こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。
【虚】と【実】が交錯する
前代未聞のエンターテインメント超大作!
先週、封切られた時代劇超大作『八犬伝』をケイ子と観てまいりました。
原作は、1982年に山田風太郎が朝日新聞夕刊に長期連載した同名の小説。
岸波 『南総里見八犬伝』ではありません。
『南総里見八犬伝』の作者・滝沢馬琴と葛飾北斎との交流を描いた「実の世界」と、『南総里見八犬伝』の「虚の世界」を交錯させながら描いたもの。
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八犬伝
(C)2024「八犬伝」FILM PARTNERS. |
僕が注目したのは、「八犬伝パート」で八犬士のリーダー犬塚信乃を演じた渡邊圭祐君。
渡邊圭祐@ブレイブ 群青戦記
彼は、2021年の『ブレイブ 群青戦記』で敵役のヒーロー簗田政綱を演じましたが、その存在感とカリスマ性で、錚々たる主役の面々を喰ってしまったと感じた男。
今作では遂に堂々の主役を張っています。さて、その内容は?
正義で何が悪い
交互に描かれる滝沢馬琴の【実】生活と『南総里見八犬伝』の【虚】のパートですが、八犬伝自体が有名な作品なので、今回は【虚】のストーリーは追いません。
戯作者滝沢馬琴(役所広司)は下駄屋に婿入りした者で、家業には精を出さずひたすら好きな戯作の世界に籠った人物。
世間的には流行作家として持てはやされているが、遅筆のため安定した収入が得られず赤貧の生活を送っている。そんな馬琴を妻のお百(寺島しのぶ)は理解できず夫婦仲は最悪。
病弱な一人息子の宗伯(磯村勇斗)は父の理解者で文章の校正を手伝っているが、お百はその事にも忸怩たる思いを持っている。
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八犬伝
(C)2024「八犬伝」FILM PARTNERS.
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文化十年の晩秋、馬琴は出世作『椿説弓張月』で挿絵を描いて貰った葛飾北斎(内野聖陽)に次回作『南総里見八犬伝』の構想を語る。
岸波 この時、馬琴47歳で北斎は54歳。
北斎はそのドラマチックな展開に心惹かれたものの、現実の世界とあまりにかけ離れた内容に「なぜ【虚】の世界を書くのか?」と問う。
馬琴と北斎
それに対し馬琴は「正直に生きても道理が曲がる世の中、自分は正義が実現される物語で人々に希望を与えたいのだ」と。
北斎は馬琴からの新作の挿絵作成を依頼されるが、『椿説弓張月』の挿絵に関して意見が相違し喧嘩別れとなった過去があり、代わりに自分の娘婿の柳川重信という絵師を推薦し、物語はスタートする。
ある日、馬琴と北斎は鶴屋南北(立川談春)が脚本を書いた狂言『東海道四谷怪談』を観に行き、そのおどろおどろしい表現に驚愕。
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八犬伝
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しかし、第一幕で出て来る忠臣蔵のシーンで四十七士の仇討ちの意義がぞんざいに扱われている事に馬琴は激怒。
『東海道四谷怪談』
馬琴は「正義」を軽んじて書いた南北に猛抗議するが、南北(立川談春)は「忠臣蔵の方が人々の理想を形にした【虚】であり、後段のお岩の怨念の方こそ【実】の世界だ」と強弁。
馬琴はその「正義が作り物・絵空事」であるという一面の真実に気づかされ、ショックを受ける。
そして、自分が描こうとしている【虚構】の世界が何の意味も持たないのではないかと懊悩し筆を折ってしまう。
奈落から顔を出す鶴屋南北
北斎に諭され、連載に戻る事になった馬琴を更なる不幸が襲う。一人息子の宗伯(磯村勇斗)が病死、妻のお百(寺島しのぶ)も後を追うように死去。
それでも最後の力を振り絞って『南総里見八犬伝』を完結させようと奮起するが、クライマックス・シーンを前に両目とも失明してしまう。(あらららら・・)
晩年、失明した馬琴
失明してなお筆を執ろうとする馬琴だったが、もはやそれは原稿の体を為さないものだった。
さて、馬琴はこのまま断筆してしまうのか? はたまた、遂に玉梓の怨霊と対峙した犬塚信乃(渡邊圭祐)ら八犬士の運命や如何に!?
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八犬伝
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そんな内容ですが、この映画を観て初めて滝沢馬琴と葛飾北斎の関係性や途中から登場する渡辺崋山(息子宗伯の同僚/大貫勇輔)との関係を知って驚きました。
そしてまた、流行作家でありながら赤貧の生活を送った馬琴の生涯や『南総里見八犬伝』が28年の長きにわたって書き継がれた超大作であったことも。
馬琴の息子宗伯
特に馬琴(役所広司)が息子宗伯を失って雨の中で慟哭するシーンには涙を禁じ得ませんでした。子供を亡くすのって本当に辛い。
昔、職場の同僚が息子さんを水難事故で亡くした時の憔悴を目の当たりにして、かける言葉さえ浮かんでこなかった事が思い出されます。
もう一つ、山田風太郎がこうしたシリアス小説を書いていたことにも驚愕。
風太郎といえば『魔界転生』などの伝奇小説をよく読んでいましたが、こんな社会派作品も書いているとは!
映画『魔界転生』(1981年)
そして八犬伝パートの主演、渡邊圭祐君も期待通りの演技。
彼は元々仙台出身のモデルでしたが、2018年の仮面ライダーウォズ(「仮面ライダージオウ」の登場人物)に抜擢され、半年前に僕がハマったTVドラマ『アンチヒーロー』にも出演していました。
渡邊圭祐@アンチヒーロー
彼をはじめとする八犬士それぞれに、犬坂毛野役の板垣李光人など売り出し中の若手男優が勢揃いし見応えがあります。
そんな中、八犬伝パートの冒頭で登場した玉梓役の栗山千明の熱演が凄かった。
玉梓は里見義実との争乱で敗戦した山下定包の寵姫で、定包とともに斬首されますが、引き出された時点では鬼女でも何でもなくただの力無い姫に過ぎません。
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義実はいったん許しますが、家中の諫言で前言を翻し再び斬首を命じます。
この時、一度は命を救われる沙汰を受けながら、深く絶望した玉梓の表情がみるみる鬼のようになり「私の呪いで、子・孫の代まで畜生道におとして、煩悩の犬と変えてやる!」と呪うシーンは凄絶。
ここだけ見たら、ぜったい里見義実の方が「悪」、玉梓が犠牲者に見えてしまう(笑)
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八犬伝
(C)2024「八犬伝」FILM PARTNERS.
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映画の終盤【実】パートで、目の見えない馬琴に代わって息子宗伯の嫁お路(黒木華)が口述筆記を申し出ます。
「イロハ」しか書けなかった彼女は、馬琴の片目の視力が落ちたことに気付いた時、八犬伝の過去作を読み直して「漢字」の勉強を進めていたのです。
口述筆記するお路(黒木華)
最初は口述が遅々として進まず、匙を投げようとする馬琴でしたが、彼女は献身的に努力を重ね、最終稿を書く頃には馬琴本人の文字と見分けがつかないほど上達したとのこと。
これは実話であり、宗伯に代わって舅を支えようとしたお路の努力には凄まじいものがあったと思います。(泣けます。うっ、うっ・・)
そして、完結編を世に送り出した後、馬琴は命を閉じるのですが、その朝「奇跡」が起こります。
この演出(原作改変)には賛否両論あるでしょうが、僕は断固支持します。
自分の末後も、かくありたいと願うので。
/// end of the “cinemaアラカルト441「八犬伝」”///
(追伸)
岸波
【虚構の世界】を描くことに疑問を持ち自信を失う馬琴を支えたのが葛飾北斎であることは勿論ですが、最後のひと押し・・ふっ切らせる事が出来たのは、息子宗伯の同僚渡辺崋山です。
彼は、自分自身が子供の頃から『南総里見八犬伝』を読んで憧れていたと言い、「たとえ【虚】の世界であっても、人々が感銘を受けて心の支えとするなら、それは確かに【実】の世界を変えたのではないでしょうか」と体験を語る。
いいセリフだな・・と思う。
世の中、ノンフィクションだけではつまらない。夢や勇気や希望を描く作品がなかったら、何て味気ない人生だろう。
だから・・気付けば人生の傍らには必ず映画があった僕です(笑)
では、次回の“cinemaアラカルト2”で・・・See you again !
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八犬伝
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