こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。
君のために、生きたい
あなたと一緒に、生きたい
昨年暮れに劇場公開された『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』をAmaonプライムで視聴しました。
毎年巡って来る「終戦記念日」の関係で、観る気になった?
・・いえいえ、そうではありません。
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あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。
(C)2023「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」製作委員会 |
実は、パリオリンピックの女子卓球で利き腕を負傷しながら銅メダルを獲得した早田ひなさんが「知覧の特攻資料館に行きたい」と言って大炎上した事件がありました。
しかし、その件についてある人が「彼女はきっと『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』を観たから、そう言ったのだと思う」と発言したのを聞き、観てみようと思ったのです。
さて、その『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』とは、どんな映画だったのか?
目が覚めると、そこは1945年の日本。
初めて愛した人は、特攻隊員でした――
時を超えた愛に、あなたもきっと涙する
映画の冒頭は、真っ暗な画面でけたたましい空襲警報を背景に主人公のモノローグが流れる「悪夢のような世界で、私は初めての恋をした」――。
そして場面が転換。女子高校生の加納百合(福原遥)が進路面談を受けている。高校受験を勧める教師に対し、頑なに就職を希望するがその理由は言わない。
面談中の百合(福原遥)
彼女は母子家庭で母親(中嶋朋子)はスーパーのパートで魚捌きをやっていたが、仕事先から駆け付けた母が「魚臭くてすみません」と謝ると、急に「気分悪いんで帰ります」と。
自分の境遇に納得がいかず、学校や親、周囲に対して苛立ちを隠せない年頃なのだ。
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あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。
(C)2023「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」製作委員会
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百合は些細な事で母親と口論になり家を飛び出して付近の防空壕跡で一夜を明かすが、目覚めるとスマホも効かず周囲の景色が一変していることに気付く。
通りがかった佐久間彰(水上恒司)という兵隊が空腹で動けなくなっている百合を発見し、近所の「鶴屋食堂」で食事を摂らせる。
その時ふと見た新聞の日付が1945年である事に気づき、自分がタイムスリップしたことを悟る。
原作者:汐見夏衛
そう、これはタイムスリップ恋愛小説なのだ。原作者の汐見夏衛はアラフォーの元高校国語教師。
ネットに投稿した「ケータイ小説」が好評となり2016年に書籍化されたのがこの『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』。
原作はライトノベルで、現代の女子中学生が太平洋戦争末期の日本にタイムスリップして当時の青年に恋をするが、彼は数日後に出征する特攻隊員だった・・という物語。
百合、女将ツル、魚屋の娘チヨ
なお、映画版では恋愛ストーリーにリアリティを持たせるため、主人公の年代が女子高生に改変されている。
主人公百合は、鶴屋食堂の女将ツル(松坂慶子)の好意で食堂に住み込みすることになる。
また、気遣う彰(水上恒司)に一面の花が咲く丘に連れて行かれたり、一緒に食堂を手伝う魚屋の娘チヨに元気づけられながら、当時の人々と交流して行くことになる。
一面の百合が咲く丘で
戦時期を題材にした恋愛物語では、時代の暗さが前面に押し出されることが多いが、この作品では現代の感性をそのまま持った女子高生が、戦時期の社会に驚き戸惑いながら、次第に1945年の現実を受け入れて行くことになる。
そんなある日、ツルのお遣いで出かけた先で空襲に遭遇し、火の海の中で崩れてきた瓦礫に足を挟まれて動けなくなり、駆け付けた彰の奮闘で九死に一生を得る。
救出された百合
さて、二人の恋の行方や如何に?
はたまた百合は現代に戻ることが叶うのか?
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あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。
(C)2023「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」製作委員会
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百合が”戦時期の現実”を知るのは、食堂の女将ツルがお金を取らないで彰たち5人の兵隊に食事を振舞うワケを質す場面だ。
ツルは「あの人たちは、早ければあと三日くらいでお国のために出征する特攻隊員だからだ」と言い、百合は衝撃を受ける。
どうせ戦争に負けてしまうのだから無駄死になる・・と思いながら、自分にはどうすることもできない不条理に苛まれるのだ。
そう・・この「不条理」こそが、この物語のテーマなのだろう。
出征の前夜
現代の百合と母親が口論するシーンでも、母親(中嶋朋子)の切ない表情が胸に迫る。
夫を亡くし、”魚臭い”と揶揄されながら懸命に娘を育てて来たが、その娘に理解されない。・・いや、そうではない。
母と娘
(原作では)百合は母親がボロボロの下着を着ている事を知り、大切な母に苦労させていることで自己嫌悪に陥っているが、どうしても素直な気持ちになれないのだ。
どうしようもない不条理な現実・・それを受け入れていく、そして乗り越えて行こうとする成長物語なのだろう。
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あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。
(C)2023「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」製作委員会
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初見で、1945年の食堂の女将ツルが松坂慶子である事に気付かなかった。彼女をスクリーンで見たのは何十年ぶりになるだろう。
薬師丸ひろ子や風吹ジュンなど、歳を重ねて味わい深い演技をする女優も多いが彼女も間違いなくその一人だ。
自然と優しい人柄が滲み出る・・そんな演技だ。
女将ツル(松坂慶子)
特攻出征の当日、彰は身近な人達にそれぞれ一通の手紙を残して旅立つ。百合は自分宛てのものもある事に気付くが、それを開く事なく出陣の現場に駆け付ける。
離陸する彰を見て号泣する百合、その一方でチヨ(チヨもまた出征兵士の一人と恋仲)が涙を見せず気丈に笑顔で送り出す対比が切ない。
それもまた「戦時下の現実」だったのだろう。
笑顔を作って送り出すチヨ
彰は機上から、胸に差してあった一輪の百合の花を百合に投げ落とす。そう・・それは百合と二人で行った一面の花の丘に咲いていた花だ。
それを受け取り、倒れ込んで気を失ってしまう百合。そこで再びタイムスリップが起こる――。
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あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。
(C)2023「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」製作委員会
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現代に戻り、人が変わったように素直になった百合。高校の修学旅行の行き先は沖縄で、知覧の戦争資料館を訪れることになる。
そこにあった特攻隊員彰の遺影。公開されていた遺書の一つに、あの日読むことが出来なかった自分宛ての書簡を見つける。
そして、そこには・・
うん・・早田ひなさんは、きっとこの映画を観たに違いない。そう感じました。
なお、エンディングに流れる福山雅治の「想望」は、主人公たちの心情をしっかり描写していて胸を打ちます。
/// end of the “cinemaアラカルト431「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」”///
(追伸)
岸波
この映画で一番泣けたのは、出征兵士の仲間の一人、最年少の板倉が故郷に残してきた婚約者が空襲で家族を失くし、自分も歩けなくなったことに悲観して自殺しようとした手紙を受け取る。
板倉は彰に「自分は彼女を残しては死ねない、まだ16ですよ」と号泣するシーン。
結局、出征の前夜、四人は板倉の脱走を黙認することになり「お前は、俺たちの分まで生きるんだ!」と・・。
知覧資料館にも、板倉は病気で出征を断念したことになって資料展示されており、その後教師となって人生を全うしたとされています。
現代に戻って素直になった百合もまた「お母さん、わたし教師になりたい」と打ち明けます。
このあたり、原作者で高校教師であった汐見夏衛の想いや願いが表れていると感じました。ベタなストーリーだけどそこがいい。ああ・・とても泣ける映画でした。
では、次回の“cinemaアラカルト2”で・・・See you again !
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あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。
(C)2023「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」製作委員会
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