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「AUTUMN」(Music Material)
by 岸波(葉羽)【配信2023.3.25】
 

◆この記事は作品のストーリーについて触れています。作品を実際に楽しむ前にストーリーを知りたくない方は閲覧をお控えください。

 こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。

『バーフバリ』シリーズ S.S.ラージャマウリ監督最新作!!

 先日、ボリウッド映画『RRR』をケイコと観てまいりました。

 数々の受賞歴に輝くインドの名匠S.S.ラージャマウリ監督が満を持して放つスーパー冒険物語。

 まさに、期待を斜め上に超えた面白さ。さすが、ボリウッド映画です。

RRR

C)2021 DVV ENTERTAINMENTS LLP.ALL RIGHTS RESERVED.

 作品のアオリにある"バーフバリ・シリーズ"は『バーフバリ 伝説誕生』(2015年)『バーフバリ 王の凱旋』(2017年)に始まり、アニメやドラマ、小説などメディアミックスで展開。

 Amazonプライムでもアニメシリーズ『バーフバリ 失われた伝説』が公開されています。

 インドの叙事詩「ラーマーヤナ」に題材を取ったと言われ、S.S.ラージャマウリ監督の名声を不動のものに。

 さて、そのラージャマウリ監督は、今作でどのようなサプライズを見せてくれるのか。早速、その内容です。

 

 友情か? 使命か?

 映画の舞台は1920年のイギリス領インド帝国。インド総督バクストン(レイ・スティーヴンソン)はアーディラバードにあるゴーンド族の村を訪れ、そこで美しい声で歌う少女マッリ(トゥインクル・シャルマ)と出会う。

 少女の歌を気に入ったバクストンは両親に小銭を恵む。有難く受け取った両親だったが、バクストンは少女マッリを館へ連れ去ろうとする。そう・・小銭は謝礼でなく身請け金だったのだ。

強引に連れ去られるマッリ

 後日、村の特使がバクストン公邸を訪れ、マッリを村へ帰すよう求めるも一蹴される。

 特使は「返さなければ、ゴーンド族の守護者がイギリス人に災いをもたらすだろう」と捨て台詞を残す。

 そこで場面は転換。主人公の一人、ゴーンド族の守護者ビーム(ラーマ・ラオ・ジュニア)が猛獣相手に訓練をしている様子が描かれる。

RRR

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 一方、デリー郊外の警察署に、独立運動家の釈放を求めてデモ隊が押し寄せる。警察官の一人で、もう一人の主人公であるラーマ(ラーム・チャラン)は、単身でデモ隊に突入し首謀者をひっ捕らえる。

 殊勲を上げたラーマは昇進を期待するが、インド人である彼はイギリス人である署長に無視されてしまう。

 そんな中、ゴーンド族の守護者ビームが仲間を引き連れて暴挙を企てているという情報が入り、ラーマは担当捜査官に名乗りを上げる。

単身、デモ隊に乗り込むラーマ

 ラーマには、どうしても立身出世を図らねばならぬ理由があった。

 村の族長であった彼の父や一族はイギリス軍に殺害され、圧政に対する叛乱を企てていたが、彼の村には武器が無かった。

 ラーマは、独立闘争に必要な武器を入手するため、出自を偽ってイギリス人が支配する警察組織に潜入していたのだ。

警察官ラーマ 

 ある日、「アクタル」という偽名を名乗ったビームは、偶然に警察官のラーマと列車事故の現場で遭遇し、二人協力して事故に巻き込まれた少年を救い出す。

 これを契機に二人は親交を深め、互いの正体を知らぬまま無二の親友となって行く。

 刻々と迫るマッリ救出の日。その時、二人の親友は敵味方となり、互いの命をかけて闘うことになるのか?

 そして”運命の日”がやって来る・・。

RRR

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 この映画は179分と長尺で、前半・後半の二部構成になっています。

 前半は、猛獣を引き連れてのバクストン公邸襲撃事件で、警察官の身分を明かしたラーマと襲撃者ビームの壮絶な戦いの末、ビームが逮捕されるまで。

 後半は、親友を裏切って後悔に苛まれるラーマが、ビームの処刑が決まると警察官の使命よりも友情を選び、二人共闘して強大なイギリス軍に立ち向かう物語。

 これがフランス映画だったら、ひたすら陰鬱なストーリーになるところをボリウッドの手にかかれば、歌あり踊りありジョークあり、更には奇想天外なアクションが散りばめられ、飽きさせないのが凄いところ。

いやぁ、時間を忘れて見入ってしまった。

ラーマとビームの超絶ダンス

 1920年と言えば、インド総督に逮捕状なし裁判なしで投獄できる権限を付与した悪名高きローラット法が成立して民衆弾圧が強化され、これに対しインディラ・ガンジーが国民会議派の指導者となり「非暴力不服従運動」を始めた時代。

 そして、映画の主人公であるコムラム・ビームとアッルーリ・シータラーマ・ラージュは独立運動指導者として活躍した実在の人物。

もちろん、奇想天外なストーリーはフィクションですが(笑)

英雄二人の銅像

 しかし、互いに使命を持った親友同士が使命ゆえに敵対して闘い、最後には共闘して強大な敵に立ち向かうというのは、アツいですね。

 こうした夢と冒険と友情の物語は、日本の少年ジャンプやロールプレイング・ゲームでも鉄板の感動ストーリー。

 このシークエンスで思い出したのが『ゴジラvsコング』。

 怪獣のプライドをかけて闘った両雄が、最凶の敵メカゴジラが登場すると協力し合って闘う。(アレもアツかった・・)

ゴジラvsコング

C) 2021WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. & LEGENDARY PICTURES PRODUCTIONS LLC.

 映画タイトルの『R R R』の意味が気になって調べましたら、これは監督・脚本のS.S.ージャマウリとラーマ役のーム・チャラン、ビーム役のーマ・ラオ・ジュニアら三人の頭文字をとったとのこと。

 こういう発想、ほかの国にはありませんね。内容とは全く関係がないし(笑)

映画の冒頭では、「Rise(蜂起)・Roar(咆哮)・Revolt(反乱)」の頭文字のように描かれましたが、これは後付けの理由だと僕は思います。

 ボリウッド独特と言えば、やはり映画に挿入される群衆がミュージカルのように歌って踊るシーン。

 何せ、ストーリーが中断されるのもいとわず、敵味方入り乱れてキレッキレのダンスを踊り出すのですから、まるでフラッシュ・モブの世界。

みんなでダンス(笑)

 こういうインド人の感性って本当にステキ。友達になれそうな気がします。

 そうか、だから大和伸一は、何度もインドのお友達の所に足を運び写真を撮り続けているのか(大笑)

大和伸一/ホーリーにご注意!

 監督・脚本を務めたS.S.ラージャマウリは1973年、カルナータカ州ライチュール出身で、父親は映画脚本家。

 2001年に、今回の映画でも主演したラーマ・ラオ・ジュニア主演の『Student No.1』で映画監督デビュー。

 代表作は『マガディーラ 勇者転生』(2009年)や『マッキー』(2012年)、そしてバーフバリ二部作で、『バーフバリ 伝説誕生』と『バーフバリ 王の凱旋』はそれぞれブリュッセル国際ファンタスティック映画祭、英国映画協会のプレミア上映に招待されました。

S.S.ラージャマウリ監督

 また、『伝説誕生』はナショナル・フィルム・アワード最優秀長編映画賞を受賞、『王の凱旋』はインディアン・フィルム・フェスティバル・メルボルンのテルストラ・ピープルズ・チョイス・アワードを受賞するなど国際的にも高い評価を得ました。

 2016年にはインド芸術分野における貢献が認められ、パドマ・シュリー勲章を授与。とにかく脂が乗り切って、ノリに乗っている監督なのです。

RRR

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 そんなS.S.ラージャマウリが放った今作品は、ストーリーもアツいが、とにかく映像が美しい。

 バクストン総督の公邸であるマリア神殿で、主題歌「ナートゥ・ナートゥ」を歌い踊るシーンは忘れることが出来ません。

 そうそう・・この「ナートゥ・ナートゥ」は、第80回ゴールデングローブ賞の主題歌賞、第95回アカデミー賞の歌曲賞も受賞。

マリア宮殿

 インド映画の凄さは、ハリウッドならCGでごまかすところを、20世紀のデリーを再現した巨大セットを実際に建設してしまうところ。

 また、映画冒頭の主人公二人が登場するシーンでは、そこだけで通常の映画一本分の制作費が投じられました。

 映画の撮影日数は300日超、ロンドンから起用された2500人を含む3000人の技術スタッフと9人の共同監督、国外からの40人の格闘家を糾合したとのこと・・うん、何もかもが桁外れ。

弓使いビーム

 アクションシーンでは、燃え盛る川の上で少年を救う序盤のシーン、宮殿にカチ込むため一斉に猛獣を放つシーンが凄い。

 さらに終盤でビームが、40メートル先の銃撃から20メートル先のラーマを救うため、弓でラーマの頬横5センチを掠めて敵兵を射貫くスローモーション・シーンには度肝を抜かれました。

 それから、あれも凄かった・・狭い牢獄に幽閉されて足が萎えたラーマをビームが救出して肩に担ぎあげ、上下で敵兵を蹴散らすブッ飛びシーン。

えええ~!?

 アレ、ホントにやったんだよね?

RRR

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 僕らは、現在公開中の福島フォーラムで観てきましたが、日本全国では昨年10月21日に公開され、『ムトゥ 踊るマハラジャ』が所持していたインド映画の記録を塗り替える10億円超の興行収入を記録しています。

 また、第46回日本アカデミー賞の優秀外国作品賞も受賞しました。

 さて、福島市在住の貴方、そう・・そこのアナタ。今ならまだ間に合います。一緒に”夢と冒険と友情”の世界に旅立ちませんか。

 『シン仮面ライダー』はさておいて(笑)

 

/// end of the “cinemaアラカルト355「R R R」”///

 

(追伸)

岸波

 『RRR』は、インドの二大叙事詩「マハーバーラタ」と「ラーマーヤナ」を下敷きにしていると言われます。

 ラーマは『ラーマーヤナ』のラーマ、ビームは『マハーバーラタ』のビーマになぞらえたもので、二人は実在の人物でありながら神話とも通底する物語なのだと。

 僕はインドネシアに出張した折、現地の野外劇場で「ラーマーヤナ」の公演を観てきましたが、敵にさらわれたシータ姫をヒーローのハヌマーンが救出する物語でした。

 このシータ姫とハヌマーンを、イギリス軍に幽閉されたラーマと救出に向かうビーマになぞらえた訳です。

 ところが更に深読みし、"RRRの主人公二人は同性愛の間柄"とする意見が欧米のSNSに飛び交いました。

シータ姫とハヌマーンが愛し合っていたからか?

 その発信元の一人、デトロイト・ニュースのアダム・グラハムは、「この映画の中心に存在する溢れるほどのブロマンス(※注:男同士のアツい友情)は、ラーマ・ラージュとビームがゲイのスーパーヒーローとして、水面下から湧き上がる恋心を描写していると信じる人々から絶賛されている」と書いたのです。

 これに対し、原案のプラサードは「欧米人はインドの文化や男性同士の友情について間違えた解釈をしている」と直ちに反論。

 このグラハムのように、見当はずれな論評をして嘲笑された発言も多かったようです。

猛獣を伴って総督公邸にカチ込んだシーンは「地球温暖化に警鐘を鳴らしている」というのもありました。(環境を破壊した人間が「自然」に復讐されるという解釈か?)。これに対し、うちのケイ子は「インド人は、そんな小難しい理屈は捏ねないって」と一蹴していましたが(笑)

 最後に好評価を与えた批評家の発言をいくつかご紹介いたしましょう。

◆『ベン・ハー』よりも巨大な作品。『RRR』は次から次へとアクションが盛り上がっていき、退屈も疲れも感じることはない。・・・Deadline Hollywood/ステファニー・バンバリー

◆2022年の映画の中で最高の、そして最も革命的な作品。"ナートゥ・ナートゥ"のダンスシークエンスは、まるでジーン・ケリーのダンス・ナンバーを超人レベルにまで引き上げたように感じられる。・・・映画批評家デイヴィッド・フィアー

◆『RRR』は、現代のアクションがどれほど定型化しているのかを思い知らせてくれる。もし、大スクリーンで常に驚きを見出すことができるのならば、ハリウッドは最高のライバルから学ぶべきものが数多くあると言えるだろう。・・・アトランティック誌/デイヴィッド・シムズ

 

 では、次回の“cinemaアラカルト2”で・・・See you again !

RRR

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To be continued⇒  “cinemaアラカルト356” coming soon!

 

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