岸波通信その190「シースルー・アンブレラ」

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Present by 葉羽
「SUMMER IN THE ISLAND」 by Music Material
 

岸波通信その190
「シースルー・アンブレラ」

1 そもそもの傘の歴史

2 日本における透明傘の発祥

3 高級透明傘の時代

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  See-through Umbrella 【2021.6.29配信】

「世界のキタノが雨の中、ビニール傘をさして登場するシーンで観客からどよめきが起こった。」
  ・・・『バトル・ロワイヤル』の世界公開で

 晴れ上がった日の忘れ物の定番と言えば透明傘。

 手軽で安価でついつい使い捨て感覚まで起きてしまう・・今や世界の王室でもマスコミ登場時に用いられているこの透明傘は、実は日本の発明品なのです。

雨の日

 ならばその透明傘・・いかにして誕生し、そして世界に広がって行ったのか?

 ということで、今回は「透明傘」の誕生にまつわる秘話に迫ります。

 

1 そもそもの傘の歴史

 いつ入るのか、入らないのか、いったいどうなってんだ?と思わせた今年の梅雨ですが、梅雨入り宣言されるや否や、いきなり集中豪雨の連続で各地に被害が出ています。

 さて、梅雨と言えば雨、雨と言えばアンブレラ、アンブレラと言えば「風に吹かれて」ですけれど、この『アンブレラ』という言葉は元々ラテン語のumbra(影)が語源なのだそうですよ。

アンブレラあつしの風に吹かれて

 つまり"雨露しのぎ"ではなく、本来の目的は"日差しを避ける"道具「日傘」として発祥したのです。

 使われ出したのは約4000年前からと言われ、古代エジプトやアッシリアの寺院壁画として残っています。

アッシリアの壁画

 スタイルとしては従者が貴人に差しかけるカタチ・・という事で"冨と権力の象徴"でもあったわけです。

 このあたり、きっとアンブレラあつし氏なら既知の事実でございましょうが(笑)

 日傘が一般に広がり始めたのはギリシャ時代。アテナイ(アテネ)の貴婦人が従者に持たせた絵などが残っていますが、この頃はまだ畳んですぼめる機能はありませんでした。

ギリシャ時代の貴婦人

 開閉式の傘が登場するのは13世紀のイタリア。鯨の骨などがフレームに用いられた贅沢品で、遺言書には「誰が傘を相続するか」が記されたりしました。

 そこから全国各地へ広がって行きますが、フランスに伝わったのは1533年、メディチ家のカトリーヌがアンリ王子(後のアンリ二世)に嫁いだ時に持ち込まれます。

カトリーヌ・ド・メディシス(画:クルーエ)

 それが17世紀に入ると、街中で二階から道路に捨てられる汚物(糞尿)を避けるための女性の必需品として一気に広がったと言いますから、何が切っ掛けになるか分かったものではありません。

(そういえば「ハイヒール」の発祥も同じ理由でしたね(笑))

 

2 日本における透明傘の発祥

 一方わが国では552年、百済聖名王の使者が時の欽明天皇に「幢幡(どうばん)」を献上したという記述が日本書紀にあり、これが日本で最初の「傘」と言えましょう。

 「幢幡」は中国由来の天蓋型の傘で「唐傘(からかさ)」という呼び名の由来とする説が一般的。当時は布製で"魔除け"の効果があると考えられていました。

(現在は仏具として「幢幡」が用いられている。)

源氏物語絵巻(Wikipedia)

 これが平安時代になると製紙や竹細工の技法で改良され、安土桃山時代には防水加工技術・開閉技術が開発、江戸時代になると一般庶民に広がるまでになりました。

 さてここから、日本における「ビニール傘」の登場にフォーカスします。

 現在はコンビニなどで安価に購入できるビニール傘ですが、これは世界で初めて日本のホワイトローズ社が発明したモノなのです。

ホワイトローズ社の会社案内より

 ホワイトローズ社の淵源は、武田勝頼の子孫とされる武田長五郎が1721年に創業した煙草商「武田長五郎商店」。

 4代目長五郎の時代に、刻み煙草の湿気を防止するために用いていた油紙を活用して雨具(現在のレインコート)を発明し、これが参勤交代にも使われるなど売れに売れて雨具商に転向。明治に入ると和傘の生産にも着手します。

江戸時代の雨具「油引紙衣合羽」

 この社が転機を迎えたのが、第二次世界大戦後間もない1949年。当時の布製傘は雨で色落ちする欠点があり、9代目社長の須藤三男は進駐軍が使っていたビニールのテーブルクロスに注目。

 傘にビニールを掛けるという「傘カバー」を発明して大ヒット。それがやがてビニールそのもので傘を作ってしまう「ビニール傘」の考案に至り、1953年に「ホワイトローズ株式会社」が開業する。

傘カバー

 しかし売れなかった・・何故か? つまり当時のビニールは高級品で、強化したビニールを加工した傘は高価過ぎたのです。

 だがそんなことでくじける須藤社長ではなかった。彼は、本拠を上野から銀座に移して積極的なセールスを展開する。そして運命の「TOKYO1964」がやって来る。

東京オリンピック

(1964年10月)

 東京オリンピックで来日した米国人が須藤のビニール傘に目をとめ、これをニューヨークで売りたいと提案。

 その頃の米国では、まるで鳥籠のように肩までスッポリ覆えるタイプの傘が流行していたのですが、これだと視界が狭くなる。ビニール傘で同じものを作れば見通しが良くなるだろうと考えたのです。

バードケージ・タイプ

 その目論見は大成功。ニューヨークで、そしてその評判が逆輸入されて銀座を中心に大ヒット。「銀座では透明な傘が流行っているらしい」との口コミが広がり、日本全国で売れるように。

 さらにもう一段の転機が到来するのが2000年。映画『バトル・ロワイヤル』が海外でも上映され、"世界のキタノ"が透明傘でスクリーンに登場した時に世界中の観客がそのスタイリッシュさに驚愕したのです。

キタノ登場シーン

(映画「バトル・ロワイヤル」)

 ホワイトローズ社には「自国でも販売したい」との申し込みが殺到。「傘は高級品」という時代が長く続いた欧米諸国の人々にとって、既に材料が値下がりし、安価でしかも斬新なビニール傘は驚きをもって迎えられました。

 こうして2010年。「園遊会が雨天でも参加者によく見えるように」という理由で宮内庁から注文が入り、10月28日の秋の園遊会で上皇后美智子がホワイトローズ社の透明傘「縁結」を差して登場することとなりました。

 

3 高級透明傘の時代

 その後、透明傘は中国をはじめアジアでも盛んに作られるようになり、とても安価になった訳ですが、ここへきて新たなトレンドが生まれているようです。それが「高級透明傘」。

 最近、コンビニのセブンイレブンで売り出された高級透明傘が以下。お値段は1本1,000円。

セブンイレブンの高級透明傘

 ameme社が売り出した光の角度や量で輝きが変化する「トロムソオーロラ傘」。2,200円。

 虹色ホログラフィック。モデルの着衣の色によっても外見が複雑に変化します。う~ん、フォトジェニック!

トロムソオーロラ傘

(ameme)

 株式会社SPICEから発売されて人気の水面傘「ハッピークリアアンブレラ ウェーブ」。

 paypayモールで購入なら最安値で950円。

ハッピークリアアンブレラ

(SPICE)

 同じシリーズでは『ハッピークリアアンブレラ イルミネーション』も。こちらは星空仕様。

 続いてクラゲで有名な加茂水族館が考案し、フェリシモが制作した雨空を泳ぐクラゲ傘。こちら1,600円。

雨空を泳ぐ ミズクラゲの傘

(フェリシモ)

 このシリーズでは赤クラゲも。

 

 そして、タコクラゲの傘。

 

 三つ合わせれば、こんな感じ。(プリティ~♪)

クラゲの傘の勢ぞろい

(加茂水族館にて)

 さて、ラストにもう一つだけ。

 大正ロマンなステンドグラスの傘、1,800円。

ステンドグラスの傘

(フェリシモ)

 コレはクラシカル!

 夜景にも自然に溶け込みます。

 

 どうです、美しいでしょう?

 日本が生み出した大発明・・光ファイバーからカップヌードル、カラオケまで数々ありますが、透明傘もその一つ。

 時代と共に洗練され、さらに世界に誇れるプロダクトになって行くのだと思います。

 

/// end of the “その190 「シースルー・アンブレラ」” ///

 

《追伸》

 この話をケイコとお友達の令ちゃんと三人で食事した時に紹介しました。すると・・出て来たのが廃プラスチックの環境問題についてはどうなのかという質問。

 そこで、この問題について少々書いておきたいと思います。

 透明傘の原料となる塩化ビニールは確かに代表的な汎用プラスチックの一つ。優れた加工性、耐候性、耐水性、強度、難燃性などを併せ持ち、コストパフォーマンスの面からも極めて使いやすい樹脂です。

 ただし、独特な点として、他の石油依存のプラスチックに比べて過半が海から生まれる原料を利用していることがあります。(原料の57%が塩素)

 また、リサイクル過程において劣化が少ないため、海洋プラスチックごみ問題に関しても、廃棄物をしっかり管理し、マテリアル・リサイクルを行う事で対処可能な数少ない素材なのです。

 現に、高塩素バイパスシステムが実用化された事で、サーマル・リサイクルに適用しやすくなりました。

 また、塩ビに配合する可塑剤やフィラーについてもバイオマスや天然物由来を活用する技術の研究開発も進んでいます。

 したがって、プラスチックというアゲインストなイメージだけで、一括りで否定してしまうべきではありません。

 今だからこそ「環境にやさしい塩ビ」の認知度が向上することを期待したいと思います。

 

 では、また次の通信で・・・See you again !

ステンドグラス傘

(フェリシモ)

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To be continued⇒“191”coming soon!

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【岸波通信その190「シースルー・アンブレラ」】2021.6.29配信

 

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