岸波通信その70「スーパー・スカイスクレイパー」

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岸波通信その70
「スーパー・スカイスクレイパー」

1 天空に馳せる夢

2 鉄の貴婦人

3 スカイスクレイパーの登場

4 各地に建設されるスカイスクレイパー

5 スーパー・スカイスクレイパープロジェクト

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  The super skyscraper 【2018.4.15改稿】(当初配信:2003.6.5)

人はどんな高い所にでも登ることができる。 しかし、それには決意と自信がなければならぬ。
  
・・・アンデルセン

2001年9月の米国同時多発テロ事件で崩壊したマンハッタンの世界貿易センター(WTC)ビルの跡地に、世界一の超高層摩天楼群が建設されることが決まりました。

WTC跡地に建設が決まった世界一の超高層ビル

(※クリックで写真拡大→)

 ビル群の中心になるのは、ドイツのリーベスキンド氏のグループがデザインした高さ531mの鋭角的なビジネスビル。

 グラウンド・ゼロの悲劇を記憶するために市民運動が提案していた「そのまま残す」という案は却下され、犠牲者の追悼施設「メモリアル」着工も先送りに・・・

 結局、米国は、ここでも「世界最高」のこだわりを捨てきれず、現代の『バベルの塔』を造る道を、またも選択してしまったのでしょうか?

 今回の通信は、捨てきれない「スーパー・スカイスクレイパー(超摩天楼)」の夢を追い続けてきた人類の軌跡を辿ります。

在りし日の世界貿易センタービル


 

1 天空に馳せる夢

 “天空にそびえ立つ建築物を造る”というのは、古代から現代に至るまで、一貫して人類が抱き続けた夢でした。人類を「高層建築物」の建設に掻き立てたものは、いったい何だったのでしょうか?

 強大な権力の象徴を手にする? それとも神の居まします天に、少しでも近づきたいと願う信仰心の表れだったのでしょうか?

 紀元前7世紀、新バビロニア王朝のネブカドネザル2世が造ろうとしたジグラート(バベルの塔)は、ヘロドトスの記述によれば、185mの高さまで完成していたのに、天に近づくという不遜な企てが神の怒りに触れて「共通語」を奪われ、その混乱によって塔を自ら崩壊させてしまったということは、通信その41“民族の共生と言語コミュニケーション編”で触れました。

 現存する建築物で最も古い摩天楼は、紀元前2580年頃に建造されたエジプト・ギザにあるクフ王のピラミッド(高さ146m)で、これは1307年にイギリスの「リンカン大聖堂」に尖塔が取り付けられて160mになるまで、何と、4000年もの間、人類が造った最も高い建造物だったのです。

クフ王のピラミッド

 また、中世ヨーロッパでは、ゴシック様式の尖塔を持つ大聖堂(カテドラル)が各地で建設されました。これらは、100年から200年もかけて建造されるのが普通で、高さが150m以上に及ぶものもあります。

 時代は下りますが、ガウディによるスペイン・バルセロナの有名な「聖家族教会(サグラダファミリア)」も、1882年に着工されてから既に120年余り。・・・完成まで、あと100年以上とも言われています。

聖家族教会(サグラダファミリア)

 さらに、驚くべき建造物をもう一つ。

 インド中部エローラにあるヒンドゥー教の遺構「カイラーサ寺院」は、幅45m、奥行き85mほどの岩山を“上から堀下げて”寺院の形を削りだしたものです。

 高さ32mのこの寺院の中には、削り出された柱や梁が残され、広い空間が形成されています。

daddy(個人的には、これが一番凄いと思う。)

 元になった一つの花崗岩は、その重さが推定300万トン。これを一世紀以上かけて槌とノミだけで掘り出す・・・これは建築と呼ぶべきかはたまた彫刻と呼ぶべきなのか、寺院の壁には空飛ぶ天女舞踏するシヴァ神などの神話の精巧なレリーフが彫り込まれ、圧倒的な景観を形作っています。

 この想像を絶する宗教的情熱・・・さすがインド、だと思いませんか?

エローラ第16窟「カイラーサ寺院」


 しかし、石材や木材を用いた建築物では、支えられる重量や「高さ」を作り出す構造に限界があります。

 19世紀後半になり、「鋼材」が建築材料に用いられるようになりますと、鉄骨を用いた高層建築物が次々と建造され、ようやく「高さ」を求める競争が本格的にスタートします。

 そして、その最初のきっかけとなったのは、パリの「エッフェル塔」です。

 

2 鉄の貴婦人

 “鉄の貴婦人”の異名を持つエッフェル塔は、もともと、「フランス革命」百周年を記念して、1889年に開催されることになった「パリ万国博覧会」のパビリオンとして建造されたものでした。

 その高さは約300m! 当時の世界最大の建造物は、1884年に建てられた高さ161mの米国の「ワシントン記念塔」でしたから、いっきに倍近い高さを達成したのです。

“鉄の貴婦人”エッフェル塔


 しかし、このエッフェル塔の建設が決まると、パリ市民からは轟々たる非難の声が浴びせられました。

 当時は、建築物は「石造り」という考え方がありましたので、鉄骨むき出しの塔というものは、パリ市民の美意識にとって耐え難いものだったのです。

 フレデリック・サイツの著した『エッフェル塔物語』には、当時のパリ市民の以下のような“”が記されています。

エッフェル塔物語」(フレデリック・サイツ著)から抜粋

 塔という野蛮な塊は、巨大で黒々とした工場の煙突のようにパリを支配し、歴史的建造物はすべて影が薄くなってしまうだろう。

 この先20年間、何世紀にもわたる歴史のあとをとどめるパリの空に、ボルト締めされた鉄板製の醜悪な円柱の醜い影が、インクのしみのように広がるのが見えるだろう・・。

 いやはや、散々な評価です!

 でも、完成したエッフェル塔は、世界中から万博に集まった人々に凄まじいまでの人気を博しました。一般公開の第一週目には、2万8922人が“徒歩”で塔に登ったのです。

daddy(当時、まだ「エレベーター」はありませんでした。)

 しかし、それにも関わらず、エッフェル塔は20年後の1909年にパリ市に引き継がれ、解体される運命にありました。

 もともと「パビリオン」の一つに過ぎませんでしたし、取り壊しを求めるパリ市民の抗議の声も依然強かったからです。

 それにもかかわらず、エッフェル塔は今も残されています。何故でしょう?

 エッフェル塔の残存を決定付けたのは、その「実用価値」でした。塔には無線電信用のアンテナが取り付けられ、また、「気象観測」や空気力学などの「科学的実験」には無くてはならないものになっていたのです。

 さらに、第一次世界大戦が勃発すると、エッフェル塔には「軍事用の無線アンテナ」も取り付けられ、敵国ドイツの無線を傍受して、その侵攻さえ防ぐ役割を果たしたのです。

daddy(「一時的に」ではありましたが・・・)

 エッフェル塔は、現在では年間500万人が利用するパリの代表的な観光名所となり、2002年末には、延べ入場者数が2億人(!)に達したそうです。

 1億人に達したのが1983年だそうですから、この20年間だけで1億人が、この塔からパリの街を見下ろしたことになります。

エッフェル塔を下から望む


 

3 スカイスクレイパーの登場

 さて、高い“塔”はこのようにして、世界各地に造られていくことになりますが、高層ビルが実現するためには「エレベーター」の実現まで待たねばなりませんでした。

 今世紀の初め、高層エレベーターの技術が完成し、これを最初に取り入れたのはニューヨークのマンハッタン島でした。

 この「狭い島」が、多くの人々が集う「世界の経済都市」へと発展するためには、空へ向かってビルを高層化する必要があったのです。

 1913年に、60階建て(240m)のウールワース・ビルが完成したのを皮切りに、1920年代には高層ビルが次々と建てられて行きました。

 こうした高層ビル群は「スカイスクレイパー」(摩天楼:空を引っ掻くもの)と呼ばれるようになり、1929年、ウォール街の株価大暴落に端を発する「世界大恐慌」が起きてからも、その建築ラッシュが滞ることはありませんでした。

 そして、1931年。ついにキング・オブ・スカイスクイレイパー「エンパイア・ステートビル」(102階:381m)が完成するのです。

エンパイア・ステートビル


 そして、その2年後の1933年。堂々たる威容を誇るこのビルを舞台に世紀の大事件が勃発します!

 何と「キングコング」がエンパイア・ステートビルによじ登り、ブロンド美女を片手に、近づく飛行機を次々につかみ落としたのです!

・・・と、これは冗談ですが、ニューヨークの顔ともいうべき「エンパイア・ステートビル」を舞台にした怪獣映画の元祖ともいうべき「キングコング」が劇場公開されたのが1933年のことでした。

 海外の映像がリアルタイムで見ることが出来るテレビの「衛星中継」など、まだ無かった当時のこと、ニューヨークの摩天楼は、映画「キングコング」によって世界に強く印象付けられました。

映画「キングコング」


 

4 各地に建設されるスカイスクレイパー

 1930年代、世界のスカイスクレイパーの「ベスト・テン」は、以下のようなラインップでした。

1930年代「世界の高層ビル」ベスト・テン
ビ ル 名
高さ(m)
階数
(階)
建築年
エンパイア・ステートビル
381
102
1931
クライスラービル
318
77
1930
ウォール街40番地ビル
282
71
1929
ウールワース・ビル
241
57
1913
シティ・バンク・ファーマーズ・トラスト
225
57
1931
ターミナル・タワー
215
52
1930
メトロポリタン・ライフ・ビル
213
50
1909
500・五番街ビル
212
60
1931
チャニン・ビル
207
56
1929
リンカン・ビル(米)
205
53
1930

残照のクライスラービル

 聞いて驚くなかれ、これら「世界ベスト・テン」は、その全てが米国、しかも、クリーブランドにある「ターミナル・タワー」を除く九つがニューヨークに存在していたのです!

daddy(この米国の栄光…米国がグラウンド・ゼロに世界一を求めるこだわりも理解できるような気がします。)

 その後、20世紀末には、「世界一」を目指した飽くなき摩天楼建設競争が世界中で展開されました。

 現在、「世界一」の座にあるのは、1997年にマレーシアのクアラルンプールに建設された「ペトロナス・ツインタワー」(88階:452m)で、マレーシアの石油メジャー“ペトロナス”の所有です。

ペトロナス・ツインタワー

 現在のベスト・テン第二位が米国シカゴの「シアーズタワー」(110階:442m)、三位が中国上海の「ジン・マオ・ビル」(88階:421m)で、その次が“失われた”ニューヨークの「世界貿易センタービル」でした。

 繰上げ四位となったのは、中国シェンチェンの「シュンヒン・スクウェア」、五位が「エンパイア・ステートビル」、六位と七位がいずれも香港の「セントラル・プラザ」と「中国銀行ビル」。九位が、よく“世界一豪華なホテル”として紹介されるUAEドバイの「エミラテスタワー」。十位がまたも香港の「ザ・センタービル」です。

 以上は、いずれもスカイスクレイパーという“建築物”ですが、高層アンテナなどの“建造物”では、これらを超える高さのものも建設されています。

 「世界一」はカナダ・トロントの「CNタワー」(553m)、二位はモスクワの「Ostankino Tower」(540m)、三位はテレビアンテナ部分も加えた「シアーズタワー」(527m)、四位が上海の「Oriental Pearl TV Tower」(468m)。

 そして、五位にやっと“建築物”世界一の「ペトロナス・ツインタワー」が入ります。

世界一
CNタワー(カナダ)
553m

第二位
Ostankinoタワー
540m
第三位
シアーズタワー
527m
第四位
パールTVタワー
468m

(注:もちろん写真の高さは実際の塔の高さの順位を表すものではありません。↑)

 

5 スーパー・スカイスクレイパープロジェクト

 さて、人類の「高さ」を求める競争は、まだまだ続きそうです。

 冒頭に述べた「グラウンド・ゼロ」に建設される新たな世界 NO.1ビルがそうですし、中国、ベルギー、インド、シンガポールにも超・超高層ビルの計画が目白押しです。

 しかし、現在進められている「スーパー・スカイスクレイパープロジェクト」の中で、最も度肝を抜く構想は、我が日本の「X-Seed 4000」プロジェクトでしょう。(←大成建設が提唱。)

 何と言っても、その高さは4000m! だってアナタ、これって「富士山」よりも高いんですよ!

 建設計画地は「東京湾洋上」。ビル一つに百万人が居住できる・・もはやこれは「都市」ですね。完成予定写真は下記です。

X-Seed 4000プロジェクト


 で、現在、世界で構想されている「スーパー・スカイスクレイパー」プロジェクトの一覧表はこちらです。

世界の「スーパー・スカイスクレイパー」プロジェクトランキング
プロジェクト(ビル)名称
場所
高さ
(m)
階数
(階)
構想設計
X-Seed 4000 日本
4000
800
大成建設
Try 2004 日本
2004
400
清水建設
Aeropolis 2001 日本
2001
500
-
Mile High Towe 米国
1610
528
Frank Lloyd Wright
Pyramid-In-Pyramid シンガポール
1500
-
-
Mother 日本
1321
220
三井建設
Super Pyramid 日本
1000
195
-
Sky City 1000 日本
1000
196
竹中工務店
M tower 中国
900
-
Sir Norman Forster
Seiren 21 日本
880
180
鴻池組

 しかしねェ。どうして「上に」伸ばさなきゃいけないんでしょうか?

 J.G.バラードの名作SF「至福一兆」の世界ならば、やむを得んでしょう。だって、地球人口が「一兆人」を超えた世界の話ですから。

daddy(J.G.バラード:宇野利泰訳「時間都市」創元推理文庫1969発行に所蔵。)

 でも、どうでしょう。エレベーターで繋いだビル空間はたしかに便利。それは、例えば全部「平屋」の福島県庁をイメージしてみれば分る。会議が開かれて集まるのも大変、すごく歩かなきゃいけない。

 それに、光ファイバでインテリジェント化するのも集中エアコンも効率がいいかも知れない。

摩天楼の森

 だけど、「集中のメリット」はあくまでも全体が立方体の箱型や、さら言えば、“球型”で最も効果的に発揮されるはず。

 極端な直方体、線的な「超高層ビル型」では極めて非効率のはず・・・。

 それでも「高さ」を求めるというのは、やはり「ケムリと愚か者」の思考ではないのかな? 貴方はどう想います?

 そういった感想の反面、エッフェル塔の話にもありましたように、あれほどの文化的建造物が、建設当初には保守的な市民から非難を浴びた、ということも考えさせられます。

 やはり、フロンティアを拓く者は100%の支持を得られることはない、ということなのでしょうか?

 何はともあれ、最後に超高層ビル街の夜景でも見ながら、人類の飽くなき挑戦の行く末について、貴方も想いを巡らせて見ては?

 

/// end of the“その70「スーパー・スカイスクレイパー」” ///

line
 

《追伸》

 ニューヨークのリバティ島に、遥か大西洋を見つめて佇む“自由の女神”、これもまた人類の誇る巨大建造物の一つでしょう。

 土台部分に刻まれたエマ・ラザロスの詩~「疲れ果て、困り果てた哀れなる人々よ、自由を求める人々よ、さあここへ集まりなさい」の通り、ヨーロッパからの移民たちが船上から最初に目にする自由と希望と民主主義のシンボルですね。

 この像は、アメリカ建国百周年を記念して、フランスから寄贈されたもの。現在は、イラクの戦後処理を巡って反目しあう米国とフランスですが、こんな蜜月の時代もあったのです。

 フランスの法学者エドワール・ド・ラブレーによって発案された「自由の女神」寄贈プロジェクトは、彫刻家オーギュスト・バルトルディにデザインが委ねられました。

 苦心した自由の女神の「」は、ドラクロワの描いた「民衆を導く自由の女神」の顔と、バルトルディ自身の厳格な母親のイメージを重ねてデザインされたそうです。

 像は1884年に完成し、分解されて海路米国に向かいましたが、それを乗せるはずの「台座」が資金不足で完成しないという事態になりました。

 その時、立ち上がったのがジョセフ・ピューリッツァーです。

daddyピューリッツアー賞の創始者です。)

 彼は「フランスが友好の証として女神を贈ってくれるのに、アメリカはその台座さえも用意できないのか」と新聞で論陣を張り、これを見て愛国心をくすぐられた人々からあっという間に「浄財」が集まったそうです。

 僕は、イラクを巡る米国の最近の振る舞いは余り好きにはなれませんが、この「愛国心」を大切にする国民性は、我が国ももっと見習っていいのではないかと思います。

 

《新たな追伸》 2003.8.3

 通信その74「皆さんのレスのおかげです」でも紹介したレスですが、この号を当初配信した際にいただいたレスを、もう一度、ご紹介したいと思います。

>>エッフェル塔は実は今年の冬に、本物を間近に見てきましたよ。今でこそ観光名所の一つですが、確かに当時のパリの石造りの街並みにはそぐわなかっただろうな・・・と思った事を思い出しました。

 しかし、現在でもパリには新しい建築物が出来るたび、にケンケンガクガクの大論争になるのだとか。美意識の高い、パリを愛するフランス人の精神嫌いじゃありません。日本人も、もっと景観に対するこだわりとか、自分の住む地域を愛する精神があっても良いと思います。

 数年前のイタリア旅行ではミラノのドウモ(大聖堂)の前に完全ノックアウト! あんなでっかい、しかもゴージャスな建物を見たのは生まれて初めて! 当時は娯楽も少なかったし、教会で祈りをささげたり、会話を楽しんだりということが日常生活の中でのちょっとしたクライマックスだったのかもしれませんね。

 ××は高いところが好き、と言いますが、私も高いところや高い建物は嫌いじゃありません。雄大な景色は、気持ちを大きくさせてくれる気がするし、息をはあはあ言わせて目的地を目指す過程は、何というか、、、初心に戻る感じ? 快感です!

 で、何故このレスかというと、これは、《Web版》「岸波通信」が誕生するヒントになった「美しいWebメール」だったからです! ノリぴー、ありがとう!

 

 では、また次の通信で・・・See you again !

自由の女神

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To be continued⇒“74”coming soon!

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