こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。
冒険の終りから始まる物語。
今週は私事に忙殺されて『ゴジラ-1.0』を観に行く時間がなかったので、最近ハマって入るアニメ『葬送のフリーレン』について感じたところを書こうと思います。
原作は少年サンデー2020年22・23合併号から連載されている同名の漫画で、原作が山田鐘人、作画がアベツカサ。
第14回マンガ大賞や第25回手塚治虫文化賞新生賞を受賞し、2023年10月現在、単行本売上げが1,100万部を突破している大ヒット作です。
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葬送のフリーレン
(C)山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」制作員会
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世の中の漫画は、いわゆる”異世界もの”が大流行しているのですが、この物語は勇者一行の大魔王討伐直後から始まる斬新な設定。
哀愁を帯びた独特の世界観や心に刺さる言葉、そしてユーモア溢れる展開で見る者の心を惹き付けて放しません。
主人公であるエルフのフリーレンは、寿命が数千年と極めて長寿なため、仲間たちの最後を看取って一人残されることに。
さて、フリーレンの新たなる旅は何を目指すのか? 早速その内容です。
エルフの魔法使いは人の心を知る旅へ。
アニメ第一回の冒頭は、彼らが住む異世界の地図が示され、そこに伝説の魔法使いフランメの言葉が重なる。
「大陸の遥か北の果て。この世界の人々が天国と呼ぶ場所”魂の眠る地(オレオール)”にたどり着いた。そこは多くの魂が集まる場所で、私はかつての戦友達と会話した。」
そして、勇者ヒンメル・戦士アイゼン・僧侶ハイター・魔法使いフリーレンのパーティが大魔王を討伐して王都へ凱旋するシーンへと。
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葬送のフリーレン
(C)山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」制作員会
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王都で大歓迎を受けたその夜、四人は城の屋上で星空を眺める。
「終わってしまったな・・」とつぶやく戦士アイゼンに「そうだね。僕たちの冒険はこれで終りだ」と勇者ヒンメル。
アニメの声優が素晴らしく、たったこれだけの台詞で”祭りの後の淋しさ”や、仲間たちとの別離に思いを馳せる気持ちが胸に迫る。
星空を見上げる四人
星空を見上げた仲間たちにフリーレンは「私はこれから旅に出る。50年後に再会したら、もっと美しい星空が見える場所にみんなを連れて行く」と・・。
そして50年後、数千年の寿命があるエルフにとっては”一瞬”の時間だったが、人間である仲間たちは年老いて、すっかり姿が変わっていた。
50年後の勇者ヒンメル
変わり果てた仲間の姿に衝撃を受けながらも、フリーレンは”約束の場所”にみんなを連れて行くが、その数日後、勇者ヒンメルは帰らぬ人となる。
初めて流れる大粒の涙に狼狽するフリーレン。そして後悔する。「わたしは人間の事を理解しようとはしていなかった・・。
もっと人を知りたいという想いを持った彼女は、かつて仲間たちと辿った道をもう一度、独りで旅しようと決意する。
そう・・”思い出に出会う旅”へ。
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葬送のフリーレン
(C)山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」制作員会
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新たなる旅立ちを告げに僧侶ハイターの元を訪れたフリーレンは、ハイターから戦災孤児のフェルンを連れて行って欲しいと依頼を受ける。
フェルンを拾って育ててきた彼だが、自分の寿命も長くないことを自覚したのだ。この子には素晴らしい魔法の才能があるはずだと。
戦災孤児のフェルン
しかし、そんなハイターの事情を察せないフリーレンは直ちに断る・・「足手まといだ。人間に魔法を教えても、どうせすぐに死んでしまうでしょう?」と。
一計を案じたハイターは「ならば、自分が持っている秘蔵の魔法書の解読をお願いしたい。それができる間だけ、フェルンの修行を見てやって欲しい」と。
そして数年間、幼かったフェルンは成長し一人前の魔法が使えるまでになる。一方、フリーレンは解読し終えた魔法所が「偽書」であったことに気づく。
「フェルンはもう足手まといではありませんね、フリーレン?」
「計ったな、ハイター」(笑)
「解読の手間賃は机の引き出しに。今夜にはここを発ってください」
成長したフェルン
寝たきりになったハイターは・・「私はもうあの子に、誰かを失うようなつらい経験はさせたくないのです」と。
「またカッコつけるのかハイター。フェルンはとっくに別れの準備はできている。お前が死ぬまでにやるべきことは、なるべくたくさんの思い出を作ってやることだ」・・フリーレンは、そう言って嗚咽する。
台所で夕餉の支度をしながら聞いていたフェルンも、そっと涙をぬぐう。
ああ・・グッときました。こんな”異世界物語”、初めて見ました。
結局、フリーレンとフェルンは亡くなったハイターの墓参りを済ませて旅立ち、やがて戦士アイゼンから推薦された少年シュタルクも仲間にして三人のパーティとなる。
戦士シュタルクが加わる
新たな魔導書を手に入れながら”魂の眠る地”オレオールを目指すフリーレンたち。そして、一行を待ち受ける運命と蘇えった魔物たちとの凄絶な闘いの行方は?
はたまたフリーレンは、人を理解し”魂と出会う”ことができるのか?
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葬送のフリーレン
(C)山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」制作員会
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この作品に何故、惹かれたのか考えてみました。
エルフという運命ゆえ、多くの死を見送ってきたフリーレン。そのかけがえのない思い出を見つめ直す旅。
それは、老齢に入って人生を見つめ直している僕らの世代にとっては”自分自身の物語”に外なりません。
病床のハイター
加えて、背景の隅々まで丁寧に描かれた描写と登場人物たちの優しい絵柄、声優たちの感情を込めたアテレコ・・見事というしかありません。
過去には「郷愁」をテーマにした忘れられない作品が二つありました。
その一つは、ジョン・ウィンダムの短編集『時間の種』にあった『地球喪失の後』で、地球が原因不明の爆発で消失し、火星や金星、木星の惑星などに移住した人類だけが生き残りますが、故郷を喪失した人々は希望を失い、滅びを待つ物語。
『火の鳥・望郷編』
もう一つは、手塚治虫の『火の鳥・望郷編』で、宇宙船の事故で辺境の惑星に不時着した夫婦が息子を生み、夫が亡くなった後、いつか子孫が地球に帰れる日を待ち望みながら、息子と交わって子孫を残し続ける物語。
しかし子供は男児しか生まれず、冷凍睡眠を繰り返しながら、孫やひ孫と子孫を残し続ける・・これも切ない話だった。
この二つの物語は、少年時代にわくわくしながら読んだものでしたが、『葬送のフリーレン』は老齢にある今でこそ、心に刺さる作品だと思います。
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葬送のフリーレン
(C)山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」制作員会
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また、『葬送のフリーレン』は掲載誌「少年サンデー」にとっても起死回生となる作品でした。
2015年当時「少年サンデー」は売上部数の減少から廃刊の危機にあり、そこで新編集長に就任した市原武法氏は、誌上で新人作家の育成を優先する宣言を行いネットで話題になりました。
市原編集長
これは、一部のベテラン流行作家に頼る連載編成が当たり前になっていた漫画界にあって驚きを持って受け止められましたが、「新人が居なければ中堅・ベテランも居ない」が自論の市原編集長は、辞表を机の中に潜ませながら不退転の決意で新人育成に務めたそうです。
そんな中、育成してきた新人原作者・作画家によって連載された『葬送のフリーレン』が、2021年3月の「第14回マンガ大賞」を受賞。同年の「手塚治虫文化賞」の最終選考まで残り「新生賞」を受賞します。
第14回マンガ大賞
宣言から6年を経て、ようやく念願が叶ったのです。彼は言います。
「新人作家の育成は平均10年はかかる『農業』です。新人作家育成は、洗面器に顔をつける我慢比べみたいな仕事です。苦しさで顔を上げたヤツから負けていくのです」と。
そして今年9月からTVアニメの放映が開始され、僕がAmazon Primeで観たというワケです。
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葬送のフリーレン
(C)山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」制作員会
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『葬送のフリーレン』の登場人物たちは、完全無欠のヒーローではありません。
勇者ヒンメルはナルシストで、自分の銅像が建立されるとなった時、何時間も見栄えのいいポーズを考え込むナルシスト。ハイターは酒好きの生臭坊主。
若き戦士シュタルクは、村を襲った龍に一歩も引かず撃退したと讃えられていましたが、実は腰が抜けて動けなかっただけ。
ビビるシュタルク
フェルンとシュタルクは口喧嘩が絶えないし、肝心のフリーレンは魔法オタクで「服が透けて見える魔法」とかヘンな魔導書ばかり集めている(笑)
つまり等身大の人間(フリーレンはエルフだが)として、非常に親しみやすいキャラなのです。
少年・少女たちに取っては成長物語として、そして高齢者にとっては人生を回顧する物語として、心に残る作品ではないでしょうか。
/// end of the “cinemaアラカルト388「葬送のフリーレン」”///
(追伸)
岸波
アニメが放映され、当たり前のことですが賛否両論が出ているようです。
否定的な意見は「展開が遅い。バトルが少ない。ストーリーが薄っぺらい」、肯定的な意見は「バランスが良い。心が救われる物語。楽曲がよい。」でした。
たしかに、ロールプレイングゲームのように魔物とのバトルだけが目的の人(子供?)にとっては、畑違いの物語と感じるでしょう。
楽曲がよいとする中には、こんな意見も。
「フリーレンに感動してどこか心が救われたところがあるので、主題歌の音源を買ってしまった。恥ずかしいくらいアニメに対して真っ直ぐな歌詞のアニメソング。最近はある意味70年代までのアニメソングを踏襲しているようなムーヴメント感じる。」
テーマを歌っているのは、あのYOASOBI。(オープニングテーマ『勇者』など。)
さすがにAyase氏は、作品のテーマをよく理解していて、ピッタリの曲を作ってくれました。
僕も繰り返し聴いていますが、この歌詞、本当に切ない。特に「時の流れは無常に人を忘れさせる そこに生きた軌跡も錆びついていく」から後の部分は胸に刺さります。
※「勇者」Youtube>>
物語はまだ中盤で、この先どういう展開になるか予想できませんが、結末よりもその「道筋」こそが重要だろうと思います。
何せこれは、フリーレンたち三人の「成長の物語」なのですから。
では、次回の“cinemaアラカルト2”で・・・See you again !
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葬送のフリーレン
(C)山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」制作員会
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