この報せを受けた時、アフロディーテとエロスの驚きは尋常ではありませんでした。
もしもプシュケが誤って箱を開けなければ、アフロディーテ自身が陰謀の犠牲になっていたはずなのですから。
事ここに至り、アフロディーテは今までの自分の愚かさに気づかずにはいられませんでした。
しかも、それを気づかせてくれたのは、自分が貶めようとしてしいた娘の献身だったのです。
疑うこともせず、自らの命を投げ出してまで自分に尽くそうとしてくれた可憐な娘…。
心を取り戻したアフロディーテはエロスと共にプシュケの許へ急ぎ、“眠り”を再び箱の中に封印すると、ゼウスに頼んでアンプロシア(不老不死の酒)を貰い受けます。
こうしてプシュケは蘇えり、アフロディーテに祝福されてエロスとの結婚を果たすのです。
(ホント良かった。うっうっ…。)
〔エピローグ〕
以上が、アフロディーテに関する物語の顛末ですが、これらのエピソードは“大いなる寓意”を秘めているように感じます。
エロスはプシュケと出会い、やんちゃな少年から愛に苦悩する大人へと成長を遂げます。
また、不幸な結婚生活の中で自らの“愛の闇”に捉われていったアフロディーテは、プシュケと出会ったことで優しい心を取り戻す…でも、それだけではない。
もっと大事な点がある。
アフロディーテもエロスも原義は“愛欲の神”で、そもそもオリュンポス世界には“肉欲の愛”しか存在していなかったのです。
その“肉欲の愛”を司る二人がプシュケに触れて、“心の愛”・“献身の愛”を知り、そして”真実の愛”が誕生する。
さもあらん‥‥‥
何故ならこの“プシュケ”というギリシャ語は、“心(精神)”という意味なのですから。