こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。
ねぇ、
秒速5センチなんだって。
桜の花びらが
落ちるスピード。
新海誠監督のアニメ版『秒速5センチメートル』を再見し、奥山由之監督がメガホンを執った実写版『秒速5センチメートル』を観てまいりました。
アニメ版の初見感想は、かつてcinemaアラカルト223でレビューした通り「もだえ苦しむ」バッドエンディング。
実写版でもそれが再現されるのか?
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秒速5センチメートル
(C)2025「秒速5センチメートル」製作委員会 |
しかし、エンディングはそうだとしても、全体としては心の琴線を震わす珠玉の名編という評価の作品。
さて、この名編はどのように実写化されたのか?

遠野君は、
私のずっと向こう、
もっとずっと遠くの
何かを見ている。
実写版映画を観るにあたって、2007年の新海誠監督の原作アニメ『秒速5センチメートル』をもう一度観なおしました。
最初に観た時の感想は、cinemaアラカルトその223『秒速5センチメートル+言の葉の庭』で書いていますが、やはりトラウマ級のバッドエンディング。
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秒速5センチメートル(2007年)
(C)Makoto Shinkai/CoMix Wave Films
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三部作からなる原作アニメは、第一話「桜花抄」で、小学6年生の主人公「遠野貴樹」の幼馴染「明里」が中学入学時に東京から栃木県岩舟への引っ越すことになり、二人は「文通」によって交際を続けることを約束する。
ところが今度は中学に進んだ貴樹が、両親の転勤によって遠く鹿児島県の離島(種子島)に引っ越すことになり、「もう会えなくなる」と予感した彼は「最後に一目だけでも」と岩舟へ会いに行く物語。
第一話「桜花抄」
第二話「コスモナウト」の主人公は種子島の貴樹の高校同級生「花苗」で、密かに貴樹に恋心を抱いているものの、彼が「自分以外の誰か」に心が捉われていることに気づいて懊悩する切ない恋心の話。
第二話「コスモナウト」
そして第三話「秒速5センチメートル」は、成長してSEとなった貴樹が激務で心をすり減らし、就職後に付き合っていた恋人「理紗」とも破局して会社を辞めることになる。
失意の中で通りがかった思い出の踏切(小学校時代、明里とよく通った道)で成長した明里とすれ違うけれど互いに気づかない。
第三話「秒速5センチメートル」
踏切を渡った後で「もしかして!?」と振り返るけれど、折から通過した電車に阻まれ、結局、姿が見えなくなる・・ここで終わり。
あぁ・・・初見でのショックがまざまざと蘇りました。(何の救いもない!)
このエンディングにショックを受けたのは誰もが同じだったようで、世に『秒速5センチの呪い』と呼ばれています(笑)
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秒速5センチメートル
(C)Makoto Shinkai/CoMix Wave Films
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新海監督は何を描きたかったのか。おそらく男性ならば多かれ少なかれ経験したことのある失われた「初恋」のセンチメンタリズムなのか?
それにしても「救い」が無さ過ぎる。貴樹は「遠き日の幻影」に捉われ、高校時代の「花苗」や就職してからの恋人「理紗」の真摯な真心に向き合うことができない。
元恋人の理紗
それにもかかわらず、美しくも懐かしい風景、やるせない青春の「痛み」に心を揺さぶられる不思議なアニメ作品でした。
秒速5センチメートル/2007年
しかし、「あのまま実写化してもきっと失敗作になる」という気持ちが消えないまま実写映画の「解説」を見ると、こんなフレーズが。
『中学1年の冬。吹雪の夜に栃木・岩舟で再会を果たした2人は、雪の中に立つ桜の木の下で、2009年3月26日に同じ場所で再会することを約束する。』と。
秒速5センチメートル
え!? 原作の中でそんなシークエンスは無かったはず。
もしかして、ストーリーが「改変」された?・・そこで映画館に足を運ぶことに。
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秒速5センチメートル
(C)Makoto Shinkai/CoMix Wave Films
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では、実写映画の感想は?
結論から言えば「原作で足りない部分が完璧に埋められた素晴らしい作品」となっていました。でもそれは「ハッピーエンド」に作り替えられた訳ではありません。
明里が別の男性と結婚することになるのもそのまま。エンディングの踏切シーンで「すれ違い」に終わるシーンもそのまま。
踏切シーン
その代わり、原作の中では貴樹の思い出の中にしか登場しなかった明里の「その後の人生」が挿入されたのでした。
大人になった明里(高畑充希)
岩舟で二人が再会を約束した「2009年3月26日」というのは、「地球に小惑星が衝突するかもしれない」とされた日でした。
偶然の一致ですが、2009年2月に地球衝突コースを進んでいる小惑星アポロンが発見され、最終的には地球から63,500キロの至近距離を掠めて飛び去りました。(映画が作られた2007年時点では未発見。)また、「小惑星が地球に衝突」というシークエンスは、後の作品『君の名は。』のモチーフにもなっています。
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君の名は。(ティアマト彗星)
(C)2016「君の名は。」製作委員会
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東京に季節外れの雪が降ったその3月26日に、明里(高畑充希)は仕事で「科学館」を訪れたついでにプラネタリウムを鑑賞していました。
その時の解説員は、SEを辞めて科学館に再就職していた貴樹(松村北斗)でしたが、互いに気づくことはありませんでした。
科学館学芸員の貴樹
その後貴樹は岩舟の「約束の場所」に向かいますが、明里はそこに来ていません。それもそのはず、婚約した相手と一緒に居たのですから。
一人、約束の場所へ
後日、貴樹が科学館の小川館長(吉岡秀隆)に「3月26日」のいきさつを話すと、館長は来館した明里(高畑充希)から話を聞いていたことを伝えます。
『その人は行かないと言っていました。 相手にはあの約束を忘れてほしいから。幸せに生きてて欲しいからと。』
小川館長(吉岡秀隆)
そう・・この伝言によって貴樹は、リアルな明里が幸せな人生を歩んでいること。そして彼女が自分に対して「幸せに生きて欲しい」と願っていることを知るのです。
この時、貴樹が流した涙は「悔恨の涙」ではなく、長年の呪縛から解放された「安堵の涙」そして「祝福の涙」であったに違いありません。
そうしてラストは、伝説の「踏切シーン」へと回帰します。
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秒速5センチメートル
(C)Makoto Shinkai/CoMix Wave Films
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もちろん「すれ違い」で終わり「再会」の言葉はありません。でも、アニメのラストシーンとは明らかに違う印象。過去の呪縛から解き放たれ、新しい人生に向かって歩き始める希望に満ちています。
ああ・・よかった。やはりこうでなくては。実写映画の奥山由之監督によるこの解釈が正しかったことは、原作者の新海誠監督自らが「感動して涙を流した」と語った事実に裏付けられます。
新海監督が本当に描きたかったのは「初恋の呪い」や「青春の不条理」ではなく、「青春の呪縛からの解放」、「再生の物語」だったのでしょう。
その真意を洞察して、新たな名シーンを加えた奥山監督の手腕に脱帽です。
/// end of the “cinemaアラカルト495「秒速5センチメートル」”///

(追伸)
岸波
実写映画の全シーンにわたって、非常に原作アニメの「再現度」が高かったことは特筆されます。
特に僕が最も好きな第二話「コスモナウト」の花苗(森七菜)の演技は、感情移入しまくりで、切なさに胸が締め付けられるようでした。
花苗(森七菜)
また、米津玄師によって書き下ろされた新たな主題歌「1991」も素晴らしい。
♪いつも笑って隠した 消えない傷と寂しさを
1991 恋をしていた 光る過去を覗くように♪
主人公貴樹の心象風景そのままですね。

そうそう・・米津玄師も監督の奥山由之氏もこの1991年生まれ。きっと多感な少年時代に新海誠監督『秒速5センチメートル』(2007年)に触れて感動した経験があるんじゃないでしょうか。
では、次回の“cinemaアラカルト2”で・・・See you again !
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秒速5センチメートル
(C)Makoto Shinkai/CoMix Wave Films
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