岸波通信その85「アメリカの作法」

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岸波通信その85
「アメリカの作法」

1 困ったもんだよ迷惑電話

2 米国式電話商法撲滅法

3 必殺技の応酬

4 正しい対処法

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  The Method of the American type 【2018.3.25改稿】(当初配信:2003.10.18)

権限が無いなら、その権限を与えようじゃないかということで、連邦議会で急遽法案づくりが進められ、その日のうちに上下両院で法案を通過。ところが…」
  
・・・本文より

 最近、生活文化の「国際比較論」に興味を持ち始めました。

 近頃、そうした興味を刺激する話~わが国では考えられないような出来事がアメリカで起こったのでご紹介しようと思います。

 この事件は日本でほとんど報道されていませんので、ネット・ウォッチャーの方しかご存じないと思います。それは、激増した「電話商法」への対策が、ジェットコースターのように二転、三転するという“手に汗握る事件”です。

イラスト by yoyo

Mr.コールの法則

地球全体の知能は一定である。
だが、世界の人口は増加し続ける。

(※今回のイラストは“マツゲにマッチ”の yoyoさんの作品。)

 わが国でも、ここ数年来、都心部のマンションを購入して資産運用しませんかなどという突然の電話がかかってきて、対応に苦慮することが多くなりました。

 職場で仕事にイソしんでいる時や家庭の大事な団欒の時間に、無礼極まりない形で侵入してくるこの「電話商法」、まことに迷惑千万なものです。

 ということで、まずは身近な「迷惑電話」の話題を少し。

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1 困ったもんだよ迷惑電話

 最近、Diaryでもご紹介しましたが、メル・マガだけで契約したはずのBIGLOBEインフォチョイスが、突然、「メル・マガご契約の皆さんに郵便でのダイレクト・メールもお送りすることにいたしました」 という一方的な通告をしてきたことで、僕は怒り心頭、猛烈な抗議メールを送りました。

←(それがいやなら自分から「契約変更」しろって、おいっ、ナメてんのかっ!)daddy

 こういう無礼な商法、商業モラルの低下が始まったきっかけというのは、数年前から盛んになってきた「電話商法」でしょう。

 そうした電話への対応にウブだった頃は、ついつい相手の押しの強さに負けて、はっきり断るまでにずいぶん時間がかかったものです。

 でも最近は、慣れっこになってきましたので、ぶしつけな電話に対する「怒り」も素直に表現できるようになりました。(←こらっ!)

←(なんというお互いの時間の無駄、まさに「此の道、今人棄てて土の如し」ですね。)daddy

 ところがもっと最近になりますと、こうした迷惑電話、少しだけ「隠微な愉しみ」に変わってきました。

 と、いうのも・・・職場にかかってくるこの手の電話の「パターン」に気が付いたからです。

イラスト by yoyo

ガッツの法則

人間と国家は、
すべての道が閉ざされなければ、
理性的な行動は取れない。

 どういうことかと言うと、最初にソレらしい電話がお隣のT参事に入ると、慣れた応対で「瞬殺」される。すると・・・今度は、10秒以内に僕の専用外線にかかってくる。

 僕は、T参事のようなあざやかな応対を心の中で描きながらも、なかなか同じようにはできず、心から申し訳なさそうに断ってやっと開放される。すると・・・今度は、次の外線番号である主任主査の電話が鳴り始めるのです。

 毎回同じパターン! よーやるよ、ホントに。

 たまに逆順の時もありますが、とにかく一回入れば、順番に電話がかかってくる。

 となれば、もうしめたもの。最初に「迷惑電話」を受けた人が、部屋中にそのことを告げる。もう誰もが「心構え」をしてベルを待つ。

 まさに「飛んで火に入る夏の虫」「狼の群れに放り込まれた哀れな子羊」とはこのこと。

←(ソレ、なんか違うだろ!)daddy

 今度は心構えの時間が十分あるので、次々に「瞬殺」されていく。

 さらにツワモノになると、興味ありそうに話をぐーんと引き伸ばしておいて、期待感が高まったところでハイさようなら。どーだ、もうかけられまい!

←(いないって、そんなヤツ! よい子はマネしちゃだめだぞっ。)daddy

 それにこりて、もうかけてこなければ可愛いものですが、しばらくすると、また同じような別の企業からかかってくる。

 おそらく企業の方でも、新入社員の訓練と割り切って、実質的な効果は期待していないのでしょう。

 それにしても迷惑なこの電話・・・日本全体で無駄にされる時間とエネルギーを考えると相当なもの。ナントカできないものか・・・。

 ところがっ!

 今年、こういう迷惑電話に見事な対処をしたのが米国でした。

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2 米国式電話商法撲滅法

 こうした迷惑な電話商法、日本オリジナルのものかと思っていましたら、その本家本元は米国で、米国には電話商法企業だけの全国組織までできているそうです。

 米国での電話商法は、「資産運用」ばかりでなく、カード会社の加入、旅行パッケージ、通信サービスの勧誘など実にバラエティに富んでおり、電話に出るなり、応対者が何を言おうが、商品説明マニュアルを大急ぎで読み続けるそうです。

←(ま、似たようなものか・・・)daddy

 こうした迷惑商法に関する市民の苦情に応え、米国連邦政府の「Federal Trade Commission(FTC:連邦商業委員会)」は2003年の7月、Web上に「電話商法拒否サイト」を立ち上げました。

 このサイトは、インターネットでアクセスして自分の電話番号を登録でき、登録された番号に勧誘や販売などの目的で電話をかけた業者には、一回の電話につき最高11,000ドルの罰金が科せられることになったのです。

←(ただし、非営利のNPOや宗教団体などが慈善目的でかける電話と、政治家や政治団体がかける電話は罰金の対象外でした。)daddy

 直接的に電話を通じなくさせる対抗手段ではありませんが、罰金もかなり高額であり、「抑止力」としては十分。・・・うまいことを考えたものです。

 案の定、このサイトが開設された初日だけでも75万件の登録があり、回線がパンクする事態に陥ったそうです。

 そして、約三ヶ月間で登録された総件数は、何と5千万件!

←(凄いっ! 5万件の間違いじゃないですよ、5千万件!)daddy

 施行予定は、この10月1日から…こうして、この日から、迷惑な「電話商法」は米国から撲滅される…はずでした。

 ところがっ!

イラスト by yoyo

コルバードの前提

確率は常に50%である。
つまり、うまくいくか、いかないかだ。

 施行を目前にした先月末の9月23日、連邦オクラホマ地方裁判所が「この行為は行政府の越権行為だ」という裁定をくだしたのです。

 裁定の理由は「連邦議会は、このような行為を禁じる権限を行政府に与えていない」というもの。

←(きちんと「法」にしていなかったアバウトさが“さすが米国”ということで、ちょっと笑えます。)daddy

 この裁定は、唐突に出されたワケではなく、電話商法を行う企業の連合組織が「撲滅サイト」の反対運動を組織し、各地で一斉に「反規制キャンペーン」を張ったり、訴訟を起こしたりした結果でした。

←(やっぱり米国は「訴訟社会」。先手を取られたワケです。)daddy

イラスト by yoyo

チャーノックおじいちゃんの法則

車の運転を習うまでは、本当の“ののしり方”を知らない。

 しかし、驚くのはその後の対応。

 この判決が出た翌日の9月24日、「権限が無いなら、その権限を与えようじゃないか」ということで、連邦議会で急遽法案づくりが進められ、その日のうちに上下両院で法案を通過させてしまったのです!

 こんなこと、この日本で考えられますか?

 もちろん市民=FTC陣営と電話商法企業連合軍とは、水面下で“丁々発止”の戦いを繰り広げていたのでしょうが、日本なら、いくら早くても一年以上はかかったでしょう。

 この対応、すばらしいの一語!

 米国の「正しいと思ったら一直線」という気質は、悪い面が出ると、途方も無い「ごり押し」になることがありますが、とりあえずこの一件に関しては、喝采を叫びたい気持ちです。

 ところがっ!

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3 必殺技の応酬

 この法案が成立した同じ9月24日のその夜、今度は、「企業連合」が提訴していた別の裁判所・・・連邦デンバー地方裁判所が「政府の行為は憲法違反」との裁定を下したのです。

 「この施策は、表現の自由を保障した憲法に違反する」とし、「NPOや政治団体の電話はOKなのに、商売目的の電話はダメというのは差別だ」とまで言っています。

 これはもう“必殺技”! もはや連邦議会の権限さえ及びません。

 この裁定を覆すのには、連邦最高裁などで争う以外ないでしょう。

 さすがに「三権分立」がきちんと機能している(←のか?)この米国、行政府も議会も裁判所も複雑に絡み合って大乱闘の様相・・・まさに典型的訴訟社会です。

←(僕たちが目指して来たのは、こういう“民主主義”だったのかなぁ?)daddy

 いずれにしても、この日本との社会文化の違いをまざまざと見せた今回の事件でした。

 ところがっ!

イラスト by yoyo

デュシャルムの教訓

絶好のチャンスは、最悪のタイミングでやってくる。

 今度は、待ったをかけられて「怒り心頭」に達した市民が、ついに“必殺技”を繰り出したのです。

 あまりのことに耐えかねた市民らは、電話業者に有利な裁定を行った二つの地方裁判所の裁判官~オクラホマ裁判所のウェスト判事とデンバー裁判所のノッティンガム判事の名前をインターネット上に公表し、二人の判事に「みんなで迷惑電話をかけてやろう」 という心無い書き込みがネット上を駆け巡ったのです。

 「因果応報」? いえいえ、この二人は、それぞれの良心に従って、法律のプロとしての仕事をしたまでのこと。

 決して、電話商法そのものを肯定したワケではなく、「法に照らして」違法性があるかないかを判断した・・・と信じたいです。

 判事に出来得ることは「正義を実現する」ことではなく、「今、現にある“法”に事実を照らすこと」まででしょう。

 そういう観点において、僕は、この二人の判事を気の毒に思います。

 たとえ、“法”が現実社会の価値観の変化についていけてないとしても、やはり「悪法も法」なのですからね。

←(誤解の無いように言っておきますが、米国憲法が悪法だと短絡しているワケではなく、下級裁判所の判断に異議があれば、上級裁判所で争うべきだ、それがルールだ、と主張しているのです。)daddy

 自らの言が絶対の正義と言い張り、国際社会(国連)のルールを無視してイラク開戦に踏み切った国、その国民もまた、同じ論理で人道にそむく行為をしてしまう人々なのでしょうか?

 「そいつをやっちゃあ、おしまいよ」 ・・・おーーぃ、誰かそれを言ってくれ! ナンなら本間ちゃん、渥美清のモノマネでやってくれっ!

←(こらっ!)daddy

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4 正しい対処法

 最後に、ちょっとだけ日本における「電話商法」への正しい対処法について触れておきましょう。

 日本では、携帯電話への「ワン切り」などの規制は実施されていますが、米国のように電話を用いたビジネス勧誘全般を取り締まるような法律を創ろうという取り組みはまだのようです。

 となると畢竟、電話会社が提供するシステムを用いて対応するしかありません。

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 NTTのサービスの例では、「迷惑電話おことわりサービス」「ナンバーディスプレイ」などによる対応があります。

 このうち「迷惑電話お断りサービス」は、工事料金と登録料で2,000円、使用料は着信拒否登録6件までが月額600円、30件まで拒否できるようにすると月額700円がかかります。

←(6件契約の場合は、7件目からは始めに登録した番号が解除されて登録されます。30件契約も同様。相手の電話が「非通知」の場合、電話をいったん切り、すぐに受話器を上げて「114」にかけます。ガイダンスが流れて、その後に「2」を押すと、何件登録されたかガイダンスが流れて、それが終わったら切れば、その電話からは2度とかかってこなくなります。)daddy

イラスト by yoyo

クラークの第二法則

物事の可能性の 限界を知る唯一の方法は、
限界を超えてみることである。

 もう一方の「ナンバーディスプレイ」を併設して着信拒否する場合は、工事料金と登録料で2,000円、使用料は月額400円。ただし、事業所用回線の場合は月額1200円となります。

 こちらは非通知の場合でも直接「非通知ガード機能」を用いて拒否設定することができ、番号の通知がある場合も、勿論、その番号を「ブラックリスト」に追加するだけで、その番号からかかる事がなくなります。

 でも・・・

 携帯電話ならば、こんなことは標準サービスの中で出来るのに、固定電話は別途有料サービスになっちゃうんですね!・・・そういうことだから、NTTは携帯電話に負けちゃうんじゃないでしょうか? 写メールもできないし・・・あはは!

 なお、こうした業者サービスだけでは迷惑電話を撲滅できないということで、市民が自己防衛のために立ち上げたサイトもあります。

悪質な電話商法等の情報交換を行うためのサイト

  悪質な電話商法業者の発信元ナンバーやその手口などについて、市民が情報交換するためのサイトも多く立ち上がっています。

 そうした代表的なサイトの一つに「迷惑商法殲滅大作戦」があります。

迷惑商法せん滅大作戦のバナー http://www.nextftp.com/butaman/ 

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 このサイトでは、単なる迷惑電話勧誘や「ワン切り」などの情報ばかりでなく、「電話で人を呼び出し、高額な商品を執拗に勧める」テレホン・アポイントメント商法、さらには、電話勧誘を行う人を高報酬で募集するというインチキ商法まで、紹介されています。

 こういうサイトに情報公開された悪質業者の番号を「着信拒否」に設定しておけば・・・と、ここまで書いて空しくなしました。

 だって、そういう悪質業者、日本には星の数ほどもあるんですから


 

/// end of the “その85「アメリカの作法」” ///

 

《追伸》

 たった一日で迷惑電話商法規正法案を通してしまった米国の上・下院。5000万人の登録者という圧倒的な国民の声を正義とし、すぐさま政治が動く・・・こうしたことを米国では「Political Will(政治の意志)」と呼びます。

 しかし、そのPolitical Willさえ、場合によっては「違法(違憲)」であることもあるのです。

 実は、同様の考え方が、何と、あの中国にもありました!

←(中国と米国って、文化や価値観的に最も遠いと国と感じるのは僕だけでしょうか?)daddy

 それは、三国志の時代、劉備玄徳ら桃園の三人が掲げた「侠」という価値観です。

←(劉備玄徳は「仁義の人」としても有名ですが・・・。)daddy

 この「侠」というのは、「たとえ法に背こうとも、義理を重んじ、男としての生き方を通す」という考え方で、この現代日本にもそういう人々がいらっしゃいますネ。(←小さな声)

 しかし、あの頃の中国といえば、後漢朝の統制が崩壊し、世は群雄割拠のさなか。中原を統べる法の成立など望むべくもなかった時代です。

←(漢朝の威光は凋落の一途。ましてや当時の中国の法は「天子」の治世の手段でしかありませんでしたから・・・)daddy

 だからこそ、「法」よりも「侠」を優先させねばならなかったのでしょう。

 ひるがえって、21世紀の現代米国、国際社会のルールよりも米国民の声や国益を優先して政治が動く。民主主義の根本は「法治国家」ではなかったのか?

 かつて、わが国の平和主義を「一国平和主義」と揶揄した人々がいました。今もいます・・・そうかも知れません。

 ならば、米国の民主主義は「一国民主主義」に陥ってはいないか?

 そうしたイデオロギーが許されるなら、たとえ全世界が民主主義国家になろうとも、結局は「一国民主主義」というイデオロギー同士の衝突を生むことになりはしないか?

 今、真に求められているもの・・・それは国連を軸とした「国際民主主義」という新しい価値観ではないのかナと思います。

←(「電話商法」の話から一気に飛躍してしまいましたが・・・)daddy

 

 では、また次の通信で・・・See you again !

イラスト by yoyo

基本定理

新しいシステムは、新しい問題を生成する。

管理人「葉羽」宛のメールは habane8@ybb.ne.jp まで! 
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To be continued⇒“86”coming soon!

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【岸波通信その85「アメリカの作法」】2018.3.25改稿

 

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