朝寝・朝酒・朝湯が大好きで by原口春美
『会津磐梯山』という、ポップアンドキッチュな日本民謡の名曲がある。
「ェエンイヤアーーアア、 会津磐梯山はぁ、宝ぁのォ山よォ」 というイントロだが、若い衆でも音を聞けばわかるだろう。やたらめったら明るくにぎやかな曲である。
歌詞の大筋は「会津(福島県)の磐梯山は金が取れる山で、そこで山師をやって一山あてて、長者(富豪)になった小原という家があったが、その家の道楽息子、小原庄助さんが道楽が過ぎて身上(しんしょう、つまり財産)をつぶしてしまった。」という身もふたもない内容である。
曲の途中でお囃子(要するにラップ)があり、「オハラショウスケさん、なぁんで身上つぅぶした? 朝寝、朝酒、朝湯が大好きで、そぉれで身上つぅぶした (ハアもっともだぁーもっともだぁー)」 ね?笑かすでしょ?
朝寝朝酒朝湯ぐらいで(ハアもっともだぁーもっともだぁー)とまでいわんでもいいだろう、おい。
この曲は徹頭徹尾シンコペーション(要するに裏打ち)で構成されていて、テンポも速いので、へたに明治以降のくそまじめなクラシック音楽教育を受けた世代にはむちゃくちゃ難しいらしい。こんなにおもしろくて楽しいのにねえ。
だからとまでは言わないが、そういう人たちはこの曲が嫌いだ。たとえ東北民謡が好きなひとでもこの曲より『南部牛追い唄』(これも相当難しい唄だ)を選ぶ。
南部とは、岩手県南部のことで、『南部牛追い唄』はここの高原地帯で米を牛に乗せて運ぶ牛方の労働歌だ。哀切極まりない世にも美しいメロディーの曲である。確かに名曲である。あたしも大好きだ。
・・・・・・しかしねえ。『南部牛追い唄』を聞いてるとね、気が滅入るのよね。しみじみとするんだけどね。美しいんだけどね。
だから、年をとったらどうかわからないけれど、今のあたしは『会津磐梯山』を選ぶ。 だいたい「朝寝、朝酒、朝湯が大好き」な小原庄助さんてかわいくない?
自分の欲望に忠実でさ。朝寝と朝酒だけだったら、酒くさくてオヤジくさいだけだけど、朝湯が好きなんだよ。きれい好きの洒落者で、女にもてそうじゃない?
唄はさらに東山の温泉芸者が迎えに着たり、雪化粧した磐梯山が振袖を着て(なんと女であったか磐梯山)奈良の大仏を婿取りしたり、キッチュでシュールな世界が展開し、お座敷宴会歌としての面目躍如たるしろものである。
【鹿児島のライブグループARTSのファンによるライブ・レポートより引用】 |