こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。
人気漫画家と恩師との出会いと別れの9年間
『海月姫』や『東京タラれば娘』の人気漫画家東村アキコが自分の半生を描いた原作を永野永野芽郁と大泉洋のダブル主演で実写映画化した『かくかくしかじか』を最終日に駆け込みで観てまいりました。
というのも、やはり公開直前に露見した永野芽郁ちゃんの不倫騒動が気になって作品に集中できないだろうと思っていたものの、作品は作品として評価されヒットしたことを知ったからです。
その結果・・やはり泣きました。非常に完成度の高い映画だと思います。
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かくかくしかじか
(C)東村アキコ/集英社 (C)2025 映画「かくかくしかじか」製作委員会 |
まあ、大泉洋の作品に駄作は無いですし、共演陣も見事な演技。それにも増して、制作現場にも関わった東村アキコ氏の脚本とテンポ、笑いと泣かせの絶妙なバランス、どれをとっても「一級品」の映画だったことに満足いたしました。
さて、その具体的な内容はいかに?

描くことでしか、言えなかった。
映画の冒頭、少女漫画家にあこがれる宮崎県の高校生林明子(永野芽郁)は、「美大出身の漫画家」という肩書きがカッコいいと、とりあえず美大進学を志す。
というのも少々絵心があった彼女は、何でも褒めそやす「宮崎気質」の周囲の賞賛に天狗になり、自分の絵の実力なら勉強などしなくても簡単に美大に進めると勘違いしていたのだ。
そんなある日、同じく美大進学を目指す同級生の美術部員北見(見上愛)が進学のため絵画術教室に通っていることを知り、一度見学したいと考える。
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かくかくしかじか
(C)東村アキコ/集英社 (C)2025 映画「かくかくしかじか」製作委員会
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北見の通う小さな絵画教室の先生は日高健三(大泉洋)という地元ではけっこう有名な画家だが美術団体に所属しない一匹狼の人物。
ためしに描いてみろと言われてデッサンをすると、めちゃくちゃに酷評され一気に自信喪失する。
日高健三(大泉洋)
このままでは美大進学も覚束ないと日高教室に通うこととなるが、あまりのスパルタ教育に嫌気がさし、何とかして逃げ出そうと画策する。
以下、映画の概要とあらすじは以下のとおり。
◆『かくかくしかじか』(2025年)の概要とあらすじ
「海月姫」「東京タラレバ娘」など数々のヒット作を生み出してきた人気漫画家・東村アキコが自伝的作品として描き、第8回マンガ大賞および第19回文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞を受賞した漫画「かくかくしかじか」を実写映画化。漫画家を目指す少女と恩師である絵画教師との9年間にわたる軌跡を描く。
宮崎県に暮らす、お調子者でぐうたらな女子高生の林明子は、幼い頃から漫画が大好きで、将来は漫画家になりたいという夢を抱いている。その夢をかなえるべく美大進学を志す明子は、受験に備えて地元の絵画教室に通うことになった。そこで出会ったのが、竹刀片手に怒号を飛ばすスパルタ絵画教師の日高先生だった。

何があっても、どんな状況でも、生徒たちに描くことをやめさせない日高。一方の明子は、次第に地元の宮崎では漫画家になる夢をかなえることはできないと思うようになっていき、日高とすれ違っていくが……。 |
原作を読んでいなかったので「青春サクセスストーリー」かと思いきや、「青春挫折ストーリー」だったのですね。
自信過剰な高校生が自分のダメさに気づき、絵画教室で上達しようとするけれどすぐに逃げ出す。絶対的な自信を持って臨んだ第一志望の美大受験が不合格(友人の北見は合格)となり、滑り止めの第二志望にギリギリ合格。
しかし、大学に進むとそれまでの情熱を失い彼氏を作って放蕩三昧の日々。大学の課題絵画も酷評されて、何を書けばわからなくなり故郷へ戻って意気消沈。
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かくかくしかじか
(C)東村アキコ/集英社 (C)2025 映画「かくかくしかじか」製作委員会
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なんとか卒業しても就職は見つからず、堪忍袋の緒が切れた両親に無理やりコールセンターに勤めに行かされる。
慣れない仕事に疲労困憊
いやはや、挫折だらけの人生ですが、それをずっと見守って厳しく応援し続けてくれたのが日高先生でした。
この日高先生「描け、描け! とにかく描け!」と、まるで『巨人の星』の星一徹お父さんのようなスパルタ・スポ根教師。
星一徹のちゃぶ台返し
怠けるとすぐ、罵倒とアイアンクローと竹刀が飛んでくる。昔は居ましたね、こういう先生。
極めつけは、美大の課題に何を描いていいかも分からなくなり、実家へ戻って自分の部屋に籠りきりになった明子の元へ突然やって来る。
両親に「姿見」の鏡を持って来させ「自分の姿を描け!」と。「描きたくない」という明子の髪の毛を鷲づかみにして鏡にこすりつけ、「とにかく描け!見たまんま描け!」・・コレ、現代の感覚だと「虐待」でコンプライアンス違反?(笑)

かと思うと、腹を抱えて笑いたくなるシーンも。
明子の2級後輩のヤンキー少年今ちゃん(鈴木仁)が、明子に絵を褒められると急に相好を崩して「その気」になり美術部に入部する。
ヤンキー今ちゃん(鈴木仁)
その今ちゃんが日高教室に通い始めて間も無く、日高先生と取っ組み合いの喧嘩になる。明子がその理由を聞くと「1999年に地球は破滅するかどうか」で激論になったという(笑)
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かくかくしかじか
(C)東村アキコ/集英社 (C)2025 映画「かくかくしかじか」製作委員会
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明子の父親(大森南朋)はお菓子好きで、「鏡の自画像事件」で二階が大騒ぎになって階下から心配そうに見上げるシーンでもお菓子を手放さない(大笑)
父(大森南朋)と母(MEGUI)
そんなお笑いシーンの中に、日高先生の「思い遣り」を表すシーンがさり気なく挟まれます。
例えば、明子が最初に「日高教室」に通い始めてすぐ嫌になり、「おなかが痛い」と仮病を使って逃げ出すシーン。脱出に成功して意気揚々としてる明子の背後からヒタヒタと足音が。

嘘がバレたと進退窮まった明子に、日高は怒りもせず「お母さんは迎えに来れない。バス停まで遠いからオレにおぶされ」と。
「重いでしょ?」と問う明子に日高は無言。もちろん重いに決まってますがそんなことは一言も言わない。
原作者の東村アキコ氏によれば、この時の日高は「盲腸」を疑って必死だったと。明子は自分の愚かな「嘘」に酷く自己嫌悪・・。
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かくかくしかじか
(C)東村アキコ/集英社 (C)2025 映画「かくかくしかじか」製作委員会
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また、美大に進学して遊ぼ呆けている明子のもとに突然、宮崎から日高が訪れる。
部屋のカンバスが真っ白なことに気づくが日高は何も聞かず、「そのうち自分と『二人展』をやろう。だから描け」と言って去って行く。
見送って部屋に帰ると、テーブルの上には宮崎銘焼酎「百年の孤独」が置いてある。
←多分こんな(違った?)
これも東村アキコ氏によれば、本当は二十歳になった自分と酒を酌み交わしたかったんだろうなと。
いやぁ、こういう「言わないで飲み込む演技」はさすが大泉洋、素晴らしい。その男気に泣けてきます。
流行作家に・・
ストーリーのクライマックスは明子が流行作家になり、時間に追われる生活になった中、突然、日高からの電話で「癌の余命4か月」を告げられてからのエピソード。
会いに行きたいが仕事が許さない。それでも会いに行けば編集者からの危急の電話で「今夜中に原稿の差し替え」を命じられる。
「また来ます」・・その約束が果たせないことは明子も日高も分かっている。辛いですね、コレは。
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かくかくしかじか
(C)東村アキコ/集英社 (C)2025 映画「かくかくしかじか」製作委員会
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東村アキコ氏によれば、このラストエピソードを描いている間は、スタッフ全員が涙を流しながら机に向かっていたとのこと。
その話を後で知り、再び心が鷲づかみにされました。
ああ・・この映画を観に来てよかった。
そして、色々な事(放映中止まで)を言われた映画でしたが、公開一か月の6月16日時点で、興行収入7億7300万円、観客動員数58万人突破のヒット作となりました。
やはり、本当に良い映画は心を打ちますね。
/// end of the “cinemaアラカルト477「かくかくしかじか」”///

(追伸)
岸波
不倫疑惑露見から封切りまで、ネットでは「公開中止」や「大赤字決定」など無責任な書き込みが溢れました。
しかし、いざ封切られると順調に滑りだし、東村アキコの出身地、宮崎県では公開週末には全ての劇場でトム・クルーズ主演『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』を抑えての動員ランキング1位。さらに週末動員ランキングでも5週連続の1位と大ヒット。
全国での興行収入も上述のとおり公開一か月で7億7300万円を超えました。
映画の広報活動では、原作者の東村アキコ氏が大奮闘。TV出演や解説、弾丸ツアーでの各劇場挨拶など八面六臂の活躍を見せました。
原作者東村アキコ氏の舞台挨拶
彼女が一番苦労したのは、映画の中に出て来る原稿書きシーンで、実際は完成して発表されている『かくかくしかじか』の「書きかけ原稿」をもう一度描かなければならなかったこと。
なるほどねぇ、そりゃそうだ(笑)
では、次回の“cinemaアラカルト2”で・・・See you again !
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『かくかくしかじか』プレミアイベントにて
(C)東村アキコ/集英社 (C)2025 映画「かくかくしかじか」製作委員会
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eメールはこちらへ または habane8@yahoo.co.jp まで!
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