岸波通信その121「Tryin' to fly」

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Present by 葉羽
「Tuesday Dreamer」 by Blue Piano Man
 
岸波通信その121
「Tryin' to fly」

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  Tryin' to fly 【2018.1.22改稿】(当初配信:2005.5.18)

「君の写真には思想がないね。」…伸一はうろたえた。
  
・・・本文より

 写真家大和伸一は、不器用で一途な人間だ。

 うまく立ち回るなんて生き方は決してできないし、純粋で照れ屋だ。

 朱雀RSが、このサイトのBBSでこんなことを書いている。

 そうなんです。そっけなくて、ぼぉ~っとしているようで、ナイーブな奴なのです。

 作品にその感性が現われていると思うのですよ! その繊細さが!!!!

 いけねっ、こゆこと言ってると、照れ隠しで奴にイジメラレテしまうので、オシマイッ!

 あはははは!照れ隠しにイジメル・・・って、おい! 今どき中学生だってやらないぞ。

コック修行時代の大和伸一

コック修行時代の大和伸一

(一途で照れ屋)

←うむぅ・・こんな真面目な表情!

 そして、伸一の良き伴侶、Miekoさんも、岸波通信その120「35年目の謝罪」に対するレスでこう言っている。

 彼の心の傷の話、E教諭の謝罪、とても私の傷に響いています。

 S一はホント、いい奴です。本当にいい奴なんです。

 さあ、いよいよ写真家としての彼の新たなスタートです。

 毎日プリントした写真を見ては微笑んでいますョ。

 皆さま、どうぞよろしくお願いいたします。

   Mieko

 適当にごまかした生き方なんかも出来ないし、悩む時には心底悩む。特に、他人のためには真っ先に泣ける男だ。

 つまり、一言でいえば“いい奴”なのである。

写真展「君の物語を‥」

(写真:大和伸一、詞:葉羽)

 そんな彼であるから、写真を撮る時にも、ありのままの姿を大切にする。

 ライティングなど人為的な効果を好まないし、デジタルカメラで撮影した画像に編集を入れるなんてことはもってのほかだと考えている。

 その代わり、アングルやシャッターのタイミングには繊細な注意を払う。

 写真家の中には、やたらシャッターを切りまくって、その中からいいデキのものを選ぶ者もいる。

 しかし、彼の場合は、なかなかシャッターを切らない。

 じっとチャンスを待ち、それでも自分で満足のいく一瞬が来なければ、一度もシャッターを切らずに帰るだろう。

 “一期一会”の写真家。

 あまたの時間の中で、被写体にとっての最高のタイミング、その一瞬を切り取ろうとするアナログでストイックな写真家なのだ。

写真展「君の物語を‥」

(写真:大和伸一、詞:peco)

 若い頃の伸一は、写真の腕を磨きながら、知人写真家たちとの合同写真展などを重ね、世に出るチャンスを狙っていた。

 彼にそのチャンスを与えたのは、このサイトの読者でもあり、現在はサンフランシスコ在住のりんりんさんとの出会いだった。

 りんりんさんから、ファッション誌の編集者を紹介され、ファッション写真のスタジオ・カメラマンに抜擢されたのだ。

 写真家としては、これ以上望むべくもない華やかな舞台・・・夢への手がかりを掴んだ伸一は意欲に燃え、スタジオ写真ばかりでなく、自分自身の感性の赴くままにあらゆる風景を激写しまくった。

 その頃の写真は、都会の造形が織り成す光と影、街角のさりげない季節感など、希望と自信に満ちていた。

写真展「君の物語を‥」

(写真:大和伸一、詞:peco)

 だが、スタジオ・カメラマンは秒刻みのスケジュールを強いられる激務である。

 また、クライアントからの注文や気難しいモデルとの人間関係など、写真以外の部分でも大変気を遣う職業だ。

 さらに、商業写真は注目されてナンボの世界であり、読者の目を惹くための奇抜な着想や演出も求められる。

 “一期一会の写真家”大和伸一の中に小さな葛藤が生まれ、やがて自分でも気付かないままに心を消耗させて行った・・・。

 いかに目立つか・・・クライアントの意図に沿った仕事を続けるうち、彼自身の写真も変化する。

 都会で落ちぶれたホームレス、使い捨てられた家電、薄汚れたまま放置されたベンチ、明け方の盛り場の陰鬱な風景・・・ショッキングでダークな情景を好んで撮るようになって行った。

 「自分の写真を見て何を受け取るかは、見た人が勝手に解釈してくれればいい」とさえ言い放った。

 いつしか、自分の感動よりも他人がどう評価しれてくれるかということに心を奪われていたのだ。

都会の憂鬱

写真展「君の物語を‥」

(写真:大和伸一、詞:葉羽)

 そうした生活が続くうち、あんなに大好きだった写真が、いつの間にか“食べていくためのただの作業”になっていることに気が付いて伸一は愕然とする。

 かつての感動や情熱を取り戻そうと必至になるが、迷いばかりが先行し、もがいてももがいても仕事が取れなくなる。

 そしてある日、彼の作品を見た人物から決定的な一言が発せられる・・。

「君の写真には思想がないね。」

 ・・・伸一はうろたえた。

 その一言に大きなショックを受けた彼は、全てを捨てる決心をする。

都会の憂鬱

写真展「君の物語を‥」

(写真:大和伸一、詞:葉羽)

 郷里の福島市に帰った彼は、かつてコックとして修行した経験を生かし、家業の郷土料理屋(ゆず沢の茶屋)を手伝うことになった。

 夢破れて大きな挫折感の中にあった彼を、故郷は温かく迎えてくれた。

 間もなく、Miekoさんと知り合って結婚をする。

 Miekoさんは、伸一のよき理解者であり、現在も写真展などを催すと、資料をまとめたり受付を買って出たりと、伸一の影になって本当によく支えている奥さんだ。

 一度は夢を失った伸一が、彼女の明るく前向きな性格にどれだけ救われてきたかは想像に難くない。

 Miekoさんは、伸一が昔撮った写真を楽しそうに自分に見せてくれる時に、時おり淋しそうな表情を垣間見せることに気が付いた。

 “この人には、やはり写真が必要だ”

 伸一が、自分自身、本当に撮りたいものを撮った時、その写真が限りない優しさを感じさせてくれること、涙が出るほどに素敵であること・・・。

 Miekoさんの励ましで、伸一は再びカメラを手にすることを決意する。

都会の憂鬱

写真展「君の物語を‥」

(写真:大和伸一、詞:葉羽)

 彼の仕事場である郷土料理の「ゆず」は、会津へ向かう峠の登り口からわき道に入った山の中腹にある。

 吾妻連峰をのぞみ、市街地を遠く見下ろせるその辺りは、緑豊かな森と渓流、四季ごとに咲き乱れる山野草の宝庫だ。

 都会のようにきらびやかではないけれど、穏やかでやさしいものたち・・・。

 この大きな自然の中で写真を撮りながら、彼は遠い夏を想い出していた。

 少年時代、時さえ忘れて熱中していた頃の気持ちを。

 あの頃は、目に見えるもの全てが輝いていた。

 写真を撮ることが、楽しくて楽しくてしょうがなかった。

 木立をわたる風、芽吹きの匂い・・

 彼が一番撮りたかったものは、最初からここにあったのだ。

都会の憂鬱

写真展「君の物語を‥」

(写真:大和伸一、詞:fujiko)

 今、大和伸一は、写真家として再び歩み始めようとしている。

 美しいものを美しいままに、心の感じるままに・・・。

Tryin' to fly!

 彼の写真の瑞々しい感性を見るがいい。

 道端の小さな生命(いのち)にさえ注がれる優しいまなざしを見るがいい。

 不器用に、一途に生きてきた“一期一会”の写真家、人間・大和伸一の“想い”がそこにある。

都会の憂鬱

写真展「君の物語を‥」

(写真:大和伸一、詞:葉羽)


   懐かしい友に  詩:葉羽

 帰って来てくれてありがとう
 僕たちの街へ
 しかもとびっきりの感性を携えて

 思えば学生時代
 君はとてもやんちゃだったけれど
 あれから、こういう優しさを育てて来たんだね

 それぞれの道へと歩き出し
 いくつもの山や谷を越えるうち
 気がつけばお互い
 たくさんの荷物を背負っているね

 聞かせてください 君の物語を
 ファインダー越しの喜びと悲しみを・・・
 そして どんなに君が
 ふるさとを愛していたのかを

 離れ離れに飛び立った二つの人生が
 再びめぐり合うという奇跡・・・

 出会ってくれてありがとう
 僕たちのところへ ようこそ

 

/// end of the “その121 「Tryin' to fly」” ///

 

《追伸》

 “芸術家は作品によってのみ評価される”・・・よく言われる言葉ですが、僕は必ずしもそうは思いません。

 全ての芸術には感動が何よりも大切だと考えていますが、例えば、「智恵子抄」の高村智恵子の紙絵を見るときに、彼女が精神を病んでからも美しいものを追い続け、病床で光太郎からの見舞い品の包み紙や病院の薬包紙を利用してあの繊細な作品を残したことを知っているならば、より深い感動を得られるのではないでしょうか?

 そういう意味で、人間・大和伸一というものをより理解していただくために、通信その120「35年目の謝罪」と今回の121「Tryin' to fly」のエピソードをご紹介しました。

 6月1日から「ギャラリー宙」で開催される大和伸一写真展“君の物語を・・”の詳細が決まりました。6月1日の初日には、大和伸一本人がギャラリーでお客様をお迎えいたします。

 また、葉羽ほか“岸波通信プロジェクト”の在福メンバーも集合する予定です。

(近日入った情報ですと、あのMILKTEAさんも駆けつけてくれるということです。Dreamさんやfujikoさんは、パラシュートの調達が間に合えば、来るかもしれません。あはは!)

 皆様、お誘い合わせの上、ふるってご来場下さいませ。

 

 では、また次の通信で・・・See you again !

都会の憂鬱

陽射し

(写真:大和伸一)

←案内状に用いられた写真。

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To be continued⇒“122”coming soon!

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