岸波通信その59「風に立つライオン」

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Present by 葉羽
白夜」 by TAM Music Factory
 

岸波通信その59
「風に立つライオン」

1 100万羽のフラミンゴ

2 故郷ではなく東京の桜が

3 それだけは信じてください

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  A Lion In The Blowing Winds  【2016.7.24改稿】(当初配信:2003.4.17)

「最後になりましたが あなたの幸せを 心から遠くから いつも祈っています。」
  ・・・『風に立つライオン』(さだまさし)より

 こんにちは。子供の頃からアフリカの大地に憧れ続けている葉羽です。

 僕のいる福島県には、全国で三箇所ある青年海外協力隊の訓練所の一つ、JICA(国際協力機構)の二本松訓練所があります。

 この訓練所から、年に3回、国際協力の熱い思いに燃える100名以上の若者たちが世界の発展途上国へと旅立って行きます。

 協力隊のメンバーは、水道も電気もない異国の土地で、時には餓えや病とも戦いながら、ある者は看護に、ある者は井戸をつくるためにと献身的な協力事業に約2年間、従事することになります。

 そうした若者の中には、自分の夢を実現するために、いくつかのものを犠牲にしながら故郷を後にする者もいるに違いありません。そしてそれは「大切な人」である場合もあるでしょう。

青年海外協力隊訓練所

(福島県二本松市)

 ところで、青年海外協力隊を志す若者の中には、さだまさしさん(→以下「まっさん」)の名曲「風に立つライオン」に感動したことがきっかけになっている人がたくさんいるのだそうです。

 というわけで、今回の通信はまっさんの「風に立つライオン」の誕生秘話についてご紹介します。

 

1 100万羽のフラミンゴ

 三年の間あちらこちらを廻り 
 その感動を君と分けたいと思ったことが沢山ありました

 ビクトリア湖の朝焼け 100万羽のフラミンゴが
 一斉に飛び立つ時 暗くなる空や
 キリマンジャロの白い雪 草原の象のシルエット…

 このまっさんの名曲「風に立つライオン」は、アフリカに赴任した若き医師が、故郷に残してきた恋人に宛てた手紙という設定で作られた歌です。

 この歌詞を聞くと、まだ一度も訪れたことのないアフリカ大陸の雄大なイメージが脳裏に浮かんできます。

 その母なる大地とともに暮らす人々の豊かな心を思うと、我々日本人ががむしゃらに追い求めてきた「豊かさ」とはいったい何だったのか、考えずにはいられません。

ヴィクトリア湖

(C)トラベルハーモニー

 100万羽のフラミンゴ…これは想像を絶するイメージですが、実際、ケニアにあるヴィクトリア湖には、その倍の200万羽のフラミンゴが棲息しているのだそうです。

 そして、そのフラミンゴは夜明けとともに、一斉に飛び立つんですよ。凄いでしょう?

 すると、白みかけた朝焼けの空が、その200万羽のフラミンゴに埋め尽くされて、再び夜に引き戻されるように、真っ暗になってしまうのだそうです。

ナイロビの風景

(C)AB-ROAD

 僕は、これまで、割と忙しい職場ばかりだったものですから、妻には、一緒に旅行に行くなんてことをしてあげられる時間もお金もなく、苦労ばっかりさせて来ましたが、いつかは、地球の自然の驚異を一緒に見に行きたいと思っています。

 その代表的な候補地がこのビクトリア湖の200万羽のフラミンゴ。その他には、北極のオーロラや太古の生態系を残すギニア高地など…。

 ヴィクトリア湖はまた、母なるナイル川の源流ともなっており、ウガンダ側のSource of Nileから、スーダン、エジプトを通って地中海にいたるまで、6,700kmにわたり、古来から人々の生活を潤し、そして幾多の恵みをもたらしてきました。

ナイル川源流

Source of Nile

(C)Creighton Backpack Journalism

 このフラミンゴたちの本拠地は、ビクトリア湖から少し東側に離れたナクル湖という湖で、フラミンゴたちは、この二つの湖を回遊して生活をしているのです。

 ナクル湖は水深3メートルたらずのアルカリ性の塩湖で、もともと魚が生息せず、ここから発生する大量の蚊が近接する住民の暮らし脅かしてきましたが、40年ほど前に住民がそうした環境にも適応できる魚類を放流し、蚊を撲滅して美しい環境が取り戻されたのだそうです。

 でも、どうでしょう。200万羽のフラミンゴがいるなんて、本当に信じられますか?

 ビクトリア湖の面積は6万8千平方キロ。日本の九州が二つ分も入る世界第三位の大きな湖なのです。これだけの広さがあれば、200万羽のフラミンゴがいても不思議ではありませんね。

 そのフラミンゴが一斉に飛び立つときに暗くなる空…まるで奇跡のようなその風景、一度は見たいと思いませんか?

ナクル湖のフラミンゴ

(ケニア:世界遺産)

(C)TABIZINE


 

2 故郷ではなく東京の桜が

 突然の手紙には驚いたけれど嬉しかった
 何より君が僕を怨んでいなかったということが
 これから此処で過ごす僕の毎日の大切な
 よりどころになります ありがとう ありがとう

 ナイロビで迎える三度目の四月が来て今更
 千鳥が淵で昔君と見た夜桜が恋しくて
 故郷ではなく東京の桜が恋しいということが
 自分でもおかしい位です おかしい位です…

 この胸を打つフレーズ。主人公の医師は、愛する人を日本に残し、ケニアのナイロビに赴任して三年。かつての恋人から突然の手紙が舞い込む…。

 彼が思い起こす日本の桜は、故郷の桜ではなく、その人と見た東京の桜だった。

 欠け替えのない時間を静かに振り返る主人公の想いが伝わって来て、とても切ない気持ちにさせられます。

千鳥が淵の桜

出典:NAVERまとめ

 ところで、この歌…実話を元にしていることをご存知でしたか?

 僕は最初、「地球のステージ」で活躍する戦場の医師、桑山先生の話ではないかと思いました。

でもそうではなく、九州は宮崎県出身の柴田紘一郎という外科の先生がモデルになっているのです。実にいろいろなお医者さんが国際協力の現場で活躍されているのですね。

 【地球のステージについて】
  (※「地球のステージ」ホームページから引用させていただきました。2003.4.17参照)

地球のステージWebsaite>> http://e-stageone.org/

◆地球のステージとは?
1996年1月15日よりはじまった、ライヴ音楽と大画面の映像、スライドによる語りを組み合わせ た、まったく新しいタイプの”非営利”「コンサート・ステージ」です。
世界で起きている様々な出来事を、講演形式ではなく、音楽と大画面のビデオ、スライドに写しだし、語りと曲で構成していく「映像と音楽のシンクロ」ステージです。

◆内容は?
インド、ケニア、スペイン、アラスカ、南米などの「放浪篇」に始まり、フィリピン、ソマリア、東ティモール、旧ユーゴスラビアなどの貧困、紛争地域の子供たちの明るくたくましい姿を映し出します。

◆出演者は?
山形で精神科医をしている桑山紀彦がその案内役です。彼はこれまで51カ国を歩き、国際医療救援活動 を展開してきました。AMDA(アジア医師連絡協議会)、JEN(日本緊急救援NGO)、そして地 元のIVY(国際ボランティアセンター山形)に所属し、NGO活動をしてきた桑山の集大成がこの「地球のステージです」。現在はNPO法人「地球のステージ」代表理事として活動中です。
そして、舞台上手にはピアノ、チェロ、コーラスを担当する澤田直子が位置します。他に、プロの音響 スタッフ、映像スタッフ、物販売スタッフがいます。

◆これまでの開催は?
2002年12月末で500回の公演回数を数える”安定した”コンサート・ステージです。
山形県内だけではなく、東北6県をはじめ、最近では全国規模で開催させていただいています。また、これはボランティア活動を支えるための「非営利活動」のステージです。

 まっさんと柴田先生は、まっさんがまだアマチュア時代からの友人です。

 柴田先生は、世間によくあるように、代々お医者さんの家系に育って医者になったわけではなく、ある日突然、医者を志したのです。

 で、そのきっかけというのが、彼のおじいさんがある日くれた一冊の本。さて、何の本でしょう?

 …答えは「アフリカの父」! あのシュバイツァー博士の伝記だったんですね。

(通信その39「シカの手紙」で取り上げた野口英世博士も、左手のやけどの治療をしてくれた会津若松市会陽医院の渡部先生への感謝の気持ちから医者を志したわけですが、いざ男が志を立てる時っていうのは、必ず大きな“出会い”があるものなんです。)

 そして、一旦、使命感に目覚めてしまった男は、もう誰にも止められない。

 だけど…故郷を離れて暮らせば、やはり、辛いことだって起きるわけです。

 そして、そんな時、自分の夢と引き換えに日本に置き去りにして来たかつての恋人から手紙が届く。それは多分、励ましの手紙だったのでしょう。

手紙

 彼女は、置き去りにした自分を怨んではいなかった。心を踏みにじったかも知れないのに、そのことで彼を責めるのでもなく、むしろ、気遣ってくれている。

 …きっと、涙が止まらなかったと思います。そして、そんな時、人は自分の祖国について、人生について想いを巡らすのでしょう。

 この偉大な自然の中で病と向かい合えば
 神様についてヒトについて考えるものですね
 やはり僕たちの国は残念だけれども何か
 大切な処で道を間違えたようですね・・

 去年のクリスマスは国境近くの村で過ごしました
 こんな処にもサンタクロースはやって来ます 去年は僕でした
 闇の中ではじける彼らの祈りと激しいリズム
 南十字星 満点の星 そして天の川

 診療所に集まる人々は病気だけれど
 少なくとも心は僕より健康なのですよ
 僕はやはり来てよかったと思っています
 辛くないと言えば嘘になるけどしあわせです


 

3 それだけは信じてください

 「医者なんてのは、野垂れ死にすべきだ!」

 …まっさんとお酒を酌み交わしていた時、突然、柴田先生が言い放ちました。

 外科医というのは、その患者が極めて重症で生還の可能性が低い場合でも、一旦メスを入れれば“自分の責任”ということを強く感じるのだそうです。

 万が一、患者が命を落とせば、それは自分の未熟のせい。自分以外の誰かが執刀していれば、大切な命を救えたかもしれない…。

 地球のステージの桑山先生も「旧ユーゴスラビア編」で、そういうことをおっしゃっていました。

「地球のステージ」ポスター

 でも、まっさんが…

 「柴田先生、先生みたいに責任を感じてくれるお医者さんって少ないんじゃないですか?」

 ~と慰めると…

 「まっさん、それは違うばい。医者であれば誰もが同じ思いです。

  間違いありません。それだけは信じてください!」

 ~と、訴えるような目で一生懸命、説得しようとしたそうです。

 驚いたまっさんが、そのわけを聞くと、急にしんみりとし、やがて重い口を開きました。

 実は、先生が若い時に、すぐに処置しなければならないほど危険な状態の若い奥さんがいて、病院のベッドが一杯だったので、信頼できる個人病院を世話しようと、再三再四、足を運んでまで入院を説得したことがあったのです。

 でも、その奥さんは、頑なに「ベッドが空くまで待つ」と言い続け、結局、手遅れで亡くなってしまったのです。

 先生は、よせばいいのに、責任を感じてその奥さんのお葬式に行ったそうです。

 そこで、その旦那さんから「お前が家内を殺したんだ!」と罵倒され、「力足らずで申し訳ありませんでした」としか言えなかった…。

ヴィクトリア湖の滝

(ジンバブエ)

(C)トジョウ エンジン

 その重荷を生涯、ずーっと心に抱き続けている…そんな先生なんです。

 まっさんは、そんな先生だから「名医だと断言できる」と言っています。

 だから、“生命の尊厳”を何よりも大切にする柴田先生のことを「風に立つライオン」という曲に書き、「よどみない命を生きたい」という柴田先生の生き方を世に残したのです。

 空を切り裂いて落下する滝のように
 僕はよどみない命を生きたい
 キリマンジャロの白い雪 草原の象のシルエット
 僕は風に向かって立つライオンでありたい


草原の象

(ケニア)

(C)トジョウ エンジン

 でも、この歌のラストには、もっと辛い現実が…しかし、それさえも包み込んで祝福しようとする主人公のやさしい気持ちが表現されています。

 くれぐれも皆さんによろしく伝えて下さい
 最後になりましたが あなたの幸せを
 心から 遠くから いつも祈っています
 おめでとう さようなら

 この最後のフレーズがあって初めて、「風に立つライオン」は、今も青年たちの心を揺さぶり続ける「名曲」になったのだと思います。

キリマンジャロの白い雪

(タンザニア)

photo credit: Tambako the Jaguar via photopin cc

 今、ナイロビにいる潤、君はもう200万羽のフラミンゴを見たのかい? そしてその国には、眼を輝かせた子供たちで溢れているのかい?

 今年の福島の桜は、例年にも増して美しく咲き誇っているぞ。

 アジアの果てから、君の健闘を祈る。

 

/// end of the “その59「風に立つライオン」” ///

 

《追伸》 2003.9.21

 ナイロビから台湾へ転勤になった潤が、昨日福島へ里帰りし、久々に旧交を温め合いました。

 発展途上国のインフラ整備を扱っていた彼にとっては、台湾は久々の都会暮らしというところか。これまで、通信インフラが十分でない地域にいたので、この《Web版》「岸波通信」を【ライト版】でなく見てもらえるのはうれしいね。

 と、いうこともあって、潤のことを書いたこの通信を急遽リメイクすることにしました。

 夕べは飲み会連続三日目だったので、さすがにダウンしそうで、先に失礼してすまなかった。まあ、建ちゃんたちもいたので、しばらくぶりの日本のカラオケを堪能できたことと思うけれど…。

この通信は、次回の井伏先生の「サヨナラだけが人生だ」に繋がる「まっさん編三部作」の第一作。三番目の「山椒魚の真実」もできるだけ早くアップしますので、三編続けてお楽しみください。

《追伸》 2016.7.24

 You Tubeに2015年に映画化された『風に立つライオン』のプロモーション映像がアップされているのを見つけたのでリンクをはっておきます。(※いずれリンクは切れるものと…)

映画「風に立つライオン」プロモーション映像>>

 また、ケニアのボゴリア湖で数百万羽のフラミンゴが一斉に飛び立つ様子の画像が紹介されていますので、最後に引用して掲載します。

 

 では、また次の通信で・・・See you again !

数百万羽のフラミンゴ

(ケニア:ボゴリア湖)

Photo: Birds Photography | Martin Harvey Photography

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To be continued⇒“60”coming soon!

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【岸波通信その59「風に立つライオン」】2016.7.24改稿

 

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