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「夜砂霧」(音楽の卵)
by 岸波(葉羽)【配信2023.6.3】
 

◆この記事は作品のストーリーについて触れています。作品を実際に楽しむ前にストーリーを知りたくない方は閲覧をお控えください。

 こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。

 その結末は、壮絶で美しい運命

 漫画家荒木飛呂彦による『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズのPart4「ダイヤモンドは砕けない」の登場人物、岸辺露伴が主人公となった『岸辺露伴 ルーヴルに行く』をケイ子と観てまいりました。

 主演はNHKのドラマシリーズ「岸辺露伴は動かない」で露伴役を務めた高橋一生。もちろん相棒役として準・主役級に躍り出た編集者の泉京香(飯豊まりえ)も登場します。

岸辺露伴 ルーヴルへ行く

C)2023「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」製作委員会 (C)LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社

 露伴のスタンド能力は、人間の一部を書籍化して人生の歩みを読んだり、逆に書き込んで行動を操れる「ヘブンズ・ドアー」。

 「スタンド」はジョジョ・シリーズでお馴染みの特殊能力で、スタンド使い同士のみ視認できる"精神の形"ですが、TV版「岸辺露伴」や今回の「ルーヴルへ行く」では、具現化せずに「能力」だけが表現されます。

  ヘブンズ・ドアー!

 実は僕、「少年ジャンプ」に『ジョジョの奇妙な冒険』の連載が始まって以来、一貫して荒木作品を読み続けている"ジョジョラ―"であり、ジョジョ以外も含め荒木作品の単行本を全て持っています。

 その唯一の例外、未読作品が今回の『ルーヴルへ行く』ということもあり、大いに期待して劇場へと足を運びました。

 さて、その内容は?

 

 "この世で最も黒く、邪悪な絵"
  の謎を追い、美の殿堂へ――

 映画の冒頭、人気漫画家の岸辺露伴(高橋一生)が問いかけて来る・・「この世で最も『黒い色』という色を見たことがあるだろうか?」。

 そして舞台は10年前に転換し、話のいきさつが語られる。

岸辺露伴 ルーヴルへ行く

C)2023「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」製作委員会 (C)LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社

 当時17歳の露伴(なにわ男子/長尾謙杜)は漫画家デビューを目指して夏休みの期間、祖母が経営する元旅館のアパートに住み込んで執筆活動をしていた。

 ところがそのアパートには「夫婦不可、子連れ不可、喫煙不可、楽器及び麻雀不可など厳しい制限があり、空き部屋だらけ。

 ある日、アパートに離婚手続き中の藤倉奈々瀬(木村文乃)という若い女性が入居することになる。

  奈々瀬(木村文乃)

 デッサンの練習のため、奈々瀬の姿を遠くから描いていた露伴は、次第に彼女に淡い恋心を抱くようになって行く・・。

 そしてある日、露伴は奈々瀬から「この世で最も黒く、最も邪悪な絵」の存在を聞かされる。その絵は彼女の地元の地主が所有していたが、今は買い取られてルーヴル美術館にあると言う。

  青年露伴と奈々瀬

 その後、奈々瀬は失踪・行方不明となり、露伴自身はデビュー作「ピンクダークの少年」が大ヒットして漫画家の道へ。

 十年後、27歳になった露伴は順風満帆な漫画家人生を歩んでいたが、ふとある日、青年時代の奈々瀬との出来事を思い出し、一目「絵」を見ようとルーブルへ行くことにする。

露伴と担当編集者泉京香

C)2023「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」製作委員会 (C)LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社

 「絵」の作者が300年ほど前の山村仁左衛門という絵描きと奈々瀬から聞いていた露伴は、美術館の日本語通訳エマ・野口(美波)に所在を尋ねると、コンピュータには使用されていない筈の地下倉庫Z-13に残っているらしいとのこと。

  通訳員エマ・野口(美波)

 その地下倉庫は、セーヌ川の氾濫に備えて全て運び出され作品が残っているはずがない。

  原作でのシーン

 露伴と京香は、美術館キュレーターの辰巳(安藤政信)、通訳員エマ・野口、そしてガード役の消防署員2名とともに確認のため地下へ。

  地下倉庫へ

 倉庫の最下層には山村仁左衛門の漆黒の絵「月下」が存在していたが、そこに描かれていたのは、あの奈々瀬の姿。いったい何故!?

 しかし、絵を見た彼らは幻影に襲われて次々に苦しみ出し、一人また一人と殺されていく・・。

  漆黒の絵「月下」

 さて、露伴はこの事態にどう立ち向かうのか?

 そして、奈々瀬が描かれた黒い絵になぜ怨念が閉じ込められていたのか?

 はたまた露伴と京香の運命や如何に!??

岸辺露伴 ルーヴルへ行く

C)2023「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」製作委員会 (C)LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社

 ジョジョシリーズからスピンオフした『岸辺露伴は動かない』の第一作「懺悔室」は、ジョジョ第5部『黄金の嵐』連載中の1997年に発表。

 その後、様々な雑誌に掲載された続編がまとめられ、現在第2巻まで刊行済み。

 ただし、2011年の『岸辺露伴 ルーブルへ行く』だけは収録されず、別途、荒木飛呂彦初のフルカラーB5サイズ愛蔵版(123ページ)として単独刊行された。

 『岸辺露伴 ルーブルへ行く』

 これは、同作がルーヴル美術館BD(バンド・デシネ)プロジェクトの一環として特別に書き下ろされたため。

 BDプロジェクトとは、作家をルーヴル美術館へ招待し、所蔵品あるいは展示室を選んで作品の重要な要素にしてもらうという企画で、荒木飛呂彦はルーヴルから特に名指しされて応えたもの。(したがって、当初はフランス語で発売された。)

 2011年発行の日本語版は、定価2800円と高額であったのにも関わらず、あっという間に売り切れとなり、僕は入手できなかった。

その後、重版されたのだが高価な事もあり・・。

 この人気作品の評判を一気に広めたのが、NHKで2022年から特集ドラマ化された「岸辺露伴は動かない」だろう。

 高橋一生が露伴を演じ、脚本をアニメ版『ジョジョ』を手がけた小林靖子が担当。年末までに第8話まで放映され、ギャラクシー賞テレビ部門奨励賞を受賞した。

 選評には「独特な美意識に貫かれた奇想天外な原作の世界観を、こだわりぬかれた美術や演出で見事に再現」・「役者陣もハマリ役ばかり」とあり、絶賛と言っていいだろう。

  京香と露伴

 このドラマが成功した理由の一つは、原作にはほとんど登場しない担当編集者の泉京香を相手役としてレギュラー化したことがあると思う。

 毎回、露伴に負けないくらい奇抜な衣装で登場し、それを見事に着こなすというか、とにかくスタイルが抜群、それでいて性格は天然。

  泉京香

 生活にズケズケと立ち入って来るので露伴からは嫌われているが、本人はまったくメゲナイ(笑)

 考えてみれば、原作の露伴は孤高の生活を好むため、独り言か脳内会話が多い。これでは実写版の脚本に差支えが出るので、相手役をセットしたのだろう。

  京香と露伴

 そして京香には特殊能力がある。あまりの天然ゆえ、どんな怪異の影響も受けない無敵の最強キャラなのだ(大笑)

 露伴と京香、この真逆のタイプをセットにしたことで、ストーリーが深刻になり過ぎず笑い所もあって、じつに程よい加減。

岸辺露伴 ルーヴルへ行く

C)2023「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」製作委員会 (C)LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社

 さて仁左衛門の怨念の正体だが、江戸時代の山村家は代々絵師の家系で、仁左衛門は天才肌ゆえ「描きたい絵」を優先して「売れる絵」を描かなかったため、親から勘当される。

 実家を出て奈々瀬と暮らす仁左衛門だったが、奈々瀬が病に伏し、彼女が生きているうちに絵に残したいと考える。

 ところが奈々瀬の美しい黒髪は、どんな顔料を使っても表現することができず「この世で最も黒い色の顔料を捜し求める。

  原作でのシーン

 そして見つけたのが神社の古い神木から滲み出していたタールで、仁左衛門は妻を描いた代表作「月下」を完成する。

 だが、神木を傷つけた咎を問う役人たちが、止めに入った奈々瀬に狼藉を働いたことで仁左衛門は激高し逆に殺してしまう。

 結果、仁左衛門は打ち首となり、その怨念が「月下」に宿ってしまったのだ。

  「月下」を見てしまう人々

 この世で最も黒い絵「月下」を見た者は、本人や血筋が連なる先祖にとって最も深い『後悔』の記憶に襲われ、精神や肉体までズタズタにされて死んでしまう。

 いわば、それが「月下」のスタンド能力。

 二人の消防士とキュレーターの辰巳は自らの悪行の幻影に襲われる一方、通訳員エマ・野口は無敵の京香によって救出。

岸辺露伴 ルーヴルへ行く

C)2023「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」製作委員会 (C)LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社

 露伴に襲い掛かってきた幻影は、何と山村仁左衛門の怨霊そのもの。何故、見も知らぬ仁左衛門に襲われるのか?

 ともあれ「死人」に「ヘブンズ・ドアー」は効かない。露伴、絶体絶命のピンチ。

 露伴の精神が破壊されようとしたその時・・あの人物が現れる!

 『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』の公開三日間の興行収入は3億円を越え、今年公開された300館以下の劇場映画で公開初週3日間の出足としては最高額を記録しました。

 また、映画館に備えたパンフレットも売り切れが続出。芸術とエンターテインメントが融合した極上のサスペンスは大きな支持を集めています。

 もはや岸辺露伴は、高橋一生にとっての代表作となりそうな予感も。

 

/// end of the “cinemaアラカルト366「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」”///

 

(追伸)

岸波

 物語が終焉を迎えた辺りで大きなサプライズが登場します。

 仁左衛門が処刑された後、奈々瀬は実家に戻るのですが、その旧姓は「岸辺」家・・そう、仁左衛門と七瀬は露伴の先祖だったのです。

 黒い絵「月下」も岸辺家に代々伝わっていたもので、露伴の祖母がルーヴルに売ったものでした。

 そんなシークエンスなので、過去の仁左衛門の事件が描かれる場面では、仁左衛門を高橋一生自身が二役で演じています。

ネタバレになるので過去編のスチール写真は公開されていません。

 映画のラストシーン、露伴は奈々瀬との出会いを回想し、「あの夏も僕にとっては必要な過去の一つだ」とつぶやく。

 この台詞を「ジョジョシリーズに通底する『黄金の精神』の一つだ」とする論評がありました。

 「黄金の精神」とは、第五部の主人公ジョルノ・ジョヴァーナが言った言葉で「過去の後悔や罪の念に囚われず、それを克服して、未来へと前進することに人間の素晴らしさがある」という考え方。

 アパートにやって来た奈々瀬に「君を守る」と誓いながら失踪させてしまった苦い過去。それがルーヴルの惨劇に繋がったことさえ「人生にとって必要な過去」と受け止められたのは『黄金の精神』だった・・卓見だと思います。

 

 では、次回の“cinemaアラカルト2”で・・・See you again !

岸辺露伴 ルーヴルへ行く

C)2023「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」製作委員会 (C)LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社

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To be continued⇒  “cinemaアラカルト367” coming soon!

 

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