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「AUTUMN」(Music Material)
by 岸波(葉羽)【配信2026.5.2】
 

◆この記事は作品のストーリーについて触れています。作品を実際に楽しむ前にストーリーを知りたくない方は閲覧をお控えください。

 こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。

 観る前の自分には戻れない

 この、何とも不穏な響きのあるキャッチコピー・・岸善幸監督の『正欲』(2023年)をAmaプラで視聴いたしました。

 それにしても「正欲」って何?

正欲

(C)2021 朝井リョウ/新潮社 (C)2023「正欲」製作委員会

 原作は2021年に新潮社から出版された朝井リョウによる同名の小説。

 朝井リョウのデビュー10周年を記念して書き下ろされたもので、累計50万部以上を売り上げ、「第34回柴田錬三郎賞」や「第3回読者による文学賞」を受賞。

 さて、その映画版の内容は?

 

 生き延びるために、手を組みませんか。

 映画の冒頭、社員食堂でウォーターサーバーから注がれたコップの水が溢れるのをじっと見続けている会社員の佐々木佳道(磯村勇斗)。

 そして、彼のモノローグ・・

「この世界を歩いているとさ、いろんな情報が飛び込んでくるじゃん。あれってさ、みんな明日死にたくない人っていうか・・死なない人のためのものじゃない? 明日生きていたくない人とか死んでもいい人のためのものじゃないよね?」

正欲

(C)2021 朝井リョウ/新潮社 (C)2023「正欲」製作委員会

 いきなりの謎めいた台詞。

 そして他4人の主要人物の視点に切り替わり、順に最近の様子が紹介される。

 二人目は佐々木の中学時代の同級生で現在は寝具店の契約社員となっている桐生夏月(新垣結衣)。三人目は不登校の息子を抱える検事の寺井(稲垣吾郎)。四人目と五人目は同じ大学に通う大学生の神戸八重子(東野絢香)と諸橋大也(佐藤寛太)。

 以下、作品の概要とあらすじは以下の通り。

◆『正欲』の概要とあらすじ(映画.comによる)

 第34回柴田錬三郎賞を受賞した朝井リョウの同名ベストセラー小説を、稲垣吾郎と新垣結衣の共演で映画化。「あゝ、荒野」の監督・岸善幸と脚本家・港岳彦が再タッグを組み、家庭環境、性的指向、容姿などさまざまな“選べない”背景を持つ人々の人生が、ある事件をきっかけに交差する姿を描く。

  検事の寺井(稲垣吾郎)

 横浜に暮らす検事の寺井啓喜は、不登校になった息子の教育方針をめぐり妻と衝突を繰り返している。広島のショッピングモールで契約社員として働きながら実家で代わり映えのない日々を過ごす桐生夏月は、中学の時に転校していった佐々木佳道が地元に戻ってきたことを知る。大学のダンスサークルに所属する諸橋大也は準ミスターに選ばれるほどの容姿だが、心を誰にも開かずにいる。学園祭実行委員としてダイバーシティフェスを企画した神戸八重子は、大也のダンスサークルに出演を依頼する。

  八重子(東野絢香)

 啓喜を稲垣、夏月を新垣が演じ、佳道役で磯村勇斗、大也役で佐藤寛太、八重子役で東野絢香が共演。第36回東京国際映画祭のコンペティション部門に出品され、最優秀監督賞および観客賞を受賞した。

2023年製作/134分/G/日本
配給:ビターズ・エンド
劇場公開日:2023年11月10日

 映画の中盤まで、どういう状況やストーリーを見せられているのか理解が追い付かなかった。

 主要人物の5人は、それぞれに生活上の問題を抱えているが、理解できたのは不登校の息子を抱える検事の寺井(稲垣吾郎)の家庭内問題だけ。

 ダイバーシティ(多様性受認)やLGBTQなど「マイノリティ」の問題がさりげなく提起されるが、二番目の桐生夏月(新垣結衣)の紹介で僕の理解は行き詰まる。

桐生夏月(新垣結衣)

(C)2021 朝井リョウ/新潮社 (C)2023「正欲」製作委員会

 彼女は歪んだ性的指向があり、「水」に浸されたイメージで性的快感を得る人物なのだ。(「水」!?)

 実は、最初に登場する佐々木(磯村勇斗)や大也(佐藤寛太)も「水フェチ」で、「人間の異性」には全く興味を持たない。

  佐々木(磯村勇斗)

 しかも同様な「水フェチ」でありながら、三人が快感を得るイメージはそれぞれ異なっており、それらは「蛇口から噴出する水」であったり「大量の飛沫を浴びるイメージ」であったり「水に浸されたイメージ」であったりするのだ。

 うむぅ・・確かに「性的指向」は様々で、LGBTQのように「人的対象」が異なる場合、「支配」や「被支配」による快感、モノに執着する「フェチ」など数限りなくあるけれど、「水の様々な様態」まで来るともう感情移入が困難だ。

 しかも(原作ではどう描かれているのか分からないが)、「水のイメージ」でソロプレイしオーガズムに達するのは桐生夏月(新垣結衣)だけで、佐々木(磯村勇斗)や大也(佐藤寛太)が得るのは性的快感でさえ無く、ある種のエクスタシー(恍惚感)だ。

 そういったエピソードが場面転換を重ねて語られても「置いてけぼり感」をくうのは僕だけではないだろう。

 実は、岸善幸監督が朝井リョウの『正欲』を読んだ際、彼自身が「多様性」というものへの理解が浅かったことを感じてショックを受けたと言う。

 僕らの迷いや動揺は彼自身のものでもあった訳だ。

  中学時代の佐々木と夏月

 そして、岸善幸監督は「水フェチ」のエクスタシーシーンをどう映像化するか大いに悩み、出演者らとディスカッションを重ねたとも言う。

 結果、肉感的なオーガズムを強調するより幻想的に美しく描く道を選んだ。

 そのことにより「性的指向」というシークエンスは軽減されストーリーが分かりづらくなった感は否めないが、アーティスティックな「暗喩」として解釈を観客に委ねたのだろう。

正欲

(C)2021 朝井リョウ/新潮社 (C)2023「正欲」製作委員会

 映画は、中盤から「5人の物語」がクロスオーバーすることで、急にストーリーが動き出す。

 高校時代の神戸八重子(東野絢香)は、引き籠りの兄が不在の時に部屋に入り、そこで兄が観ていたいかがわしいビデオを発見してショックを受け「男性恐怖症」になっていた。

  八重子(東野絢香)

 しかし、大学のクラスメートである大也(佐藤寛太)は、自分のことを「性的対象」として見ないため、逆に何らかの「秘密」を抱えていることに気づき、「誰にも言えない秘密」を理解し共有しようとする。

  大也(佐藤寛太)

 互いに「水フェチ」であることを知った佐々木(磯村勇斗)と桐生夏月(新垣結衣)は、「自分たちは命の形が人と違ってる。地球に留学しているみたい。」と告白し、「この世界」で生きていくために「偽装結婚」することを決意する。

正欲

(C)2021 朝井リョウ/新潮社 (C)2023「正欲」製作委員会

 この映画で新垣結衣が演じる夏月は、彼女がこれまで演じてきたキャラとは真逆の存在だろう。

 結婚を機会に所属事務所からフリーになり、より自分がやりたい役柄にチャレンジできるようになったという事か。

 その挑戦は成功し、『正欲』は第1回モントリオール日本映画祭において最優秀作品賞と女優最優秀賞(新垣結衣)を受賞したほか、第36回東京国際映画祭の最優秀監督賞など数々の映画賞を総なめにした。

 昨今、LGBTQなどは社会的な認知も受けるようになってきたが、「理解の及ばない世界」でまだまだ苦しんでいる人たちはいるのだろうな。

 そういう人々は、他人には言えない秘密を抱え、まるで「この世界の異邦人」のようにひっそりと生きているのだろう。自分自身への嫌悪感を抱きながら。

 

/// end of the “cinemaアラカルト524「正欲」”///

 

(追伸)

岸波

 映画はこれだけでは終わりません。

 物語の終盤、4人目の「水フェチ」が登場し、子供たちを誘って「水鉄砲」をかけ合うイベントが企画されます。

 ところがこの「4人目」の義務教育教師は、「水フェチ」だけではなく「小児性愛者」でもありました。

 彼の小児買春が露見すると、連絡を取り合っていた佐々木(磯村勇斗)と大也(佐藤寛太)も共謀の疑いで逮捕。そして、その担当検事が寺井(稲垣吾郎)でした。

 こうして彼らは「もう一段先」の結末へ向かって転がっていきます。

 映画のラストの台詞(夏月)はこうです・・『何があろうと私はあなたの前からいなくならないから』。

 マイノリティ同士であるが故の「絆の強さ」を感じさせる作品でした。

 

 では、次回の“cinemaアラカルト2”で・・・See you again !

正欲

(C)2021 朝井リョウ/新潮社 (C)2023「正欲」製作委員会

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To be continued⇒  “cinemaアラカルト525” coming soon!

 

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