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「ウィリアム・テル序曲」(かまたまご
by 岸波(葉羽)【配信2025.9.6】
 

◆この記事は作品のストーリーについて触れています。作品を実際に楽しむ前にストーリーを知りたくない方は閲覧をお控えください。

 こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。

 世界を変えるのは、
 正義か?
 復讐か?

 2013年公開、アーミー・ハマーとジョニー・デップW主演の『ローン・レンジャー』をAmaプラで視聴しました。

 公開当時は今一つ興が乗らなくて観に行かなかったのですが、Amaプラで確認したら292人のグローバルレーティングで4.2/5.0という高評価だったので、食指が動いたのです。

 あれ、確かこの映画、ディズニーで過去最高の「赤字映画」だったはず?・・いったい何が!?

ローン・レンジャー

(C)Disney Enterprises, Inc. and Jerry Bruckheimer Inc. All Rights Reserved.

 2時間22分という長尺作品でしたが、見始まったらアレヨアレヨ・・引き込まれて最後まで観てしまいました。

 しかもラストの20分ほどは、懐かしくも嬉しい演出が目白押し。全然、悪くないじゃん? ということで、その内容は?

 

 悪に支配された世界を救うーー正義のために

 映画の冒頭、西部の歴史博物館でローン・レンジャーの扮装をした少年が展示を見ていると、突然、コマンチ族の等身大フィギュアが動き出す。

 少年は驚いて逃げようとするが、具現した老インディアンに呼び止められ、そのコマンチ族トント(ジョニー・デップ)は昔話を始める・・

 で、回想シーンの本編がスタートするという趣向。

ローン・レンジャー

(C)Disney Enterprises, Inc. and Jerry Bruckheimer Inc. All Rights Reserved.

 本編では、西部の極悪人ブッチ・キャヴェンディッシュ(ウィリアム・フィクナー)が縛り首にされるため、大陸横断鉄道でテキサスに移送されている。

 そして何故か一緒に移送されているコマンチ族のトント(ジョニー・デップ)。

 だが、キャヴェンディッシュの手下が救出のため襲来し、それを察知した新米検事のジョン・リード(アーミー・ハマー)が阻止を図るも、逆にトントと鎖で繋がれてしまう。

  繋がれたトントとジョン

 機転を利かし、暴走する機関車から逃げ出そうとするトントだったが、正義感の強いジョンは乗客の救出を主張し、鎖で繋がれた二人はギリギリのところで客車の切り離しに成功、事なきを得る。

 過去の因縁からキャヴェンディッシュを追い復讐を果たそうとするトントに「お前は何の罪で捕縛された?」と質すと「原住民で異教徒」だからと言う。

  トント(ジョニー・デップ)

 合点がいかないジョンだが「人は等しく法の裁きを受けなければならない」と再びトントを捕縛し西部の田舎町コルビーで牢屋に入れてしまう。

 かくしてジョンは、出身地のコルビーでテキサスレンジャーを務める兄のダンのチームに加わり、逃走したキャヴェンディッシュの一味を追う。

 だが、悪党と通じていた仲間コリンズの画策でレンジャーチームは壊滅。自身も大怪我を負って気を失ってしまう。

ローン・レンジャー

(C)Disney Enterprises, Inc. and Jerry Bruckheimer Inc. All Rights Reserved.

 一方、牢屋を脱獄したトントがレンジャー壊滅の現場を通りかかると、コマンチ族が「神の馬」と信じる白馬が現れ、その導きでジョンを発見し救出。

 ジョンは「必ず法の裁きを受けさせる」ことを条件に、キャヴェンディッシュを仇とつけ狙うトントと協力することになる。

 

「悪党には、死んだと思わせた方がいい」というトントの示唆で、ジョンは殺された兄ダンの黒チッキで「アイマスク」を作り、ローン・レンジャーと名乗り町に戻る。

こうして、白馬に跨りアイマスクと白のテンガロンハットに身を包んだ「ローン・レンジャー」のイデタチが完成する。

 悪党らの手がかりを求めて町の娼館を訪れた二人は、そこの女主人レッド・ハリントン(ヘレナ・ボナム=カーター)から、「コマンチ族が協定を破って境界の川を渡って居住地を襲撃している」という情報を得る。

  女主人レッド・ハリントン

 その集落には、殺された兄ダンの妻レベッカ(ルース・ウィルソン)と遺児のダニーが居住しており、ジョンとトントは救出に向かう。

 しかし既に二人は連れ去られた後で、残党と交戦する中、襲撃者はコマンチ族に扮したキャヴェンディッシュの一味であることが判明。

  兄嫁レベッカとダニー

 一方、コルビーの町まで鉄道を到達させた大陸横断鉄道会社のレイサム・コール(トム・ウィルキンソン)は、鉄道を守るため騎兵隊の出動を要請。

 罪を擦り付けられたコマンチ族と騎兵隊は一触即発の危機となる。

  凄く悪い奴キャヴェンディッシュ

 さて、ジョンとトントは「仕組まれた戦闘」を阻止することができるのか? そして連れ去られたレベッカとダニーの運命は?

 はたまた、コマンチ族の壊滅を画策するキャヴェンディッシュの真の狙いとその黒幕は?・・運命の刻が迫る。

ローン・レンジャー

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 そんな物語ですが、悪党と保安官(レンジャー)、騎兵隊とインディアン、西部開拓時代と、まさに三拍子そろった「西部劇」の王道ストーリー。

 主演の片割れジョニー・デップに引っ張られた訳ではないと思いますが、アクションとユーモアで綴られる演出を見ていて、『パイレーツ・オブ・カリビアン』のノリと同じだと感じました。

  パイレーツ・オブ・カリビアン

 後から調べてみると、監督がゴア・ヴァービンスキー、脚本がテッド・エリオット&テリー・ロッシオと、やはり『パイレーツ』の制作チームが集結・・あらら、僕の目に狂いはなかったんだと(笑)

 殺し合いなど残虐なシークエンスもあるのですが、それをユーモアで包んで深刻にさせない辺りが「そうかな?」と。

 さらにこの話全体が、博物館の中で老トントが少年に話して聞かせる「回想」ということで、さらに残虐さは薄まっています。

 またストーリーも「インディアン悪役&騎兵隊ヒーロー」という白人目線の勧善懲悪物語にせず、実は大陸横断鉄道会社の社員コールと悪役キャヴェンディッシュが兄弟で、鉄道敷設の中で発見したコマンチ族居住区の「銀山」を独り占めするために共謀していたというヒネリを入れてあります。

  真の黒幕、鉄道会社のコール

 トントは少年時代に悪漢兄弟と遭遇し、オンボロ時計と引き換えに「銀山」の存在を話してしまい、独り占めを狙った兄弟に「情報隠蔽」のため部族を皆殺しにされていた。現在はその「復讐」のためだけに生きているという裏ストーリーも。

 そうそう・・裏ストーリーと言えば、ジョンと兄嫁レベッカは元もと「恋人同士」。

 でも法律家を志したジョンは町を離れてしまい、レベッカはレンジャーとして町に残った兄ダンと結ばれたのです。

  実は元恋人同士

 そんな伏線があちらこちらに散りばめられ、そして演技にも影を落としているので、「勧善懲悪」にとどまらない深い味わいがあります。

ローン・レンジャー

(C)Disney Enterprises, Inc. and Jerry Bruckheimer Inc. All Rights Reserved.

 『ローン・レンジャー』は1930年代にアメリカのラジオドラマとして大ブレイク。その後、アメコミ化、映画化、TVドラマ化され絶大な人気を博しました。

  旧作『ローン・レンジャー』

 日本でのTVドラマ放映は1958年から。アメリカ版『鞍馬天狗』として日本でもブレイクし、1959年に創刊された「少年サンデー」にコミカライズ版の連載も。

 僕の記憶に残っているのもその頃のこと。特に、白馬に跨り白いテンガロンハットと黒いマスクをつけて「ハイヨー、シルバー!」と叫ぶ名シーンはずっと少年の心に残っていました。

  ハイヨー、シルバー!

 そして、たまらないのが、いつもTVドラマ終盤の大活劇シーンで流れたテーマソング「ウィリアム・テル序曲」。

 この曲があまりに印象的なので、ロッシーニ作曲のクラシックではなくローン・レンジャーのテーマ曲として作られたものという誤解も広まったとか(笑)

 今回の映画の終盤でも、疾走する列車の上を白馬で駆ける痛快シーンに「ハイヨー、シルバー」や「ウィリアム・テル序曲」が使われ、往事を知る僕からすれば「うれし涙がチョチョ切れる」演出でした。

ローン・レンジャー

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 それにしても・・こんな面白い映画が何故「ディズニー最悪の赤字映画」となったのか?

 ちょっと調べてみると、当初9000万ドルを予定した製作費は最終的に2億1,500万ドル〜2億5,000万ドルまで膨れ上がり、それに対する世界興行収入は約2億6,000万ドル(日本円で約20.9億円)であったとのこと。

  兄嫁レベッカ

 単純収支ではプラスに見えますが、これにプロモーション経費や配給会社の取り分等を加味すると、ディズニー社の損失は約1億5,000万ドルになるとのこと。(なるほど・・こりゃ「大赤字」だ)

 また、ダメダメ映画を顕彰する「ゴールデン・ラズベリー賞」には、映画作品賞、最低男優賞(ジョニー・デップ)など5部門でノミネート。最終的に「最低前日譚・リメイク・盗作・続編賞」を受賞しました(笑)

  最低男優賞候補(笑)

 ならば何故、現在のAmaプラで4.2/5.0という高評価になっているのか? 考えるに、その理由は「時代そのものの変化」ではないかと。

 映画公開当時の2013年頃は、アメリカ市場における西部劇は既に「過去の物」で若者のニーズを掴めなかった。

 また逆に、ジョン・ウェインなど往年の西部劇スターが活躍した頃を知っている高齢シネマファンにとっては、ジョニー・デップと西部劇という部分が違和感ありまくり。

 現に僕がそうであったように、劇場まで足を運ぼうとは思わなかったのではないでしょうか。

  ジョン・ウェイン

 ならば、そこから十数年経った現在はどうか?

 一世を風靡したマーベルも人気の峠を越え、初めてジェィムズ・ボンドの死が描かれた「007」や区切りをつけた「ミッション・インポッシブル」など一つの時代が終わったと感じさせるタイミング。

 そんな中、往事の「西部劇」を全く知らない世代に、ノスタルジーではなく「新しいコンテンツ」として受け止められたのでは無いのかな?(自信ないけど:笑)

ローン・レンジャー

(C)Disney Enterprises, Inc. and Jerry Bruckheimer Inc. All Rights Reserved.

 思えば前にも一度、そういうことがありました・・「マカロニ・ウエスタン」が隆盛を極めた頃です。

 だからと言って、もう一度「西部劇」が復興するかと言えば難しいかもしれません。

 騎兵隊が登場する正統派西部劇も、「復讐」に特化したマカロニ・ウエスタンも「ネタ」が出尽くした感がありますよね?

 さて映画のラスト、ジョンとトントは悪役を駆逐して西部のヒーローとなります。

 でも、「町に残ってほしい」と懇願する兄嫁レベッカ(昔の恋人)を振り切り、ジョンはトントと二人、旅に出ることを選びます。

 そんな切なさを漂わせるラストも「西部劇の王道」を踏まえたもの・・そう「シェーン、カムバック!」のように。(いいじゃない!)

 

/// end of the “cinemaアラカルト488「ローン・レンジャー」”///

 

(追伸)

岸波

 黒マスクなどの扮装を確定した後、別人となった自分を何と名乗るかジョンはいろいろなアイディアを出します。

 でも、カッコさよげなネーミングは、トントにことごとく却下され、「9人いたレンジャーがたった一人になったからローン・レンジャーか・・」とつぶやくと、「そのまんまなんでOK」と。(そうだったんだ:笑)

 また、この「黒マスク」で思い出されるのは、やはり往年のTVドラマ『怪傑ゾロ』。

 『怪傑ゾロ』

 帽子に黒マスク、似てますよね!

 『ゾロ』の放映年を確認すると1960年から・・やはり『ローン・レンジャー』をパクったんでしょうか?

 

 では、次回の“cinemaアラカルト2”で・・・See you again !

ローン・レンジャー

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To be continued⇒  “cinemaアラカルト486” coming soon!

 

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