こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。
ノンシャランといきましょう……こんな世界だからこそ。
少しばかりの反骨と、ちょっとした幸福と。
これは、現在開催中のオタール・イオセリアーニ監督の全作品21位本を上映中する『オタール・イオセリアーニ映画祭』のキャッチコピー。
今週のcinemaアラカルトは、カリスマ彰の当番です。
今回は、同映画祭で上映されている中から三作品を取り上げて論評したものです。元々の個別タイトルは以下の通り。
◆全作品上映中のオタール・イオセリアーニの映画「月の寵児たち」を見た
◆イオセリアーニ監督の「ここに幸あり」は単純なスローライフ礼賛映画ではない!
◆イオセリアーニ監督の映画「皆さま、ごきげんよう」はここが凄い!
ではカリスマ彰、お願いします。
岸波さま 現在、渋谷のシアターイメージフォーラムと有楽町のヒューマントラストシネマ有楽町で、映画監督オタール・イオセリアーニ(1934.2.2ジョージア生まれ89歳)の全作品21本の上映が3月末まで行われている。
イオセリアーニは、故国グルジア(現ジョージア)を捨てて1979年にフランスに亡命しパリを拠点に映画作りをしている。
あるツイートで、この全作品上映のことを知ったが、かなり映画を見てきたつもりだったが、イオセリアーニのことは初めて知った。まだまだ知られざる名匠というのはいるものである。
◆『月の寵児たち』(1984年 オタール・イオセリアーニ監督 102分)
歴史、生活の中で繰り返される愛おしさと
繰り返してしまう愚かさの同居に
悲しさがコメディになる事を思い出す
今回時間があったので、渋谷シアターイメージフォーラムで「月の寵児たち」(1984年 102分)を見た。
「月の寵児たち」
98人で満員の小さな地下の映画館(もうひとつ1階に65人定員の映画館もある)だが10人ぐらいしか客はいなかった。
シアターイメージフォーラム
政府の弾圧に耐えかねてグルジア(現ジョージア)からフランスへ亡命したイオセリアーニが亡命後初めて発表した長編映画だ。
映像的には、ロベール・ブレッソン、ジャック・リヴェットあたりにその重量感が似ている。
飄々とした感じはエリック・ロメールあたりにも近似性を感じるが、フランス人監督に比べてもっとシニカルだし過激だ。
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「月の寵児たち」は骨董品の陶器や絵画をめぐる群像劇だが、骨董品が製作された過去に遡ったエピソードがあったり、人間関係も錯綜して分かりづらかったが、この映像作家が尋常でないことはすぐに分かった。
「太陽の寵児」は表の世界の優れ者だが、「月の寵児たち」は裏の世界の人間たちの体臭むんむんの、ドロドロした人間喜劇であった。
最近の私小説的回想的作品や老人たちを扱ったもっとノンシャランな作品(「ここに幸あり」「月曜日に乾杯!」「蝶採り」「素敵な歌と舟はゆく」「汽車はふたたび故郷へ」「皆さま、ごきげんよう」など)を次は見たいと思ったが、3月末までに何本見られるだろうか。
とくに2015年公開の「皆さま、ごきげんよう」は、ポスター見ただけで惹かれている。ああ、ワイン飲みたいなあ(笑)。
◆『月の寵児たち』映画.comの解説から引用
18世紀末の絵皿と貴婦人の裸婦画をめぐる群像劇で、パリで画廊を営む女性とその愛人、鉄砲店の店主、美容師、警視、空き巣の父子、過激派の音楽教師、娼婦、暗殺者のアラブ人、ホームレスなど、さまざまな登場人物が繰り広げる行動を、主役・脇役を関係なく重層的に、どこかとぼけた味わいを交えて描いた。 |
◆『ここに幸あり』(2006年 オタール・イオセリアーニ監督 1時間55分)
人生を、ちょっとひと休み。
渋谷のシアターイメージフォーラムで、現在開催中のオタール・イオセリアーニ映画祭の中の1作「ここに幸あり」(2006年 オタール・イオセリアーニ監督 1時間55分)を見た。原題は「秋の庭」である。
「ここに幸あり」
確かに失職し財産、家、愛人など全てを失った大臣が庭師になって新しい人生を始める話ではある。
しかし、「あくせくせずにノンシャランに生きるスローライフの勧め」というレッテルはどうだろうかな。人生の苦さがたっぷり盛り込まれている。
カフェで暇つぶしの老人をイオセリアーニ監督自らが演じている(中央↑)。
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主人公役のセヴラン・ブランシェは初主演、その母親役はなんと名男優ミシェル・ピコリが演じている(上掲写真左の老女)。
ラストシーンの意味をずーっと考えている。
主人公を取り巻く女たちが勢揃いした楽しげな宴席を写した後、カメラは悲しくてやりきれない弦楽四重奏のメロディ(シューベルトみたいだがオリジナルか)をバックに庭の深い緑を空を背景にパン。そして暗転してエンドロール。
なんという幕切れだろう。素晴らしい。これだけでイオセリアーニの凄さが分かる。
◆『ここに幸あり』allcinema ONLINEの解説から引用
グルジア出身の巨匠オタール・イオセリアーニ監督が、立身出世の道を踏み外した中年男性を主人公に描く人生賛歌のコメディ・ドラマ。大臣を失脚したことで、逆にそれまで執着していたお金や肩書きから解放された男が、厳しく辛い境遇の中から人生の真の喜びを見出していく姿を、イオセリアーニ監督独特のユーモアと寓意を盛り込み描き出す。名優ミシェル・ピッコリが主人公の母親役で登場。
ある日突然大臣の職を追われてしまったヴァンサン。仕事とお金を失い、愛人ばかりか正妻にも愛想を尽かされ、おまけに住む家も奪われてしまう。踏んだり蹴ったりのヴァンサンではあったが、懐かしき友との再会や優しい女性たちとの出会い、そしてお酒と歌と音楽が疲れた彼の心を少しずつ癒やしていく…。 |
◆『皆さま、ごきげんよう』(2015年 オタール・イオセリアーニ監督 2時間1分)
幸せは
少しずつ
渋谷のシアターイメージフォーラムでオタール・イオセリアーニ監督の映画「皆さま、ごきげんよう」(2015年 2時間1分)を見た。全作品上映のオタール・イオセリアーニ映画祭で私は3本目の鑑賞。
「皆さま、ごきげんよう」
前々回「月の寵児たち」、前回「ここに幸あり」に比べて100人のホールはほぼ半分の入りで徐々に入場者が増えている。
この映画、今回と同じビターズエンドの配給で2016年12月に岩波ホールで日本初公開されていた。
ミニシアターの日本における先駆者だった岩波ホールも昨年7月で閉館してしまった。「娯楽映画は皆さんご覧になるが、映画芸術を大学が鑑賞会で見るようなことが少なくなってしまって」と岩波律子支配人が言っていたのを思い出す。
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皆さま、ごきげんよう
(C)Pastorale Productions- Studio 99
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このイオセリアーニ監督「皆さま、ごきげんよう」も、ちょっと風変わりな群衆劇で娯楽映画とは程遠い。
しかし、難解な芸術映画なのかと言えばそうではない。不思議な感覚の映画なのだ。人生なんかそんな大層なものじゃないよという笑い声が聞こえてくるのだ。
冒頭はフランス革命のギロチンをめぐるシーン、
続いて第二次世界大戦?の戦闘シーン。これは「月の寵児たち」(2006年 1時間55分)の18世紀の陶器や裸婦画製作シーンの冒頭と同じパターン。
まあ、イオセリアーニ監督の定石なのだろう。
パリの街を奇人、変人、ホームレス、犯罪者たちが闊歩する。あまり脈絡もなさそうな編集だ。
「なんじゃ、こりゃ」と思う観客も多いだろうし、実際「バカにすんな」的なレビューも多い。そこが、イオセリアーニの罠なのではないだろか。
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皆さま、ごきげんよう
(C)Pastorale Productions- Studio 99
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その「ノンシャランに笑い飛ばす」と紹介する文章が多いが、それに身を委ねる快感が確かにあるのだ。
今回は鑑賞前にパーティーでワインを飲んでいたので、少しばかりウトウトしたのではないかと思うが、それで丁度いいぐらい。
ただ、画面がちょっと暗いのはちょっとどうなのかと思う(スチール写真はかなり明るいのだが)。それも計算の内なのだろうか?
◆『皆さま、ごきげんよう』allcinema ONLINEの解説から引用
「月曜日に乾杯!」「ここに幸あり」の巨匠オタール・イオセリアーニ監督が、中世フランス革命の時代から近代の戦場、そして現代のパリを舞台に、混沌とした世の中で繰り広げられるユニークでアナーキーな登場人物たちの営みを軽妙かつ詩的なタッチでユーモラスに切り取る不条理ファンタジー・コメディ。主演は「アメリ」のリュファス。共演にアミラン・アミラナシヴィリ、マチュー・アマルリック、トニー・ガトリフ。
現代のパリ。覗きが趣味の警察署長が監視しているのは、武器を横流ししている元貴族のアパート管理人。彼と、骸骨集めが大好きな人類学者は切っても切れない不思議な縁で結ばれた悪友同士。そんな中、街では警察によるホームレスたちの一斉排除が開始されるのだったが…。 |
/// end of the “cinemaアラカルト354「オタール・イオセリアーニ映画祭」”///
(追伸)
岸波
なるほどなぁ、全く知らない監督だったが映画について調べると只者ではないのがよく分かった。
日常のさりげない風景から切り出して、深い人生のテーマを投げかけて来る・・「たくらみ」を持った監督なんだな。
”悲しさがコメディになる”ということに気付かされる。
心に刺さる記事だったよ。
では、次回の“cinemaアラカルト2”で・・・See you again !
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皆さま、ごきげんよう
(C)Pastorale Productions- Studio 99
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