宿命の王女カサンドラ…呪われた運命とアフロディーテの甘言にあやつられたパリスによって、最も悲惨な最期を遂げるのはこの悲劇の王女カサンドラでしょう。
彼女は、オリュンポスの神アポロンによって予言の力を与えられていました。まだいたいけな少女であったカサンドラを見初めたアポロンは、彼女を我が物にするのと引き換えに予言の力を与えると約束したのです。
しかし、予言の力を得たカサンドラは、アポロンに身を任せた後でボロ布のように捨てられる自分の姿を予知し、泣きながらアポロンの元から逃げ去る…。(さもあらん)
激高したアポロンは、彼女に予言の力を与えたことを後悔しますが後の祭り。一度与えた力は神といえども簡単に奪うことは出来ません。
そこでアポロンは、「予言は正しいが、その予言を誰も信じない」というもう一つの宿命を彼女に負わせたのです。
(何と陰険な! ギリシャ神話はドロドロです…。)
一方、トロイ王子となったパリスは、プリアモス王の命令で、かつてスパルタに略奪された王の姉を奪還する使命を与えられていました。
パリスが大船団を繰り出してスパルタを急襲すると、折からスパルタ王は遠征で不在。王妃へレナが留守を守っていました。
パリスはヘレナの美しさに驚き、ヘレナこそがアフロディーテから与えられた“運命の人”と勝手に解釈し、“王の姉を奪還する”という自分の使命も忘れて、逆に王妃ヘレナを奪い去るのです。
しかもその後、故国に帰還せずエーゲ海の島々を巡ってヘレナとの“愛の生活”をしていたというのだから始末が悪い。
プリアモス王は、てっきり船団が難破してパリスが非業の死を遂げたものと考えていました。
(実は“難破”じゃなく、“ナンパ”だったというお粗末…。)
そして‥‥‥
王妃を奪われて逆上したスパルタ王は、ギリシャ都市国家全軍に号令をかけてトロイ王国征伐の軍を出陣させます。…10年にわたるトロイ戦争の勃発です。
この時も王女カサンドラは、予知夢を見て警告を発するが誰も信じてくれません。
やがて、あの有名なトロイの木馬が城砦内に運び込まれ、中にギリシャ兵士が潜んでいると知らせるカサンドラの訴えに、誰も耳を貸すものはいなかったのです。