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「AUTUMN」(Music Material)
by 岸波(葉羽)【配信2026.3.7】
 

◆この記事は作品のストーリーについて触れています。作品を実際に楽しむ前にストーリーを知りたくない方は閲覧をお控えください。

 こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。

 拳銃(はじき)は捨てた。俺には拳(こぶし)がある。

 今週は、WBC視聴のため期間限定でNetflixを契約したので、NetflixとAmaプラの両方で沢山の映画・番組を視聴しました。

 そんな中で、一番印象に残ったのが1982年の武田鉄矢主演・東宝映画『刑事物語』でした。

刑事物語

(C)1982東宝

 1982年から87年にかけて五作が作られた人気シリーズですが、この第一作は「現在の地上波では放送不可」とされている作品。

 何故かと言えば、トルコ風呂(現在のソープ)を舞台とする闇の素人売春斡旋組織をテーマにした作品で、素っ裸の女性たちが大勢登場するからです。

えーと、別にソコに惹かれた訳ではないです。多分ですが(笑)

 さて、その内容は?

 

 刑事は愛を抱きしめた手のひらを、
 愛を守るために拳にかえた。
 ――男が男であるために…。

 映画の冒頭は7月15日の博多祇園山笠祭りの賑わい。ちょうど同じころ、中洲のトルコ風呂街に警察の強制捜査が突入する。

 裸のトルコ嬢や客が次々と摘発される。裸、裸、裸の阿鼻叫喚。一方では、山笠の山車の狂乱。最早、何が何だか分からない。

刑事物語

(C)1982東宝

 そんな中、一人の刑事片山(武田鉄矢)が上階の奥の部屋に踏み込むと、騒ぎをよそに悠々と全裸で風呂の掃除をしているトルコ嬢のひさ子(有賀久代)が。

 声をかけてもコチラに気づかない。片山刑事が不審に思って近づくと、ようやく気付いて振り向くひさ子。

  トルコ嬢のひさ子

 自分は耳が聞こえないのでよく喋れないが、一生懸命サービスするよと。警察手帳を示して刑事だと示すと、とたんに「助けて下さい」と泣きつくひさ子。

 どうやら騙されてここに拉致され、強制的に売春をさせられていたらしい。

 翌日の朝刊には「警察、又も勇み足。証拠掴めず人権侵害か。署内の責任問題へ」との大見出し。

  やり過ぎる片山刑事

 そして、指揮を執っていた片山刑事の左遷が決まり、彼は博多署から静岡県の南沼津署へ出向することに。

 その傍らにはひさ子も同行している。片山は身寄りのない聴覚障碍者のひさ子を不憫に思い、後見人として生活の面倒を見ることになったのだ。

 以後、あらすじと概要は以下の通り。

◆『刑事物語』の概要とあらすじ(AI要約による)

 博多署の刑事・片山元(武田鉄矢)は、組織売春のガサ入れ(強制捜査)の際にミスを犯し、その責任を取らされる形で静岡県の南沼津署へ転属を命じられます。

 片山は、博多で知り合った身寄りのないろうあの女性・ひさ子(田中邦衛の紹介で知り合う設定 / 演:有賀久代)を放っておけず、彼女を伴って沼津へと向かいます。

  ひさ子と片山刑事

 赴任先の沼津では、トルコ嬢(当時の風俗嬢)が次々と殺害される連続殺人事件が発生していました。見た目は冴えず、膝の抜けたズボンを履いた風変わりな片山でしたが、実は恐るべき拳法の使い手でした。彼はひさ子との絆を深めながら、持ち前の正義感と拳法を武器に、事件の核心へと迫っていきます。

 ラストシーンでは、高倉健が片山の後任刑事役としてカメオ出演していることでも知られています。

 この作品は、武田鉄矢自身が原作・脚本を書いて自ら主演したもの。

 彼は、1979年10月からスタートしたTBSのドラマシリーズ『3年B組金八先生』で主演し、俳優としてブレイクし、以後、繰り返されるシリーズの中で人気を不動のものにしますが、彼自身は「自分の実像とは違い過ぎる」という理由で苦しみながら演じていたと言います。

  片山刑事

 彼が本当にやりたかったのは、『ドランクモンキー酔拳』(1978年)のジャッキーチェンのようなアクション映画。

 『ドランクモンキー酔拳』

 そこで、自ら原作を執筆し「メッタンコに悪人を殴る刑事」として、演じることにしたと。

 これはかなり意外ですね。『金八先生』は見ていたので、体当たりで生徒に接する熱い先生像に共感していたし、またとない「はまり役」だと考えてたので。

刑事物語

(C)1982東宝

 片山刑事の人物像は、一見風采の上がらない田舎刑事。その実「蟷螂拳」の達人で、いったん火が付くとやり過ぎてしまう熱血アクション・ヒーロー。

 ・・という事ですが、改めてこの『刑事物語』を見ると、弱いものを徹底的にかばう人情刑事で、本質は「金八先生」と変わらないように見えます。そういう意味では、武田鉄矢の目論見が成功していない(笑)

 けれども「誰を演じても金八先生である事」こそが彼の持ち味であり、その温かさが美点なのではないかと思う。

 『3年B組金八先生』 

 この映画は40年以上前のものですが、そこに記録された「昭和の風景」は懐かしさが満載。

 トルコ風呂という風俗も勿論だけれど、登場する女性の髪形や服装、街中の看板、取調室や執務室が白く煙るほどの喫煙、警察上層部の事なかれ主義(今も?笑)、果ては、昔我が家にもあった丸い四つ足の電動マッサージ器など「何から何まで昭和」。

上司:昭二、同僚刑事:樹木希林

 また、昔の映画でよくあることだけれどキャスティングが実に豪華。しかもみんな若い!

 チョイ役の詐欺師で出てくる西田敏行、南沼津署の上司の係長は仮面ライダーのおやっさんである小林昭二、同僚刑事に樹木希林、ラストで左遷される片山と交代で異動してくる刑事が高倉健(なんと!)

刑事物語

(C)1982東宝

 そして、主題歌の『唇をかみしめて』を歌うのが吉田拓郎。

 その起用には裏話があり、どうしても彼に曲を書いてもらいたくて足しげく通い詰めた武田鉄矢に対し、「顔の悪い奴に曲は書かない」というにべもない返事(笑)

 それでも渋々承知させたが、いつまで経っても、会えば「飲み会」ばかりで一向に曲のできる気配がない。

 『Ronin 坂本馬竜』より

 映画の公開日が迫り、万事休すかと思われたある日、ようやく連絡があって出向いた待ち合わせを拓郎がドタキャン。代わりにやって来たマネージャーから一枚の紙を渡される。

 書いてあったのは、”ええかげんな奴じゃけ ほっといてくれんさい アンタと一緒に 泣きとうはありません・・”

 一瞬、断りの手紙かと思いきや、タイトルが付いている『唇をかみしめて』。その紙を読んだ武田鉄矢は、テーブルで涙が止まらなかったと言う。(ええ話や)

 『唇をかみしめて』

 この映画で僕が一番、印象に残ったのは、ヒロインのひさ子を演じた新人俳優有賀久代。

 最初の登場こそ全裸にソバージュのカツラというド派手なトルコ嬢だけれど、普段の姿に戻った時の可憐さが忘れられない。

 そして、どれだけの不幸な生い立ちをして来たのか、聾唖者の吃音の台詞も真に迫って涙を誘う。

  ひさ子(有賀久代)

 彼女は、オーディションで選ばれた美大生だったという事だが、それほどに見事な演技をしておきながら、自分の演技に納得がいかず、この一作をもって引退しました。

 どれだけ本人の意識が高かったのか、実に惜しい女優だったと思う。

刑事物語

(C)1982東宝

 そんな有賀久代の演じた「ひさ子」に対し、片山刑事は「同情」以上の感情を抱くようになる。

 そして、ラストシーン。八面六臂の活躍で悪の組織を壊滅させた片山刑事だったが、再び「やり過ぎ」により青森県に再び「出向」が決まる。

 また一緒に遠くへ行かなくてはならないという片山に対し、ひさ子が言ったのは「ごめんなさい、好きな人が居ます」という残酷な一言。

  ひさ子と片山刑事

 アパートの隣室にいた同じ境遇の聾唖者村上(田中邦衛)と新たな生活を始めたいと言う。(あらららら・・)

 片山はショックを押し殺し、二人を祝福して別れを告げ、埠頭を去っていきます。そして、アカペラで流れる拓郎の『唇をかみしめて』。

 ・・いやぁ、このラスト、泣けます。いい映画でした。

 

/// end of the “cinemaアラカルト516「刑事物語」”///

 

(追伸)

岸波

 武田鉄矢の出身も映画の片山刑事の最初の任地も「博多」ですが、拓郎の作った主題歌『唇をかみしめて』は広島弁で書かれています。

 これはどういうことかと言えば、拓郎が「自分の言葉(本音)でしか書けない」と、自分自身の魂を投影して書き上げた結果だと言われています。

 僕自身はこの曲を『刑事物語』で初めて聞きましたが、世の中の不条理を「空に放ち、風に任せろ」というメッセージに感動し、拓郎の代表曲の一つに数えるファンたちが大勢いることを知りました。

 映画は「ひさ子」との悲しい別れがエンディングとなりましたが、思い人のヒロインと別れるこの流れは5作品が作られるシリーズのテンプレです。

 何だ『寅さん』かと思いましたが、同時代のファンたちによれば、『寅さん』と『刑事物語』と『トラック野郎』は「青春の必修科目」だったと言います。

 僕らより一回り下の世代かな。いずれにしてもいい映画でした。

 

 では、次回の“cinemaアラカルト2”で・・・See you again !

刑事物語

(C)1982東宝

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To be continued⇒  “cinemaアラカルト517” coming soon!

 

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