岸波通信その100「ヴィーナスの真実1/トロイ」
通算100編記念特別編-1

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Present by 葉羽
「夢色の時」 by 新条ゆきの
 

岸波通信その100
「ヴィーナスの真実1/トロイ」

1 愛欲の女神

2 三美女神の争い

3 アフロディーテの約束

4 嘆きのカサンドラ

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  Troy  【2017.10.19改稿】(当初配信:2004.3.6)

「最近、地上に人間が増えすぎて困る。」
  ・・・ゼウスの言葉

 2004年の第76回アカデミー賞は、「たそがれ清兵衛」の外国映画賞ノミネートと「ラスト・サムライ」に出演した渡辺謙の助演男優賞ノミネートと、“サムライもの”二つがノミネートされた話題で盛り上がりましたが、いずれも惜しくも落選。

 でも、通信その99で取り上げたロード・オブ・ザ・リング「王の帰還」がノミネートされた全ての部門において受賞し、史上最多タイ記録(11部門)という快挙を成し遂げました。

「王の帰還」のオスカー受賞風景

←ピーター・ジャクソン監督初め、
スタッフとキャストが全員で壇上に。

 「王の帰還」の獲得タイトルは、作品賞、監督賞、脚色賞、美術賞、衣装デザイン賞、視覚効果賞、メーキャップ賞、音響賞、作曲賞、編集賞、歌曲賞というラインアップで、“よくあの原作を映画化したで賞”という感じですね。

 なお、助演女優賞では、読者の「ら・みう」さんがゴヒイキのレニー・ゼルウィガーが栄冠を獲得。ノミネート三回目で“三度目の正直”となりました。

(脚線美で、他の追随を許さない女優さん。)

 ところで、これから公開される注目の超大作に、ブラッド・ピッドと「王の帰還」出演で女性のハートをわしづかみにしたオーランド・ブルームが競演する「トロイ」があります。

(エルフ族の貴公子レゴラスを演じたブルームは、ひっぱりだこの人気でした。)

映画「トロイ」

(タイトル下に居るのがオーランド・ブルーム)

 盲目の語り部ホメロスが残した大叙事詩「イリアス」と「オディッセア」で有名なトロイ戦争は、もともと、このトロイ王子パリスがスパルタの王妃ヘレンを略奪したことに端を発する大動乱。

 しかし、本当の仕掛け人は、あの有名な“愛(アモール)の女神”アフロディーテだったのはご存知でしたでしょうか?

(ギリシャ神話のアフロディーテは、ローマ神話のヴィーナスです。)

 ということで、配信第100話記念作品は、アフロディーテのエピソードを追いながら、地上に“真実の愛”が誕生するまでの物語・・・岸波通信通算100編記念三部作『ヴィーナスの真実』第一話をお届けします。

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1 愛欲の女神

 ギリシャ神話に登場するアフロディーテは、ローマ神話ではウェヌス(その英語読みがヴィーナス)と呼ばれ、「ミロのヴィーナス」やボッティチエリの描いた「ヴィーナスの誕生」で良く知られている愛の女神です。

 ギリシャ神話には、オリュンポス12神という代表的な神々が出てくるが、その中でアフロディーテだけはゼウスの一家ではなかったのです。

 彼女は、ゼウスたちの父親であるクロノス(時を司る神)が横暴だった父親ウラノスを倒した折に、ウラノスの陽根から最後に放たれた精液が海に落ちて誕生した(!)という出自だから、ゼウスにとっては「叔母さん」ということになります。

ヴィーナスの誕生

(ボッティチェリ)

←“海の泡”からと美しく表現されることが多いが、実は、ゼウスの祖父ウラノスの精液から誕生。

 こういう出自が影響してのことかどうかは定かでないが、アフロディーテは大変“恋多き女神”…鍛冶屋の神ヘパイストスの妻でありながら戦いの神アレスを初めとして多くの愛人を持っていました。

 しかも、アレスとの間にもうけた“縁結びの神”エロス(キューピッド)を手下に使い、オリュンポス世界に様々な愛の波風を立てます。

 その生き様はまさに“自由奔放”、また、大変に嫉妬深い性格でもあり、“愛の女神”や“美の女神”と呼ぶのは「少し違うんじゃないか?」と思われるエピソードも数々。

 それもそのはず‥‥‥

 アフロディーテのギリシャでの呼び名を正確に表現すれば“愛欲の女神”…つまり、肉欲を司る神だったのです。

 そんなアフロディーテに惑わされた哀れな男…彼の名はトロイの王子パリス。

 そして、その大事件のきっかけとなったのは、最高神ゼウスのこんな一言でした。

「最近、地上に人間が増えすぎて困る。」

ソフィア・コッポラ

(オリジナル脚本賞受賞)

←東京を舞台にした「ロスト・イン・トランスレーション」で
オリジナル脚本賞を受賞したソフィア・コッポラ。
並みの女優さんよりも彼女の方がキレイかも。


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2 三美女神の争い

「最近、地上に人間が増えすぎて困る。」

 そう考えたゼウスのアイディアが“人口削減のために戦争を起こしてやろう”というトンデモナイこと。

 折りしも神々が集まる結婚式でゼウスは一計を案じ、“争いの女神”エリスだけには招待状を出さなかったのです。

 すると‥‥‥

 結婚式の最中、式場にコロコロと“一つの林檎”が投げ込まれました。

 もちろん、それは争いの女神の仕業。ただの林檎である筈がありません。それには、こんな手紙が添えられていました。

『最も美しい女神へ』

(あっちゃー さあ大変!)

アテナ

(クリムト作)

←胸当てのデザインがお茶目ですが、
顔つきはちょっとコワい。
戦争と智恵を司る永遠の処女神で、
ゼウスとその愛人メティスの娘でした。
(なので、正妻ヘラと墓が悪い?)

 もちろん、ギリシャの女神たちといえば、それぞれに気位が高い。もちろん、自分の能力や美貌には絶対の自信を持っています。

 最初に口を開いたのは、ゼウスの正妻ヘラ…

「なぁんだ。私に贈り物がしたいならば、直接渡せばいいじゃない」 と手を伸ばす。

 すかさず傍らの女神アテナがさえぎって…

「ちょっと待ってよ、私への贈り物に手を出さないでちょうだい!」

 さらにどこから現れたのか自信たっぷりのアフロディーテが割って入ろうとする…

「ナニを騒いでるの? あら、こんなところに私宛ての贈り物が…おーっほっほ。」

 三人の美女神は、口調とは裏腹に、こけつまろびつ林檎を奪い合う…もう場は騒然! 女神としては、かなりハシタナイ騒ぎとなってゲストの衆目が集まり、もう結婚式なんかそっちのけ。

 髪かき乱したヘラは、夫のゼウスに裁定を仰ぎます。

「貴方、この人たちにはっきり言ってやって頂戴!」

 でも、ゼウスはこんな危なっかしい争いに首なんかつっこまない。涼しい顔でこう答えました。

「そういうことは、全くの第三者…そうだ。羊飼いのパリスにでも決めてもらおうじゃないか。」

(うわ~無責任! …というか、それも織り込み済みか?)

パルテノン(アテナ)神殿

←アテネのパルテノン神殿は
“戦いと智恵の女神”アテナを祭っている。

 さて、風雲急を告げる羊飼いパリスの運命。『最も美しい女神』の栄冠はいったい誰の手に?

(既に、林檎なんかどうでもよくなってるし(笑))

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3 アフロディーテの約束

 当時のギリシャ世界は、エーゲ海を挟んで東西にトロイ王国とギリシャ都市国家連合が睨みあっていました。

 西側のギリシャ半島は山がちの地形で大国家が作りづらく、小規模な都市国家、アテネ、スパルタ、テーベなどがスパルタのアガメムノンを盟主とする緩やかな連合を形成する一方、東側の小アジアではプリアモス王が統治するトロイ王国が覇を唱えていました。

 そのプリアモス王の第一王子がヘクトルで第二王子がパリス。…そう、羊飼いのパリスは実はトロイの王子だったのです。

 では、王子が何故、そんな山奥にいたのか?

 実は、パリスが生まれた時、王妃のヘカペは「自分が松明を生んで、その松明が街を焼き尽くす」という忌まわしい夢を見ました。

 王と王妃は災いを恐れ、生まれたばかりのパリスを山奥に捨てましたが、赤ん坊は雌鹿に育てられ、いつしか青年へと成長していたのでした。

(このパリスを演じたのがオーランド・ブルーム。)

オーランド・ブルーム

←映画「王の帰還」ではエルフ族の
貴公子レゴラスを演じた。

 そんな羊飼いパリスのもとに突如現れた三美女神。訪問のワケを話すと、それぞれに着飾った姿でパリスに耳打ちする。

「もしも私を選んでくれたら、お前を地上で最も素晴らしい国の支配者にしてあげるよ。」

 …そう言ったのは、ゼウスの正妻で最も権力の座にいるヘラ。

「あんな女の言うことを聞いちゃだめ。私を選べば、どんな戦にも勝たせてあげよう。」

 …戦争の女神アテナも、やはり自分の得意分野で誘惑する。

 早い話が“賄賂作戦”です(笑)

 我が身の不遇をかこっていたパリスもこれらの“条件提示”にはまんざらでもない様子。何せ、たった一つの選択をするだけで権力や名声を手に入れることが出来るのですから。

 …その様子を見ていたアフロディーテは心中穏やかではない。思案のあげくに“最終兵器”を持ち出した。

「私を選んでくれたら、お前に・・・」

 彼女のただならぬまなざしに、思わずゴクリとツバを飲み込むパリス…。

「地上最高の美女をあげるわ。」

「オーマイゴッド!!」 ←(そのまんまですけど(笑))

パリスとヘレナ

(映画「トロイ」より)

 パリスが、ソッコーでアフロディーテの申し出を受けたのは言うまでもありません。何せ、成人するまで人間の女性など身近にはいなかったのですから。

 誇りを傷付けられたヘラとアテナは、大いに憤慨し復讐を誓う。二人は、後のトロイ戦争でギリシャ都市国家連合に肩入れすることになるのです。

 さて、パリスを待ち受ける運命やいかに?

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4 嘆きのカサンドラ

 「地上最高の美女をあげる」という言葉に惑わされ、アフロディーテを“最も美しい女神”に選んだパリスでしたが、その約束が果たされる気配はいっこうにありません。

 そうこうするうち、自分の可愛がっていた雄牛がレスリング大会の賞品として召し上げられてしまいます。(何てこった!)

 何とかして、その雄牛を取り戻したいパリスは、大会に出場して自らの手で奪い返す決心をし、傷だらけになりながらも決勝まで勝ち進み、そこでトロイの嫡男王子ヘクトルと対峙します。

 この兄弟対決を見事制して、優勝の栄冠を勝ち取ったパリスでしたが、王子としての誇りを粉砕されたヘクトルは憤懣やるかたない。

 卑怯にも剣を取り上げパリスを殺めようとする。その刹那…

「貴方はもしやパリスお兄さん?」

 本人さえ知らぬパリスの素性を見抜いたのは、トロイの予言者であった王女カサンドラでした。

 こうした不思議な縁で“呪われた王子”パリスはトロイ王家に再び迎えられることになるのです。

アキレス

(ブラッド・ピッド)

←映画「王の帰還」でギリシャ方の英雄
アキレスを演じている。
生まれたときに母親が両足を掴んで
不死の川に浸したが、その時に掴まれた
足首だけが川に浸からず、
その弱点「アキレス腱」を射抜かれて死を遂げる。

 宿命の王女カサンドラ…呪われた運命とアフロディーテの甘言にあやつられたパリスによって、最も悲惨な最期を遂げるのはこの悲劇の王女カサンドラでしょう。

 彼女は、オリュンポスの神アポロンによって予言の力を与えられていました。まだいたいけな少女であったカサンドラを見初めたアポロンは、彼女を我が物にするのと引き換えに予言の力を与えると約束したのです。

 しかし、予言の力を得たカサンドラは、アポロンに身を任せた後でボロ布のように捨てられる自分の姿を予知し、泣きながらアポロンの元から逃げ去る…。(さもあらん)

 激高したアポロンは、彼女に予言の力を与えたことを後悔しますが後の祭り。一度与えた力は神といえども簡単に奪うことは出来ません。

 そこでアポロンは、「予言は正しいが、その予言を誰も信じない」というもう一つの宿命を彼女に負わせたのです。

(何と陰険な! ギリシャ神話はドロドロです…。)

 一方、トロイ王子となったパリスは、プリアモス王の命令で、かつてスパルタに略奪された王の姉を奪還する使命を与えられていました。

 パリスが大船団を繰り出してスパルタを急襲すると、折からスパルタ王は遠征で不在。王妃へレナが留守を守っていました。

 パリスはヘレナの美しさに驚き、ヘレナこそがアフロディーテから与えられた“運命の人”と勝手に解釈し、“王の姉を奪還する”という自分の使命も忘れて、逆に王妃ヘレナを奪い去るのです。

 しかもその後、故国に帰還せずエーゲ海の島々を巡ってヘレナとの“愛の生活”をしていたというのだから始末が悪い。

 プリアモス王は、てっきり船団が難破してパリスが非業の死を遂げたものと考えていました。

(実は“難破”じゃなく、“ナンパ”だったというお粗末…。)

 そして‥‥‥

 王妃を奪われて逆上したスパルタ王は、ギリシャ都市国家全軍に号令をかけてトロイ王国征伐の軍を出陣させます。…10年にわたるトロイ戦争の勃発です。

 この時も王女カサンドラは、予知夢を見て警告を発するが誰も信じてくれません。

 やがて、あの有名なトロイの木馬が城砦内に運び込まれ、中にギリシャ兵士が潜んでいると知らせるカサンドラの訴えに、誰も耳を貸すものはいなかったのです。

トロイの木馬

(映画「トロイ」)

←おなじみのシーン。

 カサンドラは絶望し、よろよろと倒れこむ中で最後の予知夢を見ます。

 炎に包まれた神殿でギリシャ兵士たちに凌辱される自分の姿、そして、鎖に繋がれてギリシャに送られ、どこか知らない闇の中で自分の首に振り下ろされる剣…。

 予知をしても誰も耳を貸すものがいない…何と恐ろしいアポロンの仕業でしょう。

 むしろ自らの能力をどれだけ呪ったことか。

 しかも、カサンドラは自分が命を救った“呪われた王子”パリスの所業によって、非業の死を遂げることになるのです。

(これぞ、ギリシャ悲劇の真骨頂。)

 10年にわたるトロイ戦争では、アガメムノン、プリアモス、ヘクトル、パリス、アキレス、オディッセウスなど多くの英雄たちが活躍し、そして命を落として行きます。

 さらに、多くの兵士や罪も無い市民たちも巻き添えとなり、「増えすぎた人口を減らす」というゼウスの目論見はまんまと成功したのです。

 それにしても‥‥‥

 直接の原因者、アフロディーテは、いったいどうしていたのか?

 その頃アフロディーテは、別なところで更に忌まわしい事件を起こしていたのです。

 “アモール(愛)の闇”は深い…。

 

/// end of the“その100「ヴィーナスの真実1/トロイ」” ///

 

《追伸》2017.10.19

 このシリーズは当初配信時『アモール(愛)の闇』三部作と称していましたが、改稿に当たり、内容が分かり易いよう『ヴィーナスの真実』シリーズと改めました。

 

《追伸》

 「岸波通信」の記念すべき第100話、やはり「配信希望作品アンケート」の結果を尊重して、『アモール(愛)の闇』三部作を書くことにしました。

 “災いもたらす女神”アフロディーテはどうしてそこまでしてしまうのか…。

 でも、彼女の深い“愛の闇”は、やがて彼女が最も苦しめた一人の人間の少女によって救われるのです。(涙)

(そこは、これからのお楽しみ。)

 第二話の「スミュルナ」では、数々のアフロディーテ騒動の中でも、最も悲惨な結果を招いたエピソードをご紹介し、“愛と美の女神”と呼ばれるアフロディーテのさらに深い“愛の闇”に迫ろうと思います。

 

 では、また「ヴィーナスの真実」シリーズ三部作の続編で・・・See you again !

The Birth of Venus

The Birth of Venus

(ウィリアム・ブーグロー作)

←ボッティチェリの絵より、
このブーグローの方が好きです♪

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To be continued⇒“101”coming soon!

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【岸波通信その100「ヴィーナスの真実1/トロイ」】2017.10.19改稿

 

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