もともと、プロテスト・ソングというものは、そういうものだったはずです。
1950年代末、キングストン・トリオが「トム・ドゥーリー」で火をつけたフォークソング・ブームの中から、ジョーン・バエズやボブ・ディラン、ピーター・ポール&マリーらのスターが誕生し、やがて、アメリカがベトナム戦争の泥沼に向かう中で、プロテスト・ソングが歌われるようになりました。
そこで歌われたのは「花はどこへ行った」、「悲惨な戦争」、「風に吹かれて」…いずれも恋人などを戦地に送り出した者たちの視点から、悲しみを訴えたものでした。そこには“戦争反対”などという歌詞は、一つも出て来はしないのです。
そして…ジョン・レノンの名曲「イマージン」もまた、静かな反戦歌でした。
まっさんの歌は、それらの曲と同じ視点に立っているのだと思います。
フレディもしくは三教街-ロシア租界にて-
♪フレディ あなたと出会ったのは 漢口
揚子江沿いのバンドで
あなたは人力車夫を止めた
フレディ 二人で 初めて行った レストラン
三教街を抜けて フランス租界へとランデブー
あの頃私が一番好きだった
三教街のケーキ屋を覚えてる?
(中略)
本当はあなたと私のためにも
教会の鐘の声は響くはずだった
けれどもそんな夢のすべても あなたさえも奪ったのは
燃えあがる紅い炎の中を飛び交う戦斗機
フレディ 私は ずっとあなたの側で
あなたはすてきな おじいさんに
なっていたはずだった |
この曲の舞台は、国・共内戦から太平洋戦争へと傾斜していった時代の中国湖北省の省都漢口(ハンカオ:現在の武漢)です。
愛する人と一緒に、歳をとるまで幸せに暮らそうとしていた夢、そんな夢さえも無情に奪っていった戦闘機。胸が締め付けられるようなラブソングです。
これが誰の話であったかは、また編をあらためて書きますが、当時の漢口は、世界の列強が租界を形成していた国際的な貿易都市で、物語はサブタイトルにもあるように、ロシア租界での出来事でした。
ロシア租界には、当時、ユダヤ教とキリスト教とロシア正教の三つの教会があり、“三つの教えを持つ街”ということで「三教街」と呼ばれていたのです。
そして、そこで芽生えた愛は、あっけなく砕け散っていきました。本当にあっけなく…。