こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。
フィリップ・K・ディックの
エレクトリック・ドリームズ
今週ご紹介したいのは、Amazon Primeで絶賛配信中のフィリップ・K・ディック原作『ELECTRIC DREAMS』。
これは、ソニー・ピクチャーズ テレビジョンが制作し、ディック原作の短編SFを現代風にアレンジし、2017年9月からイギリスchannel4で放送された一話完結のオムニバスTVドラマシリーズ。
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ELECTRIC DREAMS
(C)amazon original Prime Video
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フィリップ・K・ディック(1928年ー1982年)と言えばアメリカのSF作家で、かの『ブレードランナー』の原作「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」やこのcinemaアラカルトでもご紹介した「高い城の男」などの作品で有名。
さらにトム・クルーズ主演の『マイノリティ・リポート』やシュワちゃん主演の『トータル・リコール』もディックの原作によるもの。
さて、そんなディックの短編から傑作10本をチョイスして制作されたドラマとはいかなるものか?
さっそく内容です。
「私は、私が愛する人々を、現実の世界ではなく、私の心が紡いだ虚構の世界に置いて描きたい。」…フィリップ・K・ディック
僕はAmazon Primeで視聴しましたが、全10話の内容は以下の通り。
- 真生活(『展示品』に基づく)
- 自動工場
- 人間らしさ
- クレイジー・ダイアモンド(『CM地獄』に基づく)
- フード・メイカー
- 安全第一(『フォスター、お前はもう死んでるぞ』に基づく)
- 父さんに似たもの
- ありえざる星
- 地図にない街
- よそ者を殺せ (『吊されたよそ者』に基づく)
フィリップ・K・ディック
なお、これらはイギリスのchannel4で放送されたものとは10篇の順番が異なっており、TVシリーズの放映順では5→8→9→4→1→3→10→2→6→7となっている。
ここでは、僕が一番良いと感じた「1真生活」について、粗筋を紹介します。
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「真生活』/ELECTRIC DREAMS
(C)amazon original Prime Video
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◆真生活(『展示品』に基づく)
未来の地球社会で女性刑事を務める主人公サラ(アンナ・パキン)は極悪非道な殺人鬼たちを追いつめているが、仕事に疲れて意気が下がり気味。
女性刑事サラ
そんなサラを見かねたレズ・パートナーのケイティ(レイチェル・レフィブレ)は、仮想現実を体験できるヘッドセット機器を用いて「休暇」を取ることを勧める。
パートナーのケイティ
サラが機器を着用して仮想世界に入ると、何と彼女はIT会社の男性経営者ジョージ(テレンス・ハワード)として生活している。
ジョージは不倫相手の女医ポーラ(ララ・パルヴァー)と浮気している最中に、妻のケイティ(レイチェル・レフィブレ:二役)が暴漢に襲われて亡くなった過去があり、繰り返し現れるその記憶に苛まれて、時々ヘッドセットで「休暇」に逃げ込んでいた。すると、女性刑事としてのサラの世界に戻れるのだ。
サラとジョージ
二つの世界を行き来しているサラは、次第にどちらの世界が現実であるのか混乱して来る。
ジョージのカウンセリングもしている女医ポーラは「こちらの世界が現実で、貴方は妻を殺された悪夢から逃れるためにヘッドセットを使い始めたのだ」と言う。
また「これ以上ヘッドセットを乱用すれば、大脳皮質が破壊されて現実に戻れなくなる」とも。
昏睡したサラ
確かに、愛するパートナーのケイティが生きていて、何不自由ない生活を送っている「アチラの世界」は自分に都合が良すぎる。向こうが妄想なのか?
意を決し、最後の「休暇」を取ったサラ(=ジョージ)は、ヘッドセットを破壊することにする。
さて、彼女(=彼)が選んだ現実世界は? ・・という話。
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「ありえざる星』/ELECTRIC DREAMS
(C)amazon original Prime Video
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このエピソードは非常に怖かった。何故かと言えば(皆さんも体験あるかと思いますが)、僕は全く知らない別の町で生活をしている「夢」を繰り返し見ることがあるからです。
その世界は非常にリアルで、住んでいる家の間取りも寸分違わない同じもの。しかも時系列が繋がっている。(ことが多い)
一時期、この現象に本気で悩んだことがありましたが、後になってその原因が分かりました。
それは、高校生ぐらいの時に読んだ内田善美・作『星の時計のLiddell』(集英社)の影響によるもの。
『星の時計のLiddell』
『Liddell』の主人公、青年ヒューは長い間同じ夢を見ている。その夢の中では毎夜ヴィクトリア・ハウスの屋根裏部屋で目覚め、その家に住む少女Liddellと会話している。
少女はヒューのことを「幽霊さん」と呼び、どうやら彼女の世界に時折り現れるのは自分の方らしい。
何故いつも同じ夢を見るのか? ヒューは親友ウラジーミルに打ち明け、彼と二人でLiddellの家を探す旅に出る・・。
『星の時計のLiddell』
ホラね、僕の夢の下敷きになったのは間違いないでしょう。
こうした「現実と夢の世界が混沌としてくる話」というのは、海外でもモチーフにされることが多いらしく、アンドレ・モーロワのショートショート『夢の家』などいくつかの先例があるようです。
人間が蝶になった夢を見たのか、蝶が人間になった夢を見たのかというテーマの荘子の『胡蝶之夢』も同根ですね。
『胡蝶之夢』
青年ヒューの物語では、最後にLiddellの家が発見されるのですが、どういう結末だったのか思い出せません。
探してみましたが、作者の内田善美が「自分の出版物を全て絶版に」と望んだとのことで現存しないようです。(二~三巻だったかな・・残念!)
また筒井康隆も「夢」をテーマにした作品を数多く残していますが、「夢のまた夢」を何重にも繰り返す『夢の木坂分岐点』も怖い話でした。
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「自動工場』/ELECTRIC DREAMS
(C)amazon original Prime Video
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冒頭にディックの言葉を掲げましたが、それには続きがあります。こうです・・
「なぜなら、現実世界は、私の基準を満たしていないからだ。私は、作品の中で、宇宙を疑いさえする。私は、それが本物かどうかを強く疑い、我々全てが本物かどうかを強く疑う。」
うん、確かに『真生活』もそうであったし、『トータル・リコール』も『マイノリティ・リポート』もモチーフは同じでした。
1928年、二卵性双生児としてシカゴに生まれたディックの妹シャーロットは生後40日で死去。
この妹の死が彼の人生観に影響を与え、多くの作品に「幻影の双子」というモチーフが登場します。
自分の中に居るはずのもう一人の人格。その「もう一人の自分」が語りかけて来る「もう一つの人生」・・それが作品の根本にあるのかもしれません。
ヒューゴー賞(長編小説部門)を受賞した歴史改変SF『高い城の男』を始め44作の長編と121作の短編を残したディックですが、彼の小説を読んでいると、自分が置かれている現実世界が足元から音を立てて崩れていくような不安を覚えます。
五度の結婚をし、その全てが破綻したディック。作家生活は赤貧の貧乏暮らしで、彼の原作が次々と映画化され再評価されたのは彼の死後。
そんな、余りに哀れな現実生活から逃避するためにクスリに手を出し、トリップしながら書かれた作品も数多くあります。
荒れた生活を繰り返しながら、1982年の春先、脳梗塞で倒れていたのを発見されて搬送された病院で脳死判定を受ける。
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「フード・メーカー』/ELECTRIC DREAMS
(C)amazon original Prime Video
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彼の遺灰は、父親が双子の妹シャーロットが死んだとき、片側を空白にしていた墓碑に名を入れて埋葬されました。
一緒に生まれた二つの命が50年以上の時を経て再び一つになったのです。
それは、ディック原作の初映画化である『ブレードランナー』が公開される直前のこと。
彼自身が、後に不朽の名作と呼ばれる映画を見ることはありませんでした。
そんなフィリップ・K・ディックが描いた不確実世界の代表作10本。
息苦しくなるような濃密なSFサスペンス・・十分に堪能させていただきました。
/// end of the “cinemaアラカルト380「ELECTRIC DREAMS」”///
(追伸)
岸波
そうそう・・『真生活』でレズビアンの女性刑事役をやったアンナ・パキンですが、彼女は現実にバイセクシャルを公言している女優さんです。
サラ役(アンナ・パキン)
ところが実生活で男性と結婚し、子供ももうけているのですね。
そのことに対し、CNNのトーク番組に出演した時、司会者にこう聞かれたそうです・・「バイセクシャル”だった”ということ?」
それに対するアンナの答え・・「過去形で語るようなことではないと思います。セクシュアリティというのは存在しなくなるものではないですし、そういう物じゃないと思います。」
世の中には、結婚して子供を産むと「バイセクシャルを克服した」という誤解がされがちですが、”それとこれとは別”なんですね。 気を付けなくちゃ・・。
あと、その相手役を務めたカナダ出身のレイチェル・レフィブレ(ケイティ役)ですが、ストーリーの中の映像では分かりずらいですけど、彼女、チョー美人さんなんですよ。
そんなレイチェルの美しさが際立つスナップ・・コレです!
レイチェル・レフィブレ
ね、素敵でしょ!!!
では、次回の“cinemaアラカルト2”で・・・See you again !
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「地図にない町』/ELECTRIC DREAMS
(C)amazon original Prime Video
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