予定だ。
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園児の生体データをタブレットで読む保育士 |
「ココリン」は保育園での「ウエアラブル」利用の実例だが、こうした利用はわれわれの生活の中で今後急激に増えていくことが予想される。
「ココリン」のスマートウエアは1着2000円、データ送信端末(トランスミッター)の月額使用料は1園児あたり1800円。そのほかタブレットなど様々なオプションがある。
近い将来、衣服は着飾って異性の気を引くというような従来の役割を終えてしまうのではないだろうか。
今後は身体データを採取するウエアラブルデバイスとしての役割が主流になるのではないか。未来学者はそんな予測をしているかもしれない。
(2020.4.17「岸波通信」配信 by
三浦彰 &葉羽)
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