上が今回の企画展での展示作品、下が前回の「ポートレイト&ジャズ展」で展示されたジャズの巨匠エラ・フィッツジェラルドとルイ・アームストロングを描いた作品だ。
一見して分かるユニークな特徴に気付くだろう。両方の作品とも、太く力強い線で輪郭が縁取られている。
これを見て君は何を感じるだろう?
僕が君の歳でこの絵を見たら、「なんだ、こんな絵は子供だって描けるじゃないか。」と不遜にも考えただろう。
だが、彼の実力を最もよく知り、自分自身も年齢を重ねた現在では、全く別の印象を受けるのだ。
上の「牧牛」で感じるのは、大胆に見えながら、極めて繊細に対象を捉えている確かなデッサン力だ。
例えば、遠くの方にいる牛をよく見てご覧。
手前の牛と同じくらいの太い輪郭で描かれているから、個々の牛だけを見れば決して牛の形をしていないはずだ。
それにも関わらず、全体として見れば紛れも無い牛の姿に見えるだろう。
極端にデフォルメしても、決して本質を失わない・・・これが彼の力だ。
そして、下の「エラ・アンド・ルイ」だが、これはレコードのジャケットを元に描かれた絵だ。もちろん、二人がこのとおりの姿をしているはずも無いが、こちらもデフォルメの中にちゃんと生身のエラとルイが息づいている。
さらには、対象を見る眼の優しさだ。
僕は、芸術と言うものはすべからく“感動”が大切だと考えている。演奏もそうだし、文章もそう。
どんなに技巧的に優れたものであっても、感動を与えない芸術は、もはや芸術と呼ぶに値しない。
この二つの絵は、人間や自然に対する暖かいまなざしに溢れている。
たった一枚の絵に過ぎないのに、広々とした世界や穏やかな時の流れまで感じさせてくれる。
君はどう思うだろう?