こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。
犯人は、音の中に、潜んでいる
今週は『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』を書こうと思っていたのですが、さらに衝撃的な作品をAmazonプライムで視聴してしまいました。
それが2018年制作のデンマーク映画『THE GUILTY ギルティ』。
この映画はサスペンス・スリラーなのですが、事件現場も被害者も犯人もスクリーンに登場することはありません。
すべては、電話を受ける一人の警察官の音声会話によって進行するのです。
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THE GUILTY ギルティ
(C)2018 NORDISK FILM PRODUCTION A/S
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信頼のおけるAmazonプライムの読者評価が、脅威の4.5。7割近くが5.0を与えています。
さらに、第91回アカデミー賞外国語映画賞で最終選考まで残り、“次のヒット作”の登竜門、サンダンス映画祭では観客賞を受賞。
あの辛辣な全米最大の映画批評サイトRotten Tomatoesで、初登場100%をたたき出すという空前絶後の快挙。
さて、その衝撃の内容は?
事件解決のカギは電話の声だけ。
88分、試されるのはあなたの<想像力>
映画の冒頭、暗闇の中で鳴り響くベル。やがて一人の男がヘッドホンを付けて電話に応答する。
彼は、過去のある事件の関係で現場を離れ、警察署の緊急通報室で通報を受ける電話オペレーター、アスガー(ヤコブ・セーダーグレン)。
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THE GUILTY ギルティ
(C)2018 NORDISK FILM PRODUCTION A/S
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通報者の男は危機迫った様子で「助けてくれ」と。アスガーは落ち着いて名前や住所を言うように指示するが、男は動転しているのか応答できない。
すると・・「ニコライか?」、「住所は〇〇〇か?」と。
アスガーは、目の前のPC端末で発信元を検索しながら応答していたのだ。
緊急通報係アスガー
男は「救急車を送ってくれ」と言うが、現在地を聞いても言わない。そうこうしているうちに男の言動は辻褄が合わなくなってくる。
「ヤクか?」・・そう聞くと、今度は錯乱状態になって通話が切られる。「ヤレヤレだぜ・・」。
目の前のPC
そんな身勝手な通報が二件続くが、三件目は怯えた様子の女性から。彼女の名はイーベン(イェシカ・ディナウエ)。誘拐されて車の中に閉じ込められていると言う。
アスガーは通話を繋いだままと指示し、移動中の犯人車の所轄署にインターの降り口で捕縛するよう依頼するが、犯人車に逃げられてしまう。
さらに、通報者からの通話もこと切れてしまう。
アスガーは、誘拐された女性を無事救い出すことができるのか? 犯人の狙いは? そして、この犯罪の裏に隠された驚愕の事実とは?
と、いつもより簡単な粗筋の説明です。というのも、このストーリーは、いわゆる”ネタバレ厳禁”もの。
同時並行で入ってきた三つの通報が実は大きな一つの事件のピースであり、次第に全貌が明らかになるドキドキ感を是非「初見」で味わっていただきたいからです。
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THE GUILTY ギルティ
(C)2018 NORDISK FILM PRODUCTION A/S
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この映画が公開された当時、プロの映画関係者の間では「アレ、観たか?」があいさつ代わりになるほど、センセーションを巻き起こしたそうです。
場面は最後まで緊急通報室の中だけ。いわゆるシチュエーション・ドラマに位置付けられるでしょうが、ストーリーの進行が「会話だけ」という手法はおそらく初めのもの。
それにも関わらず観客をグイグイ引き込んでしまうのは、脚本も素晴らしいですが、やはり主演のヤコブ・セーダーグレンの確かな演技力でしょうか。
ヤコブ・セーダーグレン
しかしこの映画では「音」というものが実に様々な情報を提供してくれるものだと再認識しました。
相手の息遣い、会話の間・・時にはそれが相手の心情や嘘までも見破るツテになるし、車の走行音や背景の環境音を注意深く聴くことによって、居場所や置かれた状況を知ることもできるのです。
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THE GUILTY ギルティ
(C)2018 NORDISK FILM PRODUCTION A/S
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また、日本とデンマークでは状況も違いましょうが、デンマークの緊急通報室の様子が非常にリアルに伝わってきます。
通話オペレーターと言えども四六時中緊張感の中に居るわけではなく、身勝手な偽通報には「ヤレヤレ」となるし、所轄署に緊急連絡を入れると出てきたのがかつてのボスで近況報告が始まったり、通報の応対中に私用電話が入ったりと、いかにも有りそうなディテールを入れ込むのが上手い。
しかもその「私用電話」が、最後のどんでん返しの伏線になっていることには脱帽!
私用電話中(おいおい…)
この作品が制作された2018年と言えば、あの『カメラを止めるな!』やパソコンやテレビ画面だけでサスペンスが進行するアメリカ映画『search サーチ』が話題となった年。
全く設定は違いますが、シチュエーション・サスペンスの名作と呼べる三本が同時期に創られたことに驚きを禁じ得ません。
『カメラを止めるな!』2018
また、この映画を見て感激したアメリカのジェイク・ギレンホールが自ら主演・制作を務めてリメイクし、2021年10月からNetflixで配信されています。
ジェイク・ギレンホール/左
こちらは(Netflixを契約していないので)観ていませんが、出演作の作品選びに定評があると言われる彼のこと、見事にアメリカ版『THE GUILTY ギルティ』を演じ切り、こちらも高い評価が得られています。
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THE GUILTY ギルティ
(C)2018 NORDISK FILM PRODUCTION A/S
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さて映画の進行ですが(詳しくは書けませんが)、関係者三者から同時に入っている通報で思い描いていた状況が、実は全く違っているのではないかと疑念が湧き始めます。
また、アスガー自身が抱えている重大事件も(同時並行で)抜き差しならぬ展開に。どんどん深刻化していく重層的なサスペンス。
それらの糸が一本に繋がった時、観ていた貴方はきっと椅子から転げ落ちるような衝撃を受けることでしょう。
「本当のギルティ」はいったい誰なのか? ・・間違いのない名作です。
/// end of the “cinemaアラカルト372「THE GUILTY ギルティ」”///
(追伸)
岸波
『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』ですが、それを観た夜にこちらの『THE GUILTY ギルティ』をダブルで観てしまったために、印象が吹っ飛んでしまいました。
思い出すのは、さすがにハリソン・フォードも歳をとったなという感想のみ。
『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』
まあ、タイム・トラベルした先のシーンは中々良かったですけれど。
『THE GUILTY ギルティ』ですが、声の出演を除いて主要な登場人物は主人公一人のみ。
ということは、この映画って”舞台の一人芝居”でもイケるんじゃないかと。そのことに気づいて、そのうち誰か「舞台化」する人が現れるんじゃないかな?
いや、そんなことも無いか?(笑)
では、次回の“cinemaアラカルト2”で・・・See you again !
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THE GUILTY ギルティ
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