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「AUTUMN」(Music Material)
by 岸波(葉羽)【配信2025.3.22】
 

◆この記事は作品のストーリーについて触れています。作品を実際に楽しむ前にストーリーを知りたくない方は閲覧をお控えください。

 こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。

 幕末の侍が時代劇撮影所にタイムスリップ?!

 昨年8月に劇場公開されたばかりの『侍タイムスリッパー』が、早くもAmazonプライムで配信されたため、これを視聴いたしました。

 独立プロの制作でありながら、第67回ブルーリボン賞作品賞、第48回日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞。

 それにも増してっ!!

侍タイムスリッパー

(C)2024未来映画社

 弟のタケヒコオーナーが「激推し」して来た作品なのであります。

 100年近い歴史を持つ東映京都撮影所が安田淳一監督の「時代劇愛」に感動し、「自主制作には撮影所を貸さない」という掟を破って全面協力。

 公開に当たっては「池袋シネマ・ロサ」での単館上映が評判を呼び、あれよあれよという間に全国展開。『カメラを止めるな!』の再来と称賛され、遂には日本アカデミー賞作品賞まで掻っさらうという衝撃作。

 しかし、僕の着眼点はソコではない。現代にタイムスリップした主役の高坂新左衛門が「会津藩士」であったこと。

福島県の医学史の研究者であるとともに幕末会津藩に深い愛情を抱く僕としては、決して見過ごすわけにはいかないのです。

 さあて、その衝撃の内容とは?

 

 それがし、「斬られ役」にござる。

 映画の冒頭、藩の密命を受けた会津藩士高坂新左衛門(山口馬木也)は同僚の村田左之助(高寺裕司)と共に、長州藩士山形彦九郎(庄野﨑謙)の暗殺に向かう。

 左之助が先に倒され、高坂と彦九郎が切り合おうとした刹那、落雷に襲われて高坂は気を失ってしまう。

 そして目覚めた場所は、先ほどとは違う江戸の町中・・だが、どうにも様子がおかしい。

  いったいココはどこだ!?

 そんな中、通りがかった心配無用之介(田村ツトム)が、町娘に狼藉を働こうとした浪人三人組を諫めて切り合いとなる。

 高坂は、無用之介の助太刀に入ろうとすると、突然の声がかかる「カ~ット!」。

 え!? 何が起こった?? 

ちょっと、アンタ・・

(C)2024未来映画社

 以下、細かいあらすじは省略し、映画.comの作品紹介から一部引用します。

◆『侍タイムスリッパ―』(2024年)のあらすじと概要 (映画.comによる)

 幕末の京都。会津藩士の高坂新左衛門は家老から長州藩士を討つよう密命を受けるが、標的の男と刃を交えた瞬間、落雷によって気を失ってしまう。目を覚ますと、そこは現代の時代劇撮影所だった。新左衛門は行く先々で騒動を起こしながら、江戸幕府が140年前に滅んだことを知り、がく然とする。一度は死を覚悟する新左衛門だったが、心優しい人たちに助けられ、生きる気力を取り戻していく。やがて彼は磨き上げた剣の腕だけを頼りに撮影所の門を叩き、斬られ役として生きていくことを決意する。

 テレビドラマ「剣客商売」シリーズなど数々の時代劇に出演してきた山口馬木也が主演を務め、冨家ノリマサ、沙倉ゆうのが共演。「ごはん」「拳銃と目玉焼」の安田淳一が監督・脚本を手がけ、自主制作作品でありながら東映京都撮影所の特別協力によって完成させた。

 弟、タケヒコオーナーのおススメがあり、事前情報なしで鑑賞しましたが、序盤のタイムスリップからしばらくの間、展開が冗長で「あ、まるでコレは素人の自主制作映画みたいだ」と感じました。

 実際、後から調べてみると、あまり聞いた事がない「未来映画社」という制作会社、3作目の劇場用・自主制作映画ということで、(素人ではないが)独立プロの『カメラを止めるな!』や『リバー、流れないでよ』の流れをくむ作品であることが分かりました。

 『リバー、流れないでよ』 

 そんな序盤の印象でしたが、最初に驚いたのは、京都・時代劇撮影所で斬られ役のプロ集団「剣心会」の総帥で映画の殺陣師を務める関本(峰蘭太郎)の存在感。

 この関本氏は、撮影所の中で普通の現代人の出で立ちのまま腰に剣を差すという異様な風体で現れます。

Gパン穿いてます(笑)

 だが、その眼光や立ち振る舞いが尋常ではない。そこに立っているだけで「達人」の空気をまとっているのです。

  殺陣師:関本(峰蘭太郎)

 調べてみると、演じた峰蘭太郎氏は16歳で時代劇の名優大川橋蔵に弟子入りし、東映京都撮影所の東映剣会で「切られ役」の名優として名を馳せた人物。

 現在は「東映剣会」のOBとして実際に後進の指導をしています。

侍タイムスリッパー

(C)2024未来映画社

 そして、次々に登場する主役級の剣客たち・・スター俳優錦京太郎(心配無用ノ介/田村ツトム)、高坂と同時に現代にタイムスリップした仇敵彦九郎の変名:風見恭一郎(冨家ノリマサ)。

 彼らの剣を携えた立ち姿の貫禄も素晴らしい。まるで往年の時代劇を見ているよう。

  心配無用ノ介(田村ツトム)

 田村ツトムはフリーで活躍する脇役の名優。

 冨家ノリマサはNHK連続テレビ小説「おしん」でデビューし、以後NHKの大河ドラマ『信長 KING OF ZIPANGU』(1992年)で高山右近を演じたり『功名が辻』(2006年)で明智光春などを演じた、やはり脇役の名優。

  風見恭一郎(冨家ノリマサ)

 こうした芸達者が顔を揃えていることで、映画中盤以降は、グッと作品のクオリティが上がってきます。

 ストーリー上のサプライズは、主演の高坂新左衛門(山口馬木也)をダブル主演に登用した現代の大スター風見恭一郎(冨家ノリマサ)が、実は高坂が暗殺を命じられた長州藩士山形彦九郎、その人であったこと。 (おーまいがー!)

  W主演をオファーする風見恭一郎

 彼は高坂と同時にタイムスリップしたが、帰着時点が30年前であったため、既にキャリアを積んで大スターまで上り詰めていたのでした。

 高坂にとっては、会津・長州という藩同士の敵味方であり同僚の村田左之助(高寺裕司)を切って捨てた憎むべき仇だったため、決して許すことはできない。

 しかし、かの時代は既に遠く過ぎ去っている。(うむむむむ・・)

侍タイムスリッパー

(C)2024未来映画社

 W主演映画の最後の対決シーンで、両者は周囲の反対を押し切り「真剣」で果たし合うことになります。

 このシーンこそ、この映画の白眉。その緊張感は久しく味わったことが無いものでした。その対決の行方や如何に!? 

  真剣での対決シーン

 ・・そのラストシーンは、涙なくしては見ることができないものとなりました。

 遠く過ぎ去った、そして決して帰れぬ時代への郷愁、世の中から「時代劇」が消えていくことへの映画人としての哀惜、そして敵味方でありながら互いの心情を理解しあう親友同士の万感の殺し合い・・。

 様々な思いがよぎり、久しぶりに「古き佳き時代劇」を思い出させてくれた映画でした。

 

/// end of the “cinemaアラカルト462「侍タイムスリッパー」”///

 

(追伸)

岸波

 正直、映画のラストがこんなシリアスな感動ドラマに繋がるとは予想も付きませんでした。

 映画の中には、様々な名シーンが登場します。そんな中の一つ・・仇敵である山形彦九郎の現在の姿風見恭一郎(冨家ノリマサ)からの「W主演の申し出」を、高坂は即・拒否。

「大恩ある徳川家の世を終わらせた貴公たちに対する遺恨、決して忘れた訳ではない!」と。

 去って行こうとする高坂を彦九郎は強い言葉で呼び止める。

「本物の侍よ、俺たちの想いを今、時代劇として残せるのは、おぬししか!」

 時代劇の栄光の時を知りながら、世の中から時代劇が忘れ去られて行くことを誰よりも嘆く風見恭一郎は、本物の武士同士による真剣勝負によって「夢よもう一度」と考えていたのです。

 本来なら「おぬししか!」の後に「おらんのだ」と続くところでしょうが、彼自身、感極まって、そこまでしか言えなかったのです。まさに血を吐くような魂の台詞。

 いいですねぇ、このシーン。この作品に関わった全ての映画人が共に抱く感慨ではないでしょうか。まさに「時代劇愛」!

 タケヒコオーナー、おススメしてくれてありがとう!

 

 では、次回の“cinemaアラカルト2”で・・・See you again !

安田淳一監督の『侍タイムスリッパ―』全国拡大公開記念舞台挨拶

(C)2024未来映画社

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To be continued⇒  “cinemaアラカルト463” coming soon!

 

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