こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。
君たちは
どう
生きるか
昨夜5月2日(金)の「金曜ロードショー」で宮崎駿監督の『君たちはどう生きるか』が地上波初放映されたので、ケイ子と共に鑑賞いたしました。(劇場には行ってない)
宮崎駿”二つ目の最後の作品”(?)ということで、前作『風立ちぬ』から10年ぶりに公開された本作。
第96回アカデミー賞で、日本映画としては『千と千尋の神隠し』以来21年ぶりとなる「長編アニメ映画賞」を受賞したほか、ゴールデングローブ賞と英国アカデミー賞も受賞しました。
ところがっ!!
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君たちはどう生きるか
(C)2023 Studio Ghibli |
実際に劇場に足を運んだ観客からは「賛否両論」と言うより、「意味が分からない」、「期待していたジブリ作品ではない」、「難解すぎる」と非難ゴウゴウ。
いつも画像参照している「映画.com」での観客評価も「3.3」と、ジブリ映画ではあり得ない数字となっています。
封切りに当たっても、一枚のイメージポスター以外、一切情報を出さず公開に踏み切った秘密主義を徹底。
公開されたイメージポスター
僕が一番困ったのは、いつもこのcinemaアラカルトで最初に掲出している「キャチコピー」さえ無かったこと(笑)
さて、実際に観た感想は?

君たちは
どう
生きるか
映画の冒頭は太平洋戦争が始まって3年目の日本。主人公の少年眞人(マヒト)が、母親を呼びながら混乱する町の中を走っている。
彼の母が火事に巻き込まれたのを聞き、避難する人ごみの中を逆走しながら家に向かっているのだ。
しかし母親を救うことは叶わず、実家は周囲の街並みとともに焼け落ち、眞人(マヒト)は天に昇って行く母の幻影を見る。
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君たちはどう生きるか
(C)2023 Studio Ghibli
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と、この後のあらすじと概略は以下のとおり。
◆『君たちはどう生きるか』(2023年)のあらすじと概略 (映画.comより抜粋)
宮﨑駿監督が2013年公開の「風立ちぬ」以来10年ぶりに世に送り出した、スタジオジブリの長編アニメーション。「風立ちぬ」公開後に表明した長編作品からの引退を撤回して手がけ、宮﨑監督の記憶に残るかつての日本を舞台に、自らの少年時代を重ねた自伝的要素を含むファンタジー。
母親を火事で失った少年・眞人(まひと)は父の勝一とともに東京を離れ、「青鷺屋敷」と呼ばれる広大なお屋敷に引っ越してくる。亡き母の妹であり、新たな母親になった夏子に対して複雑な感情を抱き、転校先の学校でも孤立した日々を送る眞人。そんな彼の前にある日、鳥と人間の姿を行き来する不思議な青サギが現れる。その青サギに導かれ、眞人は生と死が渾然一体となった世界に迷い込んでいく。

宮﨑監督が原作・脚本も務めたオリジナルストーリーで、タイトルは宮﨑監督が少年時代に読んだという、吉野源三郎の著書「君たちはどう生きるか」から借りたもの。主人公の少年・眞人役の声は、映画「死刑にいたる病」などに出演する若手俳優の山時聡真。そのほかの声の出演に菅田将暉、柴咲コウ、あいみょん、木村佳乃、木村拓哉、大竹しのぶ、國村準、小林薫、火野正平ら。作画監督は「新世紀エヴァンゲリオン」シリーズで知られる本田雄、音楽は宮﨑作品を支えてきた久石譲、主題歌は米津玄師の書き下ろし新曲「地球儀」。 |
僕らはこの映画の封切り時に劇場へ足を運ぶことはありませんでした。まずタイトルが、先年、見直されて大ヒットした吉野源三郎の小説『君たちはどう生きるか』そのままであったこと。
吉野源三郎『君たちはどう生きるか』
作品の内容をイメージさせるキャッチコピーもなく、宮崎監督らしくないと言うか「ジブリ」らしくないと言うか、あまりの秘密主義に「なんだ、『SLUMDUNK』の成功方式をパクったのか」というのが最初の印象。
『SLUMDUNK』
そして、観て来た人たちがネットなどに書き込んだ感想がまた酷いもので、コロナ禍収束期とはいえ、わざわざ劇場に行くまでもないと思ったのです。
今にして思えば、ネットの書き込みは要領を得ず的外れなものが非常に多かった。
ただ共通するのは「非常に難解な作品」であったこと。本当にそうなのか?
そこで今回、僕らが実際に鑑賞した結果、幾つかのことを感じた。
その一つは、「これは現代の『不思議の国のアリス』なのだろう」ということ。ただし、極めてダークな『不思議の国のアリス』だ。
『不思議の国のアリス』
主人公眞人(マヒト)の目的は、青サギから言われた「オマエの母親ヒサコは本当は死んではいない。会いに行きたいか?」という話の真実の確認と、行方不明になった義母夏子(ヒサコの妹、父親の再婚相手)を探して連れ戻すことの二つ。
そのため、疎開した夏子の実家の山奥にある「謎の塔」に侵入して「地下世界」に迷い込み冒険をすることになる。
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君たちはどう生きるか
(C)2023 Studio Ghibli
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話としては至極単純。通常ならそこで少年の「成長物語」が描かれるところだろう。しかし、そうはならない。
この「地下世界」は、かつて同様に迷い込んで行方知れずとされた眞人(マヒト)の大伯父が神のような存在になっている心象世界。間も無く滅びようとしている「死の世界」なのだ。
眞人(マヒト)と大伯父
大伯父は、間も無く消えようとしている自分の存在の代わりに眞人(マヒト)を後継者に据えたいと考えており、倒すべき敵でもラスボスでもない。
そんな「死の世界」の中で眞人(マヒト)は、生まれようとする人の命を食べ続けて自分の命を繋いでいるペリカンやインコの軍団に翻弄されながら、ひたすら実母と義母の行方を求める。
失踪した義母夏子
つまり、巨悪を倒すヒーローでもなければ、倒すべき「敵」さえ存在しない「不条理」の世界の中で、迷い悩み苦しむ存在なのだ。
生まれるのを待つ魂たち
過去のジブリ作品のような鑑賞後の「感動」や「爽快感」は皆無で、主人公眞人(マヒト)に「思い入れ」や「共感」を感じる部分も少ない。
魂を喰わなければ生きて行けない
だから、ファンタジー世界の「ワクワク感」やそれなりの「達成感」があった『アリス』とは似て非なる、極めてダークな物語となっているのだ。
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君たちはどう生きるか
(C)2023 Studio Ghibli
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もう一つは、宮崎監督はこの作品を「観客に分かりやすく作ろう」とは考えていなかっただろうということ。
「感動」や「共感」を度外視したストーリーであるのだから、当初から「観客ウケ」を狙っていないのは明らかだ。ならば、彼は何故この作品を作ったのか?
僕は、宮崎駿が「自分自身に向けた人生の総括」ではなかったかと感じた。
宮崎駿監督・脚本
そうした背景から、これまで提携して来た日本テレビやディズニーの関与を避け、『となりのトトロ』(1988年)以来35年ぶりのジブリ単独出資映画としたのだろう。
父親が戦時中、軍需工場の経営者であった主人公眞人(マヒト)の設定自体、宮崎駿の幼年時代を反映している。
前作『風立ちぬ』も戦闘機を造っていた軍需工場を舞台にしたものだったが。
『風立ちぬ』
また、これまでの彼の作品には「進むべき道を示してくれる強い女性」が様々な形で登場して来た。
今回の作品で言えば、地下世界で眞人(マヒト)の危機を救いに来るキリコや「火の精」となって生まれ出づる魂たちを守るヒサ(若き日の実母ヒサコ)だ。
救出に来る船乗りのキリコ
宮崎駿自身の母親は、脊椎カリエスで寝たきりであったため、自分を構ってくれることはできなかった。
そうした幼少期の「母親コンプレックス」が、逆に自分を常に導いてくれる強い女性キリコやヒサに投影され、テーマそのものも「二人の母を求める物語」となったのではないか。
おそらく「育ての母」に相当する人物もいた筈だ。
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ヒサ(若き日の母親ヒサコ)と眞人(マヒト)
(C)2023 Studio Ghibli
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極めつけは、謎の塔(地下世界への入口)を統べる大伯父の存在だ。彼が、現在の宮崎駿自身ではなかろうか。
日本では誰も挑戦しなかった「ファンタジー・アニメ」という謎の塔を作り上げ第一人者と称されるも、彼自身は「十分に満足できる結果」とは見ていないのだろう。
いやむしろ、世界中から集めた「悪意が宿らない最後の13個の石」を日々、不安定に積み上げ直している彼の姿は、焦燥と懊悩の中に居るように見える。
地下世界を統べる大伯父
不十分ではあるけれど、自分はここまでやって来た。だが今度は君たちの番だ。さあ、『君たちはどう生きるか』・・。
宮崎駿が自分の人生に「オトシマエ」を付けようとした作品、それが今回の『君たちはどう生きるか』ではなかったか。
/// end of the “cinemaアラカルト469「君たちはどう生きるか」”///

(追伸)
岸波
宮崎駿が「自身の集大成」として作った映画なので、これまでの過去作品のオマージュと思われる設定が数多く登場します。
あ、コレは『もののけ姫』だ、『となりのトトロ』だ、『千と千尋の神隠し』だなどとすぐに分かるシーンが出てきます。詳細はご自身で確認を。
『もののけ姫』
また、夏子の実家で、家事を切り盛りしている「7人の老婆」は、もちろん白雪姫の「7人の小人」ですね。ディズニーまでオマージュしちゃってる!(笑)
夏子姫と7人の老婆
あと「声優」についての話。
プロの声優を使わず、菅田将暉やあいみょん、柴咲コウ、木村佳乃、木村拓哉、大竹しのぶ、竹下景子など「この人がアテレコしてたの!?」と驚かせる配役でエンディング・クレジットは大盛り上がり。

だけど、木村拓哉の「父親勝一」役は「作りすぎ」で良くなかった・・と感じた。
彼自身、アイドル路線からの脱皮に適解を見いだせず紆余曲折してるように思う。
父親の勝一(木村拓哉)
最後にラストシーン。
無事、現実世界に帰還した眞人(マヒト)と義母の夏子は終戦を迎え、再び家族で東京へ戻ることになる。
最後の片づけをして部屋を出て行く眞人(マヒト)・・ここで唐突に本編が終了する。「終り」の文字もなく、米津玄師のエンディングテーマ『地球儀』が流れ始める。
米津玄師
あらぁ「終り」って打たないんだ! まさか・・もしかして・・?
では、次回の“cinemaアラカルト2”で・・・See you again !
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君たちはどう生きるか
(C)2023 Studio Ghibli
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