こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。
二人だから、戦える。
またまたAmazon Primeで、池井戸潤原作『アキラとあきら』を視聴しました。
彼の原作本は殆んど読破しているはずでしたが、この作品は読んでいませんでした。ということで、予備知識全く無しでの鑑賞となりました。
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アキラとあきら
(C)2022「アキラとあきら」製作委員会
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元銀行員の経歴を持つ池井戸潤は、銀行の内情や融資に絡んだ問題をモチーフとして数々の「池井戸ワールド」本を上梓して来ましたが、『アキラとあきら』は2006年から2009年まで「問題小説」に連載された後、2017年に徳間文庫で刊行されるまで書籍化されていません。
池井戸潤は2011年、『下町ロケット』で第145回直木賞受賞し脚光を浴びましたが、本格的なブレイクは2013年、TBS「日曜劇場」に『半沢直樹』(堺雅人主演)が登場してからでしょう。
『アキラとあきら』の書籍化が遅れたのは、TVドラマ化(2017年)に当たって大幅に改稿されたためという指摘もありますが、改稿されたこと自体、当初のストーリー展開に作者が納得していなかった可能性もあるでしょう。
ともあれ、竹内涼真と横浜流星のW主演で昨年公開された映画版『アキラとあきら』はどのような作品であったのか、さっそく内容です。
破綻寸前の企業の未来と4800人の人生を懸けた大逆転劇!
映画の冒頭、主人公の山崎瑛(以下「アキラ」/竹内涼真)が海辺の廃工場跡を訪れる。
そこにやって来た子供たちの姿を目にすると、彼の記憶に子供の頃の記憶が蘇って来る。この廃工場は、彼の父が経営し倒産させたものだったのだ。
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アキラとあきら
(C)2022「アキラとあきら」製作委員会
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回想シーンとなり、彼が小さな子供時代。まるで夜逃げでもするかのように家族は身の周りのものだけ集め、豪雨の中、慌ただしくどこかへ引っ越す場面。
その工場に運送会社がやって来て、工場の中の目ぼしい工作機械や製品をトラックに積み込む。「持って行かないでくれ!」と土下座して懇願する父親の姿。
「工場、どうなっちゃうの、もう終りなの?」というアキラの問いに、工員の保原(塚地武雅)は答える。
「人生は色々ある。でも教会の神父さんが言ってた。乗り越えられない宿命なんか無いと。」
もう終りなの?
その時、工場の在庫を積み込んだトラックが通りがかり、小さなベアリングが一つ足元に転がって来る。
それを拾って、父の自慢の製品だったことを思い出したアキラは猛然とトラックを追いかける・・「返せ!返せ!!」
アキラは、そこへ通りがかった黒塗りのセダンにあわや轢かれそうになり、握っていたベアリングを失くしてしまう。
車から降りて来たのは同じ年頃の少年階堂彬(以下「あきら」)。足元に転がっていたベアリングを拾い上げると少年アキラに歩み寄る。
あきらとアキラ
「これ、大事なものなの?」・・あきらは持っていたハンカチで丁寧に泥を拭うとアキラに差し出す。
これが、アキラとあきらの最初の邂逅であり、二人はやがて同じ産業中央銀行に同期入社し、数奇な運命を辿ることになる。
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アキラとあきら
(C)2022「アキラとあきら」製作委員会
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二人の主人公という事で、どのような描かれ方をするのかと思っていましたが、二人は生い立ちも性格も真逆。
倒産した町工場の息子で苦学しながら東大へ進み入行したアキラ(竹内涼真)に対し、あきら(横浜流星)は大きな船会社「東海郵船」の御曹司で当たり前のように東大を卒業。
二人はトップクラスの成績で入行したライバル関係で、共に将来を嘱望されている。
御曹司あきら(横浜流星)
「お前は育ちがいいだろ?」・・何度か出て来るこの台詞は、御曹司のあきらから苦学のアキラに対して言われる言葉。(逆なんだ!?)
アキラは「人を救うことがバンカ―の役割」という信念を持って人間の誠意を疑わないタイプであるのに対し、あきらは冷徹に出世を目指すタイプなので、人の好さを揶揄しているのか??
こんな登場の仕方なので、てっきり善人アキラが情け無用の鉄面皮あきらの妨害を受けながら、最後には土下座させる痛快ストーリーなのか・・と思ったのですが、さに非ず。
苦労人アキラ(竹内涼真)
実は、あきら(横浜流星)の一族は”華麗なる一族”にありがちな遺産相続のトラブルから三兄弟が険悪な状況で、親族関係に嫌気がさしたあきらは「東海郵船」の総帥であった父の意に反し、一族から離れてバンカ―を目指したのだ。
そして数年後、上野支店で担当した会社の倒産に際し、娘の難病の手術費用まで回収しようとした銀行の方針に逆らって、別口座への手術資金移動を示唆してアキラ(竹内涼真)は地方に左遷。
一方のあきら(横浜流星)は、順調に本社で出世の階段を駆け上っていくが、そこで大事件が発生。
会社を継いだ弟、階堂龍馬
亡くなった父の跡を継いで「東海郵船」の社長となった次男の階堂龍馬(髙橋海人)が無理なリゾート投資で大穴を開けた二人の叔父、階堂晋(ユースケ・サンタマリア)と階堂崇(児嶋一哉)に騙され、140億円もの連帯保証を受けてしまったのだ。
悪辣な二人の叔父
支店での地道な営業の成功が認められ、本社に復帰して社運を賭けたプロジェクトの一員として抜擢されたアキラ(竹内涼真)は、敢えて抜擢を断り「東海郵船」の担当を志願。
また、あきら(横浜流星)は、弟を救うため銀行に辞表を出して「東海郵船」の指揮を取ることに。
さて、二人の「あきら」は、この難局を乗り切ることができるのか? また、倒産必至の「東海グループ」4800人の社員の運命や如何に!?
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アキラとあきら
(C)2022「アキラとあきら」製作委員会
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~という進行なのですが、そこまで観た僕には大きな疑問が。
実はナイショですが、視聴する前に、この映画の「チラシ」をチラ見してしまったのです。←(ナイショじゃないじゃん!)
そこには、こんなキャッチコピーが・・
新たな「池井戸ワールド」の誕生!
最後に土下座するのは誰だ!?
ですよね~ やはり最後に、悪の親玉を土下座させてこそ「池井戸ワールド」。
しかあしっ!! それらしい「悪党」が登場しない。
←こういう人(笑)
最初に思った性格悪い「あきら」の方は、救われる側に廻ってしまったし、そもそも最初の登場シーンで、ベアリングをハンカチで拭って手渡していたことで「根はいいヤツ」がバレバレ。
また、弟を騙くらかす二人の叔父ユースケ・サンタマリアと児嶋一哉(「コジマだよっ!」の人)は、悪いのは悪いけれど自分の保身(しかも焼け石に水)しか考えていない小悪党だし。
もしや、行内コンプライアンスに反して機密を漏洩したアキラ(竹内涼真)を左遷した上司の不動(江口洋介)が実は、実家の工場を倒産に追い込んでいた張本人かとも考えたが、それじゃ「半沢直樹」と同じだし。うむむむむ・・。
鬼の上司不動(江口洋介)
結論から言いましょう。この映画に「巨悪」は登場しません。(ええ~)
でも、最後に土下座する人物は出て来ます。それはあきら。(ええええ~!)
ただしその土下座は、二人の叔父に対して「もう一度、親族みんなで力を合わせて難局を乗り切ろう」という切な願いから出た行動。詫びたのではなく、お願いでした。
するとですね、この「チラシ」のキャッチコピー、酷いと思いませんか。ミスリードもいいところ。
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←思わせぶりなキャッチコピー |
運営としては、花咲舞や半沢直樹パターンを匂わせないと客が呼べないと考えたのでしょうか?
たしかに僕は、そのカタルシスを期待して観ましたが。
この『アキラとあきら』、映画としては地味です。巨悪も居ないから「倍返し!」も出ないし。
そして終盤近くまで難題がどんどん積み重なる一方なので映画のトーンが暗い。それを笑い飛ばすムードメーカーが居ないのだ。
行き詰るアキラとあきら
また、本文の最初に掲げたコピーの方の「大逆転」についてはどうか?
たしかに、破綻必至の巨額の借金から会社損続まで持って行ったのだから「逆転」には違いない。
ただ、そこに至る経緯は、アキラが三社再統合や迂回融資、東海商事の売却など様々なアイディアを出しながら、「回収の確実性」を何より重視する上司の不動(江口洋介)の分厚い壁をようやく突破する話であり、極悪人の犯罪を暴くとか、そういった「一発逆転」ではない。
鉄壁の上司不動(江口洋介)
また、最終的にも170億の借金を90億まで減らして「このくらいの額なら会社を存続できる」と言い放つ(チャラにはならない)けれど、庶民の感覚からすると、その判断が妥当かどうかも理解の外だ。
要するに「倍返し」のようにスッキリした結末にはならないのだ。
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アキラとあきら
(C)2022「アキラとあきら」製作委員会
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このように『アキラとあきら』は、ダメダメなキャッチコピーがミスリードを誘う典型的な「売り方の失敗」をしていると感じます。
だが「池井戸潤」をいったん頭から外して淡々と観れば、最後はハッピーエンドでもあるし良い映画だと思うのです。派手ではないけれど。
いろいろ褒める点もあるのです。
このストーリーに合せるために、何度も何度も歌詞を書き直したというback numberの主題歌「ベルベットの詩」の素晴らしさとか・・
back number
演技に一皮むけた塚地武雅の好演とか、自分がハメたあきら(横浜流星)に土下座された時に「やめろ!もうやめてくれ」と、初めて心情を吐露するユースケ・サンタマリアの感動的な演技とか・・。
でも、そうした美点を一発で台無しにしたのが、あざといキャッチコピーだったと思う。
誰も指摘しなかったのだろうか?
実に惜しい映画でした。
/// end of the “cinemaアラカルト382「アキラとあきら」”///
(追伸)
岸波
一番良かったのは、映画のラストで「アキラの育った町が見たい」というあきらを連れて例の廃工場がある海辺の町へ行ったシーン。
小高い丘の上から町と海を二人が見下ろした時に、ナレーションが流れる。
「僕らは、この一生で無数の別れや絶望、そして優しさと出会う。だけどもし、もしこの世界に宿命と言うものがあるのなら・・」
その時、あきらから「山崎」と呼びかけられた声に、アキラはうっかり手に握っていた父の形見であるベアリングのペンダントを落としてしまう。
それを拾い上げたあきらは、目の前のあきらが遠い日のあの少年だと気付きハッとする。
あの日の出来事
あきらはポケットからハンカチを取り出し、そっと拭くと、あの日と同じように「大事なものなんだろう?」と言って返すのです。
「ああ」・・もちろんアキラも気づきます。
いいでしょう、このシーン♪
そして、ラスト・ナレーション。「今なら分かる。きっと全ては偶然じゃなかった。」 さいこー!!!
では、次回の“cinemaアラカルト2”で・・・See you again !
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