こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。
悪には、最悪の結末を。
Amazon Primeで、2023年に連続公開された『仕掛人・藤枝梅安』の1作目と2作目を視聴しました。
今回の梅安役は豊川悦司、彦次郎が片岡愛之助、そして「おもん」が菅野美穂。
当初から「二部作」として同時撮影されました。
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仕掛人・藤枝梅安
(C)2023「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社 |
原作の池波正太郎の『仕掛人・藤枝梅安』は、1972年(昭和47年)から1990年(平成2年)にわたって「小説現代」に連載された全20篇の連作時代小説。
連載が開始された1972年に、梅安を主人公とするTVドラマ”必殺シリーズ”の第一作『必殺仕掛人』がオンエアされて以降、シリーズ時代劇として、そしてスペシャルドラマとして2023年まで連綿と制作されて来ました。
「必殺シリーズ」
その一方、仕掛人・藤枝梅安のみを主人公とする映画やドラマも繰返し制作され、梅安を田宮二郎が演じた『必殺仕掛人』(1973年)、TV同様緒形拳が演じた『梅安蟻地獄』(1973年)を始め、小林桂樹、渡辺謙、岸谷五朗、萬屋錦之介らの名優によって演じられて来ました。
そして、池波正太郎生誕100年となる2023年を記念して制作されたのが今回の豊川悦司主演・二部作です。
この記事では、主にそのうち「第一作」に焦点を当てて解説したいと思います。

狂った悪。狂った善。
映画の冒頭、しどけない姿で闇の中から起き上がった武家の女房が「もう、これっきりにしとうございます」と。
そこに絵にかいたようなヒヒジジイ(石丸謙二郎)が、身体や顔を撫でまわしながら「そんなことを言いながらお前は・・フッフッフ」と二両小判を乳房に差し入れる。
場面切り変わって、隅田川で夜釣りに興じるヒヒジジイ。突如、川の中から手が伸びて水中に引き込まれる。
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仕掛人・藤枝梅安
(C)2023「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社
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水中で仕掛針を突きさし、一瞬で仕留めたのは、もちろん仕掛人(殺し屋)の藤枝梅安(豊川悦司)。
その帰り道、友人であり仕掛人仲間である彦次郎(片岡愛之助)の家に立ち寄り「仕掛けのあとは、なんだか帰り道が遠くていけねえ」と。
楊枝屋の彦次郎(片岡愛之助)
一晩泊った翌朝、家路に付いた途中の林の中で、若い侍石川友五郎(早乙女太一)が数人の刺客に襲われている現場に遭遇。
辛くも全員返り討ちにしたものの、梅安に目撃されたことで二人に緊張が走る。
若侍石川友五郎(早乙女太一)
そこで梅安は「自分は針医者である藤枝梅安と申すもの・・どうやらもう医者の出る幕はなさそうだ」と告げ、二人は別々の方向へ。
その日の夕刻、仕掛人の「元締め」である羽沢の嘉兵衛(柳葉敏郎)が訪ねて来て、仕掛けの「後金」を渡すと同時に、次の標的である料亭の女将おみの(天海祐希)の仕掛を依頼する。
元締め羽沢の嘉兵衛(柳葉敏郎)
おみのは大店の主人に取り入り、前妻を殺して後釜に収まった女で、旗本の嶋田大学(板尾創路)と組んで数々の悪事を働いているとのこと。
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おみの(天海祐希)と彦次郎(片岡愛之助)
(C)2023「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社
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梅安が下調べを進めていると、おみの(天海祐希)は幼い頃に生き別れた実の妹であることが判明する。
さて、梅安は「一度受けた仕掛は必ず最後までやり通さなくてはならない」という仕掛の掟にしたがい、おみのを手にかけることができるのか? はたまた、序盤に登場した若侍(早乙女太一)と悪旗本・嶋田大学(板尾創路)との関係や如何に!?
と、そんなストーリーですが、映画の冒頭からのカメラワークが素晴らしい。月夜の隅田川の夜釣り舟や朝靄の中で侍騒動に出くわすシーンなど、どれも一幅の名画を見るように神秘的で美しい。
江戸の町から見える富士山を大きく描いたり、人物背景の月を大きく表現したり、心象風景を背景に投影する手法が斬新。
雪の中の彦次郎(片岡愛之助)
また、「仕掛」のシーンに流れる音楽はイスラム音楽を思わせる楽曲で、これも「非日常」に切り替わる瞬間の演出がお見事。
そう言えば第一作『必殺仕事人』でも、梅安(緒形拳)が殺しに向かうシーンにフラメンコが挿入されて驚きましたが、あの驚愕が思い起こされます。
『必殺仕掛人』梅安(緒形拳)
これまで観て来た『必殺仕掛人』や梅安を主人公とした映画などのエピソードでは、梅安自身あるいは彦次郎の出自が説明されることは無かったように思います。
今回の二部作で明らかにされた梅安の過去ですが、父親を亡くし母親の手だけで育てられた梅安と妹は極貧の生活。
幼少時の母と妹(おみの)
ある時、美しい母親(天海祐希:二役)に目を付けた盗賊の親分に家を襲われ、母と妹だけを連れ去って子供の梅安は置き去りに。
連れ去られた母親は盗賊の愛人にされ、やがて病気で死ぬと今度は成長した妹が無理やり愛人にされてしまう。←(ホントに悪い奴!)
梅安は針医者の津山悦堂(小林薫)に拾われ、京都で針修行することに。
修行中の梅安と津山悦堂
その一味の下働きをしていたのが若き日の彦次郎(片岡愛之助)で、ある時、悪逆非道のやり方に激怒した彦次郎は親分を殺害して遁走し、以降はおみの(天海祐希)が「女親分」になっていたのでした。
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仕掛人・藤枝梅安
(C)2023「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社
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一方、刺客に襲われていた若侍(早乙女太一)は、元々悪旗本・嶋田大学(板尾創路)の家来でしたが、主である嶋田は女癖が極めて悪く、部下の女房にまで手を出して自害させてしまう。
主の嶋田に直訴するお千絵
今度は娘のお千絵(井上小百合)を狙ったために、それを救い出して一緒に逃げ、嶋田が放った追手に付け狙われていたのです。
この非常に悪い男、嶋田大学(板尾創路)が現在のおみの(天海祐希)の後ろ盾。おみのはロリコン趣味の嶋田のために、次々と生娘の若女中を雇い入れ、嶋田に「上納」していました。(昔からあったんですね。うむむむむ・・。)
逃げ出した若侍とお千絵
登場人物の複雑な関係性はこれくらいにしますが、とにもかくにも俳優たちの演技が一流。
ここまで名を挙げた俳優以外にも、若侍とお千絵を匿っている寺の住職に若林豪、梅安の家の下女おせきに高畑淳子など。
おせきは、暗く静かなトーンの全体進行の中で笑いを提供する「抜き役」。
梅安家の下女おせき(高畑淳子)
映画の中盤、梅安が「寺に駆けこんた病人がいるらしい」 と言うと「そりゃまた気の早い病人だこと」と返す具合(笑)
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仕掛人・藤枝梅安
(C)2023「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社
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映画のラストでは、生き別れの妹の面影を追いながら、おみの(天海祐希)を強く抱きしめ、そして「仕掛」を果たす梅安が描かれますが、こんなに美しい「殺害」シーンはかつて無かったでしょう。
おみのの歩んだ数奇な人生、まるでその哀しみの人生から解き放つように、梅安の仕掛針が静かに刺さっていきます。
凄い映画だった。134分の長尺を感じさせない緊張感と美しさ、そして哀しみの名画ではないでしょうか。
/// end of the “cinemaアラカルト458「仕掛人・藤枝梅安」”///

(追伸)
岸波
最初のTBS系『必殺仕掛人』(梅安:緒形拳)が1972年、フジテレビの『時代劇スペシャル 仕掛人・藤枝梅安』(梅安:小林桂樹)が1980年から、同じフジの『仕掛人 藤枝梅安』(梅安:渡辺謙)が1990年から、『土曜プレミアム「仕掛人 藤枝梅安」』(梅安:岸谷五朗)が2006年から放映されました。
一方、映画では1973年の『必殺仕掛人』(梅安:田宮二郎)と同年の『必殺仕掛人 梅安蟻地獄』(梅安:緒形拳)が松竹で、1981年の『仕掛人梅安』(梅安:萬屋錦之介)と今回の豊川悦司主演の『仕掛人・藤枝梅安』二部作が2023年に東映で制作されました。
こうして見ると、梅安演者はすべからく名優揃い。
きっとこれからも、繰返し制作されるタイトルと考えて間違いないでしょう。
では、次回の“cinemaアラカルト2”で・・・See you again !
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