こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。
最悪の軌跡が起こる。
昨年、2022年8月に劇場公開されたジョーダン・ピール監督の三作目の映画『NOPE ノープ』が早くもAmaonプライムで無料公開されたので鑑賞しました。
元々アメリカでモノマネ芸人やコメディアンだったジョーダン・ピール氏は、自ら脚本を執筆して監督を務めた2017年のホラー映画『ゲット・アウト』で、アカデミー賞脚本賞を受賞。
2019年に脚本・監督第二弾のホラー映画『アス』でも、全米の心胆を寒からせしめた同監督が三年ぶり、満を持して放つ第三弾が本作です。
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NOPE ノープ
(C)2022 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.
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アメリカでは先行して(昨年)7月22日に公開され初登場一位。初週三日間の興行収入が4400万ドル。
これは、オリジナル脚本作品としては、タランティーノ監督『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019年)の4108万ドル以来およそ3年ぶりのクリーン・ヒット。
もちろん、コロナ禍の中にあっては大健闘と言えるでしょう。
さて、その内容は?
平穏な田舎町を襲う、突然の脅威。
人々が見上げる空に現れたものとは…。
映画は冒頭から不可思議なシーンが。
血だらけになった部屋の中を三角帽子を被ったチンパンジーが徘徊している。
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NOPE ノープ
(C)2022 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.
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何故か画面奥の方では、片方脱げた靴が立つはずのない形で直立している。
チンパンジーは三角帽子をかなぐり捨てて座り込むと、女性の足らしきものをつついて反応を確かめている。
これは人形なのか、人間なのか・・やおら立ち上がり、こちらに迫って来る。
直立した女性の靴
画面が一瞬暗転して制作会社のクレジットが出ると場面が転換し、ハリウッド郊外の小さな牧場。
ここでオーティス・ジュニア〔通称:OJ〕(ダニエル・カルーヤ)と妹のエメラルダ〔通称:エム〕(キキ・パーマー)の兄妹は父と三人で、映画撮影用の馬の訓練をしている。
ある日、OJと父親が馬の訓練をしていると、突然、空から異様な気配が迫り何かが降って来る。
空を見上げた父親
父親はその一つが直撃して死亡。落下物の正体は金属片で、父を直撃したのは5セント硬貨、馬の背中には金属の鍵が突き刺さっている。
ここでいきなりタイトル・ロゴに切り替わり、しばらくオープニング・クレジットが流れる。
その背景がまた不思議な映像で、旗のようなものが妖しくうごめいている。(いったいコレは何なのか?)
その中央にあけた口のようなものがコチラに迫って来ると、またまた背景が切り替わり、黒人を載せた馬が疾走する短いフィルムが繰り返される。
そのフィルムがコチラに迫って来たところで、本当のオープニングとなる。
妹のエム(エメラルダ)
うむむむむ・・。思わず唸ってしまいました。いきなり謎のシーンが次々に展開され、何が起こっているのか分からない。
出世作『ゲット・アウト』も2作目の『アス』もホラー映画としては正攻法で、何げない日常シーンから、次第に不穏なモノが姿を現しました。
ところが今回の『NOPE』は、オープニングから謎がてんこ盛り。そしてその謎どうしの関係性が分からない。一体、どう、落とし前を付けてくれるのか?
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OJ/NOPE ノープ
(C)2022 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.
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結局、父親を亡くした兄妹は牧場を継ぐことになり、知人から紹介を受けて「馬」を使う映画にプレゼンする機会を得る。
そこで明らかになるのは、兄のOJは馬の調教については詳しいが「営業」の能力はからきしだと言う事。逆に妹のエムは観衆を引き込む話術に天賦の才があった。
エムのプレゼンにより、映画冒頭の謎の一つが解ける。
馬を駆ける2秒ほどのフィルムは世界最初の映画投影置「ズープラクシスコープ」であり、乗馬している黒人こそOJとエムの曾祖父だったのだ。
「ズープラクシスコープ」
プレゼンが上手く行きかけたところで事件が勃発。OJが「馬が興奮しているので、馬と目を合わせてはいけない。危険だから馬の後ろに立ってはいけない」と注意したのを一部のキャストが無視して馬が暴れ出したのだ。
この「目を合わせてはいけない」は、後段の重要な伏線となっている。
自分が悪いのに怒り出したキャストによりプレゼンは失敗。兄妹は牧場の運営資金を確保するため、その馬ラッキーを売却せざるを得ない。生活のため手放すのはこれで10頭目だ。
売却先は、近郊で西部劇撮影のための「ジュピターパーク」を経営するジュープ(スティーヴン・ユァン)。
ジューブ/元子役
このジューブこそ、映画冒頭の謎の一つ「暴れるチンパンジー」に関わる人物。
あのシーンは、ジュ―ブが子役俳優だった頃に参加していたホームドラマ「ゴーディ 家に帰る」で、撮影中途に暴走したチンパンジーのゴーディが出演者を襲い、彼の姉役の女優の顔に噛みちぎって射殺される事件があったのだ。
この惨劇は、実際にあった事件をモチーフにしている。
キャスト・スタッフが一斉に逃げ出す中、逃げ遅れた姉役女優が瀕死の重傷を負い、放り出された靴が直立するという「最悪の奇跡」が起こる。
机の下に逃げ込んだジューブは、チンパンジーが自分に迫って来た時、その靴を見つめたので「目を合せること」が避けられ、命を取り留める。
ジュピターパーク
役者として落ちぶれたジューブは、子役時代の栄光が忘れられず、ジュピターパークを経営してハリウッドに関わり続ける人生を歩んでいたのだ。
ジューブに持ち馬ラッキーを売却した兄妹は家に戻り、昔話に花を咲かせるが、そこで大事件が起きる。
持ち馬の一頭ゴーストが逃げ出したので、それをOJが追っていると雲の中から円盤の形をした何物かが出現し、ゴーストを吸い上げるあり得ない光景を目撃する。
吸い上げられるゴースト
その出来事をエムに話すと、彼女は「それはUFOに違いない。撮影して動画がバズれば大儲けできるに違いない」と。
かくして兄妹のUFO撮影大プロジェクトが動き出すが、その謎の存在を知る者がもう一人いた。
出現したUFO
それはジューブで、これまで兄妹から買った馬はUFOをおびき出すための囮として用いており、彼は彼でUFOとの遭遇体験をイベント化して大儲けしようと企んでいたのだ。
さて、兄妹のUFO撮影は成功するのか? そして謎の物体の正体とは? はたまた大観衆を集めたジューブの運命や如何に!?
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NOPE ノープ
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ジョーダン・ピール監督は、これまで『ゲット・アウト』や『アス』で人種差別や階級格差など社会性のあるテーマを撮り続けて来ました。
今回の『NOPE』でも、主演のOJとエム兄妹が黒人であること、ジューブが東洋系アメリカ人であることで同様なテーマかと思わせますが、ストーリーは全く別の「一攫千金」の方に向かいます。
OJとエム
また監督の作品は、本質はホラー映画でありながら、終盤に「脳移植」や「クローン人間」など怪異の正体に科学的説明をつけて幽霊やファンタジーに流れないのも特徴。
今回、用意されたサプライズは「円盤の正体」。実はUFOと思われたそれ自体が未知の生物であり、終盤、エヴァンゲリオンの使徒のような正体を現し、兄妹と対決することになります。(生物と判明して以降「Gジャン」と呼ばれる)
映画冒頭のタイトルバックの謎映像は、このジージャンの食道を表したもの。
ジョーダン・ピール監督
まさに、ホラーかと思わせてSF、SFかと思わせて怪獣モノという驚きの進行。
なので、人種差別など社会性を帯びたテーマを期待すると裏切られますし、胃がヒリ付くようなホラーの緊張感を期待しても見当外れとなります。
う~ん・・それにしては色んな要素を詰め込み過ぎではなかろうか?
監督自身は、スピルバーグの『ジョーズ』のように、空から襲う怪物と人間の対決を描きたかったと話していますが、そこに焦点を当てればよかったのでないか。
『ジョーズ』
思わせぶりなチンパンジーの暴走事件や黒人が出演した世界最初の映画投影装置というガジェットは不要な気がするし、本筋と関係ない多くのエピソードやオマージュが大量にぶっ込まれているのです。
例えば父親を殺した落下物は、Gジャンが消化できない「排泄物」の一つ5セント硬貨でしたが、それは初期の映画館入場料が5セントであったこと・・
OJのシャツ
OJのオレンジ色のシャツは作中で言及される『スコーピオン・キング』を表していたり、エムの名前”エメラルド”は、ジョーダン・ピール監督がインスピレーションを受けたとする『オズの魔法使い』の最終目的地「エメラルド・シティ」から名付けたものだとか・・
正体を現したGジャンの造形は、まさに『エヴァンゲリオン』の使徒をオマージュしたものだとか・・
「使徒」の一体
エムがジュピターパークに逃げ込んでバイクを止める時に『AKIRA アキラ』と同じようにスライドさせるとか・・
まあ、分かる人が見ればそれなりに面白い小ネタでしょうが、逆にそれが引っ掛かって本筋の緊張感が損なわれる気がします。
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NOPE ノープ
(C)2022 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.
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最後にもう一つ。映画の制作意図が「見世物の叛乱」と深読みする人たちが居ます。
チンパンジーのゴーディの暴走がそうですし、馬のプレゼンの失敗もそう・・ジューブはUFOを見世物にしようとして、結局、観客もろともGジャンに喰われてしまう。
何かが来る・・
そう言えば、映画の冒頭にも旧約聖書ナホム書の一節「わたしはあなたに汚物をかけ、あなたをはずかしめ、あなたを見せものとする。」というテロップが入っています。
しかし、この映画を見終わった観客の何人がその教訓を感じるでしょうか。
Gジャンは見世物にされたことに怒って人間を襲った訳ではなく、単に「食事」をしているだけなのです。
仮にジョーダン・ピール監督にそういう意図があったとしても、失敗していると言わざるを得ません。
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NOPE ノープ
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さて映画の最終盤、ジューブと大観衆、兄妹の協力スタッフはGジャンに呑み込まれて全滅し、より巨大に変化したGジャンが二人に狙いを定める。
OJはエムを逃がすため、敢えてGジャンを睨みつけて自分を襲わせる。
その間に、バイクを駆ってジュピターパークに逃げ込むエム。ラストは、迫りくるGジャンと一対一の闘い。
エムにこの強大な敵を倒す秘策はあるのか!? 結末はあなたの目で。
/// end of the “cinemaアラカルト364「NOPE ノープ」”///
(追伸)
岸波
タイトルの『NOPE』は「無理、ムリムリ~!」というニュアンス。確かにエヴァンゲリオンやガンダム無しでタイマン勝負と言うのはちょっと・・(笑)
2017年の『ゲット・アウト』は全世界で2億5,400万ドルの興行収入を上げましたが、この『NOPE』は1億7,100万ドルとまずまずの出来。
終盤のGジャンが正体を現してからのスペクタクル造形に感激したファンが多かったようです。
ただ、特殊攻撃をするわけでもなく吸い込んで捕食するだけの生物なので、エヴァンゲリオンを知っている者が見れば、”劣化使徒”にしか見えないかも。
襲い来るGジャン第二形態
また、ジューブのイベント観客に一瞬、『ゴーディ 家に帰る』の惨劇で顔を食いちぎられた女優が登場し、恐ろしい形相に変わり果てた姿が映し出されますが、どうしてコレが必要だったのかも不明。
ミステリには有名な金言があります。「そこに銃が登場するなら、その銃は必ず撃たれなければならない」・・もし、本筋に絡まないなら不要という事でしょう。
やはり僕には、ガジェットを詰め込み過ぎて本筋がブレブレという感想でした。残念!
では、次回の“cinemaアラカルト2”で・・・See you again !
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NOPE ノープ
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